転生殺し屋は夢を見るか

杜若椿(かきつばた つばき)

第1話 殺し屋 “雪"

元いた世界で、電気がエネルギーとして重要であるように、この世界では魔力が重要なエネルギーである。


しかし、電力は火は水や風、波や地熱、原子力を利用して作ることが出来るのに対し、魔力は人間生まれ持つもののみしか得ることが出来ない。

そして全ての人間が魔力を享受出来るわけではない。

故に、生まれつき魔力を備えたマイノリティは、将来的に魔道士として、貴重な資源として戦力として尊重され、国から多大な恩恵を受ける。


魔力を持つ者と持たざる者の社会的地位の差は圧倒的であり、魔力無きマジョリティの生活様式は良くてせいぜい19世紀後半の様相を呈する。


生まれ持った素質で差別が生じる残酷な世界。

だからこそ劣勢を強いられた大多数の者の一部は、文字通り悪魔に魂を売る所業をするのだろう。


後天的に魔力を得ることが出来る唯一の方法である悪魔との契約。

魅力的であると共に、非常に危険な行為。


当該契約によって魔力を得た人間は魔者マモノと呼ばれ、人間社会と一線を画した存在と認定を受ける。







それを殺すのが、俺の現在の仕事である。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


1人の男が煉瓦造りの暗い路地裏を歩く。

その足取りは重く、しかしどこか使命感を持ったようなしっかりとしたものだった。


月は陰り、星灯り一つない暗い夜だった。


男はその路地裏の最奥まで来て、ピタリと足を止めた。


「待ってたぜぇ、レブロンさんよ」


レブロンと呼ばれた男の前には、10人ほどの若者。

その中央にいるリーダー格の男は長い金髪を揺らし、タバコを吹かしながらレブロン氏に話している。


「ここに来たってことは、覚悟ついたんだろうなぁ?」


「あ、ああ…だが約束は守ってもらうぞ…!」


レブロン氏は脂汗を垂らし、声を震わせながら頷いた。


「あんたの娘に魔力を与える代わりに、アンタの命を好きに出来るって事だろ?契約だからなぁ、当然守るぜこっちもよ」


リーダー格の金髪男含む若者達がニヤリと笑う。


「だからさっさと契約しようぜおっさん」


「そ、その前にアンタらは本当に悪魔なのか?それを証明してくれ…」


レブロン氏はじっと若者達を睨みつける。

しかしそんなレブロン氏に対して若者達はニヤニヤ笑った。


「おいおい、中年のおっさんがいきんなやぁ?これでオレらが機嫌損ねて契約しなかったらお宅の娘さんどうなんだあ?」


「…!」


「娘さん魔力無くて苦労してんだろ?だったら親としては少しでも我が子には幸せになってほしいよなぁ?」


「それは…」


「困るよなぁ?魔道士にならずともこのまま底辺這いつくばって一生終えて欲しくねえよなぁ?あぁ?」


「…すまなかった、気を悪くさせて申し訳ない。」


レブロン氏は弱々しく頭を下げる。


「解りゃいいのよ解りゃ!じゃあ早速契約…とその前に前金貰おうかなー?30万Gきっちり払ってもらうぜ?」


リーダー格の金髪男は手招きをし、それを見ての若者達の高笑いが狭い路地裏にこだまする。


「あ、ああ」


レブロン氏は懐から布の小袋を取り出す。

チャリンと小気味の良い音が鳴る。


「さぁそれをわたs」


次の瞬間、金髪男はドサっと地面に体を打ち付けて倒れた。


「お、おいデニー?」


「何してんだよ?」


周りの若者達が狼狽えはじめる。


「大丈夫かy」


そして若者の1人も倒れた。


1人、また1人。音もなく突然意識を失ったように次々と倒れていく。


そして最後にはレブロン氏を残して若者全員が地に伏せた。


「な、なんだ…?」


レブロン氏は目の前に起こった出来事に信じられないというように頭を抱えている。



まぁ、その驚きは当然だろう。

俺がやったのだから。



路地裏を形作る家屋の屋根から若者全員に麻酔用の銃弾を撃ち込んだ後、そのまま静かに屋根から飛び降りる。


「な、なんだ…?」


目の前に知らない人間が現れた事にレブロン氏は戸惑う。


「無事で何より。」


魔法を解除して麻酔銃を消し、そのまま倒れた若者達とレブロン氏の間に割り込む。


「こ、これは君がやったのかね…」


その問いには答えず、若者達に目をやる。

当たり所に間違いは無いはずだが、麻酔の量や成分を構成するのは緻密な想像と計算が必要だから懸念していたが、その点も問題は無いようだ。


「と、とりあえず助かったよ…礼を言おう」


「そうですね、助けられて良かったです。」


声色に変化が無いのは生まれつきである。

フードと星明かりない夜の影響で、レブロン氏からは見えないだろうが無表情でもあるだろう。


そんなことはどうでもいい。


「仕事をするので。」


「あ、ああそいつらを連行するんだろ?助かるよ」


レブロン氏は額の汗を拭いながらせこせこと頭を下げる。心なしか目の焦点が定まっていない。


そろそろだな。



「いえ、俺の仕事対象は」


構成するのはナイフ。


「あなたですよ、レブロン氏」


そう言い終わるか終わらないかのうちに、俺はナイフでレブロンの喉を切り裂いた。


黒く濁った鮮血が闇夜に飛散する。


「ヴ、ヴォォォ!?」


「弱みある中年男性のカモを装い、寄ってきた後ろ暗い人間を尽く喰らう魔者、ゴルティ・レブロン氏。貴方にはここで死んでもらう。」


淡々と口上を述べながら、ナイフを消す。

返り血や付着した血を拭う必要が無い点についてみれば、自身の想像した物質を創造する構築魔法というのは非常に便利だ。


レブロンはヒューヒューと切れた喉から必死に音を鳴らす。

その顔は既に人ならざる鼻の潰れた狼のような化物へと変貌していた。


「なるほど。確かに悪魔に変化すれば人の何倍もの力を身につけることが出来る。だがまあ…」


変化した分厚い毛むくじゃらの手で患部の出血を抑えながらレブロンは唸り牙をむく。


そしてそのまま飛び掛かってきた。


「残念ながら急所は人と変わらない。」


眉一つ動かすことなく片手間に創造したマグナムでその不細工な顔を破壊した。

火薬の匂いと腐ったような血の匂いが路地裏に漂うが慣れた臭いなのでさして気にもならない。


「30万ゴールドに感謝を。」


レブロンの懐の小袋を取り出して自身の懐にいれる。

報酬と合わせれば50万、これで3ヶ月は生活出来るだろう。

一定時間経つと消える構築魔法では、金に関してはどうしようもできない。


マグナムも消す。

魔者の死骸は時間が経てばその痕と共に消える。

若者達も俺の姿を認知した者はいない。


証拠が残ってないことを確認し、路地裏を出る。




たとえ世界が変わっても、俺のやることは何も変わっていない。


依頼を受けて対象を処分する。


ただそれだけである。


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