第2話 2度目
失声症って、なんだ。
俺は小さなメモ紙を、穴が空きそうなほど見ていた。
文字通りの意味だと、声を失っているという意味だと気がつくのに時間がかかった。
動揺が隠せない。
あの美しい歌声はもう聴けないのか?
あの時のような笑顔で歌っていた彼女の面影は、正直あまり感じられなかった。
顔が変わったとかではなく、心のどこかに闇が潜んでいるような、そんな笑顔だった。
1時間目の数学の授業を受けた後、一人の男子生徒が俺の近くにやってきた。
「黒須君、俺の名前は山田明人。
担任の川瀬先生から黒須君に校舎案内するように言われたんだ。
放課後にでも校舎案内しようと思うけど、今日は時間大丈夫そうかな?」
「今日は時間あるから、お願いしてもいいかな」
「分かったよ。他に、わからない事とかあったら、遠慮なく俺に聞いてくれて構わないから」
そう言うと、山田君はニコっと笑った。
「ありがとうございます」
「タメ口でいいのに」
「分かった。じゃあタメで話すよ。ありがとう、山田君」
すると、隣の席にいるこいろちゃんが、スッとメモを渡してきた。
『私達もタメ口で話そう?』
「勿論だよ」
俺は嬉しくなって、笑顔で言った。
すると、こいろちゃんもニコリと笑った。
かわいいー。
「小林さん、おはよう」
山田君がこいろちゃんにそう言うと、お互い軽く頭を下げあっていた。
「次の時間は国語なんだけど、最初に漢字の小テストあるんだ。
えーっと、何ページだったかなぁ・・・」
山田君が俺の教科書をパラパラと捲った。
すると、こいろちゃんがメモを渡してきた。
『42ページ』
「そうだった!ありがとう小林さん。ここから10問出るよ」
転入初日で小テストがあるのは勘弁してほしい。
漢字の暗記は苦手な方なのだ。
そういえば、こいろちゃんはずっとノートに漢字を練習していた。
俺も暗記しなきゃ。
「俺、小テストの勉強してないから、一旦席戻るわ」
「分かった、ありがとう」
手を振りながら、山田君は自席に戻った。
隣のこいろちゃんの横顔を見る。
綺麗なフェイスラインに、大きな目。シュッとスリムな鼻先。
俺の視線に気がついたこいろちゃんが、真剣な表情から優しく微笑んだ。
その笑顔が可愛くて。
俺は2度目の恋に落ちたのだ。
授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。
もう、授業なんて身に入らなかった。
隣に座っているこいろちゃんが気になっているからだ。
ドキドキしながら授業を受けていた。
お昼休みは、購買でパンを買ってきて自席で食べた。
こいろちゃんは持参していたのであろう、お弁当を自席で食べていた。
「ここー?」
一人の女子が誰かを呼びながらこっちに近付いてきた。
こいろちゃんがその女子に手を振る。
もしかして小林こいろだから、あだ名が《ここ》なのかな?
「ここ、さっきの国語の小テストどうだった?」
こいろちゃんが首を横に振る。
「えー、国語の得意なここが!?」
女子が驚いた声を出して、こいろちゃんと話をしていた。
と同時に、山田君が俺の席に来た。
「そうそう黒須君、部活どうするの?」
「あー、俺は帰宅部でいいかな」
「俺と一緒に合唱部入らない?」
「合唱部?」
「男子の人数足りないんだよ」
山田君が手を合わせて「頼む!」と言う。
音楽聴くの好きだし、歌うのも嫌いじゃない。
「入るよ、合唱部」
「わー、ありがとう!今日、部活動見学出来るから、一緒に音楽室行こう」
「オッケー」
「じゃあ、放課後な」
「うん」
お昼休みが終わり、午後の授業を受け終わった。
俺は山田君と校内散策をしたあと、音楽室へ向かった。
声の出せないセイレーン 白兎白 @byakuren
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。声の出せないセイレーンの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます