第2話 出会い

「おはよう、日向」

「おう」

この日はちょうど、二年に進級した日でクラス替えが行われた。クラスには、僕の数少ない友達が居て、今はその友達の一人と挨拶をしたところだ。その後は、その友達と他愛もない会話をして、新たな担任の先生が来るのをのんびりまったり待っていた。

「はいは~い。みんな、席に着いて」

教室に入ってきたのは、一年の時に数学科を担当していた女性の先生だった。名前は思い出せないけど、この先生は正直なところ得意ではない。新学期早々、最悪の出足だ。

「んじゃ、放課後はうちでゲームな」

「おう」

友達と軽い約束を交わして、僕は自分の席に戻った。

「は~い。新学期恒例の自己紹介を――」

厄介なイベントが始まってしまうと、クラス全員のテンションが下がったのを感じた直後、

「その前に、みんなに転校生を紹介します。入って」

とテンションが上がる言葉で、教室が一気に温まった。転校生は女子なのか、男子なのか。可愛い、もしくはかっこいい。はたまた僕みたいにビミョーなのか。クラス中からいろんな声が聞こえてくる。その声を切り裂くように、教室の前の扉がゆっくりと開かれた。


 時が止まった。そんな感覚に襲われた。開けられた扉からは、ものすごく小顔で、すらりと細身で、歩くという誰もがしている動作でさえも美麗な女子が入ってきた。

 そうだ。僕は生まれて初めて、一目惚れと言うものを経験した。

「それじゃあ、自己紹介を」

先生がそう促すと、その女子生徒はゆっくりと通学かばんを置いて、小鳥のくちばしみたいな小さな口を開いた。

「水無瀬飛鳥です。お願いします」

たった二言。水無瀬さんは綺麗な声でそう言って、、無表情のまま床に置かれた通学かばんを持ち上げた。

「そ、それだけ?」

さすがの先生も驚いて訊き返すけど、水無瀬さんは意に介さずコクっと小さく首を縦に振った。それを見て、クラスからはまばらな拍手が送られた。

「じゃあ、席はあそこの空いているところね」

「はい」

水無瀬さんは小さく返事をして、こちらにゆっくりと近づいてくる。そして、僕の左側の席の椅子を引いて、ちょこんと座った。

「あ、あの。よろしくお願いします」

緊張をなんとか落ち着かせて、震える声であいさつしたけれど水無瀬さんからの返事はなかった。この時の僕は、完璧に無視されたのではなく、クールな人なんだなとすごく前向きな解釈をしていた。

 それからの学校生活。水無瀬さんは他人とのかかわりを一切断ち、誰とも慣れあわず、もちろん誰とも話さないまま、あっという間に一年と言う月日が流れた。この一年間、僕の気持ちは変わることなく、ただ一心に話したこともない水無瀬さんのことを想っていた。

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