7話 四日目。天国か地獄か
夜更かしをしてしまった。
ストリスから、ノートやペンのたぐいも出てきたので、
『宇宙大作戦 スター・トレック』のカーク船長のように航海日誌でも付けようかと思ったのだが、
気が付いたら落書きに耽っていた。
消息不明の、卍・シークレットファイルの代わりにするような勢いで。
「2抵スまス擾ス偵?? 時刻AMュ01:34」
時間を見やると日付けが変わって、とっくに四日目に入っていた。
ちょっと、外の空気を吸いに出た。
真っ暗だ。
夜更かしして、朝寝坊しても学校もなく、オカンにうるさく言われないのもいい。
──例えるなら、そうだな。
この状況というのは、
修学旅行で乗ってたフェリーが難破。
海に放り出された我は、たまたま溺れかかっていた仁科を見つけて助け、ずっと泳ぎ続けた。
我々は、いつしか無人島に流れて着いていた。
……日本近海に、人が暮らせて、まったく立ち入る者がない無人島なんてあるのか知らぬが。
とにかく、その島で生涯、一緒に暮らすほかなくなってしまった。
男は我だけ。女子もまた仁科だけ。
もはや……け、け、結婚! するしかないという。
そんな妄想がリアルに爆誕したらしい!
なんと言っても、この世界に男は我一人! ……かもしれないのだ。
『異世界転生したら、性格に難がありだが陽キャ美少女と結婚することになった底辺隠キャの我』というところだろうか。フフフ……。
仁科は、我のどエロい妄想用の嫁であったが、
そんな不満を言うのも贅沢というものだろう。
あれだけ、容姿端麗なのだ、性格の悪さくらい目をつむろう。
早くも我に嫁が出来て、そしてどエロい伝説へ! なんてな。フハハハハ!
*
朝早く、仁科に叩き起こされた。
もう少し寝かせてくれまいか。
昨日は夜更かししてしまったのだ。学校に行く必要だってないのだし。
せめて、朝の九時過ぎまでは寝かせて欲しい……。
「おはよう! 朝やで、凛一くん、早よ起きや」
仁科はそう言ながら、家のドアをドンドンと叩いた。ノックではない。
乱暴にドンドンとだ。まあ、ドンドンでもいきなり入って来ないというだけでも成長したか。
我は無視を決めて寝続けた。
すると、ドアを開け、家に入って来たかと思うと、掛け布団を引っ剥がした。
「せっかく、天気ええねんから、布団くらい干しや!」
家の前にもジャングルジムがあった。
いや、これはストリス・サークルにある公園にありそうなものとは違うな。
何か構造物の骨格のような……。途中で、何かを建てることを放棄でもしたのだろうか。
プラモのランナーが立ってるようにも見えた。
これまた前衛的なジャングルジムと言ったところか。
そんなものが、各三軒の家の前にはあった。
まあ、洗濯ものを干すのには丁度良い物干し竿となった。
風が強めなので、洗濯ばさみで厳重に留めておかねばならなかった。
我が布団を干し終えると、仁科が近付いて来た。
「凛一くん、借りるで」
な、何を? そう思ってると、仁科は我の着てるパーカーを奪いにかかった。
「ちょ、な、何をするのだ?」
何か仁科に考えがあるのだろうか? とも思い、我は抵抗するのをやめて、仁科にされるがままになってみた。
スニーカーに、トランクス一丁の姿となった。
「な、何なのだ?……」
少しキョドりながら、仁科は言った。
「洗濯しよと思って」
「洗濯? そ、それなら、自分でするが」
洗剤もあったので、毎日トランクスは洗濯していた。
「三十分くらいで乾く乾燥機でもあればええねんけど、ないやんか。たぶん干してから乾くまで半日くらいはかかるんちゃうかな」
「……それが?」
何故、我はパーカーを奪われなくてはならないのか。
「その間、ずっとわたしにセミヌードでいとけって言うつもりなん? ヘンタイやな」
あ……。そうか、衣類はそれぞれ一揃いしかないのだったな。
トランクスは割と早めに乾くものの、その間はノーパンで過ごさねばならなかったな。
「せやから、わたしのパーカー洗濯して干してる間は、あんたの着て過ごすしかないやん。あんた男子やから、恥ずかしいことないやろ」
まあ、そうだが、むしろ、仁科の方が恥ずかしそうにキョドっていた。
「な、な何か不服そうな顔やな。そんなにわたしのセミヌード見たいんやな」
ドキっとしつつ、しかし言ってやった。
「だ、だれがキサマのようなペッタラコなど」
「やっぱり、しっかり見たんやんか! ヘンタイ! てか、まったく無いみたいな言い方せんといてよ! ……平均より、ほんの少しや。ほんの少し小さいだけですう。絶賛成長中ですう」
必死だな。
しかし、我をヘンタイ呼ばわり……。仁科は、卍・シークレットファイルを見たのだろうか。気になるところではある……。
「た抵スまス擾ス偵?? 時刻AMュ08:34」
パンいちのまま、ストリス・サークルでカロリーメーツを食べていた。朝食だ。
「凛一くん、ルールわかってるよね」
そこへ、オフホワイトに淡いピンクのツートンのパーカーを着た仁科が詰め寄って来た。
我のパーカーだ。
「う、う、うううむ。風呂にトイレが無いのだしな。仁科が、もよおしたおり、我は……」
家が三軒あっても、何故か風呂にトイレはなかった。
ゆえに川で済ませるしかなかろう。風呂は特に、日中の暑いうちに。
「よし、ほな大人しく縛られてもらうで」
確かに気持ちは解る。我とて、仁科に気付かれないよう、コソっとうんこをするのは恥ずかしい。
しかも、流れていかなかったら、原発事故のようになってしまうだろう。
まずスニーカーとトランクスを脱いで、
ある程度、川の流れが速めのところまで行く。
その時、丈の長いパーカーの裾をしっかりまくり上げて!
