第2話 雪の現況報告①

どんなに科学技術が進歩したところで、人の底は変わらない。

気に食わない人間は排除したいという利己的な黒い欲望の捌け口が俺達殺し屋である。

依頼を受けて対象を処分。ただそれだけの仕事を日々淡々とこなしていた。

具体的内容については他に特筆すべき所は無い。


この仕事を始めて20年経った時、唐突に人生の終わりを告げられた。

日々の生活で誰かに不意をつかれたのではなく、原因は発見の遅れた悪性リンパ腫によるものだった。

職業柄、他者の殺気には敏感ではあったが、流石に体内部からの殺気は対処の限界がある。

若者とも言えない年だったが、それにしても死ぬには早すぎる年齢で俺は半年ほどの入院の挙句、誰に看取られることなく息を引き取った。

ただ、幾人もの人を殺してきたツケが回ったのだと納得していたから、己の死についても淡々と受け入れられた。



受け入れられなかったのはそのあとである。



次の瞬間、俺は見覚えのない病院に仰向けになって寝ていたのだ。

病院というにはあまりに古臭い。心電図やナースコール、点滴といった設備もなく、ベッドも簡易的なものだった。


鏡を見れば知らない人間が目の前に映っており、周りの人間の口から魔法や魔力といった聞きなれない言葉が飛び出てくる。


生まれ変わったのだと自覚したのはそうした混沌の時に飲まれて3日が経った時だった。



俺…というよりは俺の意思を持つこの男は付近の河川で発生した大洪水に巻き込まれて重篤であったところ、この病院に運ばれたらしい。



奇跡だ奇跡だと周りから騒がれながら退院して病院を出たが、自分自身が奇跡と思ったのは、魔法を使えた事である。

どういうわけか魔法の使い方を俺は理解していた。まるで誰に教わる事なく呼吸が出来る赤子のように、本能的に使えるようだった。


それが構築魔法である。

自身で想像した物質を創造する力。創造した物質は任意に消去、何もせずとも数時間後には消去されるこの魔法は中々使い所があった。


それは言わずもがな、殺し屋稼業である。


創造すればよいのだから弾が実質的に無限の銃を創造出来る上、ナイフも同様。

さらには記憶している簡単な麻酔等も作ることが可能である。

細かい構造の理解が構築には不可欠なため、最先端の技術や毒の創造は困難ではあるが、魔法以外がおよそ19世紀程度の科学技術の世界ではそれらが無くとも大いに優勢に立てる。

 加えて衣服は周りに合わせたものを創造し、数時間おきに着替えれば変装にも大いに役立つ。


おかげで金銭的にも充分満足出来るようになった。

より安定した金銭を得るために対象を悪魔と契約して魂を穢した魔者に絞っているのもさほど大きなリスクは今のところ無い。それどころか善行をやっているような錯覚を覚える。気分も上々。


以上が、俺の現在の状況である。








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転生殺し屋は夢を見るか 杜若椿(かきつばた つばき) @maplelove

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