第3話 ピンチ?

「お前さ。水無瀬さんのこと好きなの?」

三年になって早々、親友の高原に突然きかれた。

「は、はっ? わ、悪いかよ……」

図星過ぎて、僕は動揺を隠すことが出来ず、少し視線を外したまま小さく返事をした。

「いや、悪いとは言わないけどさ……」

「なんだよ」

高原が口ごもったので、急かすように聞き返すと、

「正直言って、お前じゃ釣り合わないって言うか」

と、予想通りのことをすごく言いづらそうに言ってきた。

「そんなこと、分かってるよ……」

そう。そんなこと、自分が一番よく理解している。平民は、お嬢様とは付き合えない。所詮は叶うことのない恋。分かってる……。でも、自分以外の人に改めて言われると、こんなにも心が痛むのかと、このとき身をもって思い知らされた。


 こんな何の取り柄もない僕の初恋は、生涯実ることない、たった一度の青春の甘酸っぱい一ページに終わるんだ。

 そう思っていた――。


 水無瀬さんと出会ってから、一度も会話をすることなく、ただ遠くから眺めているだけの学校生活を送って、一年と数か月が経ち、高校最後の夏休みに入った。三年の夏休みと言うのは受験勉強一色で、友達と家でゲームするとか、ゲーセンに行って無駄に金を使うとか、そんな楽しみはなかった。

 そんな何の面白味もない夏休みを嘆き、気分転換のために僕はこの辺では一番栄えていると思われる駅前に出かけた。

「はぁ……。高校三年間、女っ気も青春の二文字もないまま終了か……」

漫画やアニメ、映画で見ていたキラキラで華やかな高校生活に諦めを感じながら、ぼんやりしたまま薄暗い裏路地の前を通ると、微かに男女の声が鼓膜を揺らした。

「昼前から何してんだよ」

僕も一端の高校生。流石にそういうことにも興味があって、ちらりと物陰から路地を覗くと、男が強引に女子の腕を掴んで、どこかに連れて行こうとしているというバイオレンスな現場を目撃してしまった。女子の顔は暗くてよく見えないけど、嫌がっているのは動きから嫌がっているのはよくわかる。

『やめてください!』

路地から鮮明に聞こえてきたその声。忘れるわけがない。一年と数か月前に一度だけ聞いた、美しい声。

「水無瀬、さん……?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る