片手に持ったトイレットペーパーを落とさないようにしつつ!
かなりマヌケだな……。
仕方ない。
我はため息をつきつつ、大人しく、ロープでストリス・サークル内にあるジャングルジムに縛りつけられ拘束された。
……なんだか情けない気がする。
気のせいだろうか。仁科の目が生き生きとしているように見えた。
それにやや呼吸が荒い。
興奮ぎみってことか? 楽しんでるような気がしてならない……。
でも、我の方は……。
川を風呂やトイレの代わりにする都度、
仁科……女子を縛るとか、さすがにまずかろうな。
てか、恥ずかしくてそんなこと出来そうにない!
まあ、我は男だしコソっと済ませればいい。
わざわざそんなことをする必要もなかろう。
仁科はどSで、男を縛るのが好きな性癖とかだろうか。
ぬーん、だとしたら困ったな。
我は、どMではない……。
――地震の影響による断水があった夜の件を思い出していた。
仁科にいいようにされ、召し使いのように仁科の背中を流したんだったな……。
その時、トラブルがあり、
我はお仕置きされることとなった。
二人して風呂から上がった後、
仁科宅へとしょっ引かれた。
そこで何が待ち受けているのやら不安だった。
仁科の父親もちょっと苦手だ。
我の顔を見ると、何かと際どい下ネタを振って来るのだ。
ソープランドとやらの話だとか。
我はまだ十三歳。それがどういうものなのかが、よくわからんのだが、
我はその時、仁科とソープランドのようなことをしたばかりのような気がして、尚更、気が引けた……。
幸い、仁科の父親はまだ帰宅していなかった。
仁科もそれを機に、これ幸いとばかり……。我を……。
椅子に座らされ、後ろ手に腕を縛られ身動き出来なくされた。
いったいこれから――お仕置きとは?
何をされるのか? そんな不安でいっぱいだ。
「な、何をするつもりだ?」
「せやから、わたしの胸を見たお仕置きやんか」
「そんなの不可抗力だろ。事故だ、トラブルだ! それにほんの一瞬でよくわからんかったわ! 見てないに等しいだろう!」
「うっさい! それでも、憎ってらしいあんたに拷問や拷問。くすぐり地獄の刑に処す!」
「ご、ご、ご拷問?」
得体の知れない恐怖を、感じずにはいられなかった。
「身動き出来へんあんたを拷問したかってん。これでな」
仁科が悪魔のような笑みを浮かべながら、我の顔にずいと突き付けてきたそれは――。
「お父さんの部屋にあったんや。超強力なマッサージ機。大人になったら、こんな強力なん使わんとあかんほど肩凝ったりして大変やねんなあ」
大きめのマイクのようなハンディマッサージ機だった。
「ま、まま、ま、まさか、それで我を!?」
「前からいっぺんこれで、凛一くん責めまくってみたかってん。身をくねらせ、ヒーヒー言わせたかってん」
――に、逃げられぬううう!
「スイッチ、オン!!」
仁科は、無慈悲にもピンポイントで我の乳首に押し付け…………。
我は情けなくも――いや、情けなくてもいい! 泣きながら、許しを乞うのだった……。
想像以上の壮絶な刺激に、おかしくなりそうだった。
ガクガクと身を捩らせ、悲鳴を上げていたのだった。
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