3話 三日目。肝心なものがなくてエロい件

 時間がわからない。

 体感では、もう夜だと思うのだが……。


 三軒あるうちの一軒の家の中で、

半ば途方に暮れつつ、ベッドで横になってると、仁科が入って来た。


「わたしの仮住まいしてるところ、入って来る時は、ちゃんとノックしてな」

 ノックせず入って来た仁科は言った。


 我が横になってるベッドに仁科は腰掛けながら、付け足した。

「……ほんまに、こんな世界のこんな家で寝ることになるんか」

「ここは我が泊まる家だ」


「うん、妖怪フエナメさんの家やね」

「誰のせいだ。妖怪フエナメなどと呼ばれるようになったのは」

 ……そういや、仁科は演劇部だけあり、

演技するのが上手いということをコロっと忘れてた……。

 自作自演だったなぞ、直ぐ思い当たりそうなものだったのに、何たる不覚か。

 

 もうマジ、学校に行きたくない。

 我の卍・シークレットファイルまでシェアされてるとあっては尚更…………。


「実は作戦失敗やってん」

「何の作戦?」

「リコーダーの頭管部交換作戦。

ほんまはあんたの弱み握ろうと思って考えとってんけど、

あんたが、わたしの頭管部とコッソリ交換してたって事にして、

もしそのことバラされたなかったら、

わたしの下僕になってもらうで〜って、脅したろうと思ってな」

 フエナメなどと呼ばれることにはならんが……。そっちはそっちで悪夢だな……。


「けど、あんたが、みんなにヘンタイ、キモいって言われまくって泣きそうになってたんも面白かったわ」

「……そのうち、ウラミ晴らしてやる」


「うん、楽しみにしてるわ。おやすみ」

 仁科は言いながら、ひと部屋しかないこの家から出て行く。


「まあ、元々はあんたがいつまで経ってもキスしてくれへんから、やってんけどな」


 ――えっ!?

「というのはウソやけど」

 一瞬とはいえ、ドキっとした我はマヌケだ……。


 もし、暫く、ずっとこのままの状況が続いたら先が思いやられる……。

 これが仁科ではなく、啓子くんのような控え目な女子ならまだしも……。

 

 *


 三日目か……。 

 どうも落ち着けんと思いつつ、思いっきり寝ていた。


 それにしても、この世界の朝の空気はすこぶる美味い。

 パキっと澄んでる感じで気持ち良かった。

 

 夜は肌寒くなるが、日中は結構暑くなる。

 昨日はそうだった。……という言い方も何かおかしいな。


 というのは、ここでは「夜」やら「日中」という言葉では、混乱しそうだった。


 おかしな事に、昼を過ぎた辺りに日が暮れ始めるのだった――。 


 更に、夕飯を食べようとする頃には、また日が昇り始める……。


 深夜になってようやくというか再び、日が暮れ、朝起きる頃まで夜という、一日に夜が二回訪れるといったおかしさだった。

 どうなってるのか。

 しかし、絶えず風がちょっと強い。



 仁科が懸命に操作していた。

「ストリス・サークルで、歯ブラシ以外にも、石鹸とかも出てくるし助かるな。生活に必要なものは大体揃いそうや」

 我も操作を試みた。

 しかし、依然、文字化けで文字の意味はわからんかった。

「??ス抵ス抵ス擾ス偵??譎ょ時。?ュ?0シ呻シ2抵シ」


「せやけど、あかんわ。下着に着替えだけは、ストリスをどう操作しても出てけーへん。なんでなん? 他のもんは出てくるのに。ストリスさーん! なんとかしてよ」

 仁科は、ストリスに向かって不満をぶつけていた。



「下着に着替えは、目が覚めた時、サークル内のテーブルに置かれたとったんやけど。着替えがないとか、それは困るな、あと、トイレもお風呂も…………」

 仁科はかなり困った様子だった。

 一日も風呂を欠かしたくなかったんだったな。

 もとい、我とて他人事ではない。

 仁科は更に呟く。

「ど、どないしょう?」

 

「しかし、何という広大な景観か」

 建物が一切ないとか、どうなっているのか。

 ゆえに大原野が一望できていた。


「あっちの山、富士山の三倍くらいは高いんちゃう? 青い山脈に、白い雪が練乳のように降りかかってるな。少し遠くに海も見えるで」

 海に流れ込む大きな大河も遠くに見える。

 もうひとつ小さな川もストリス・サークルの側に流れていた。


「空がヘンや。どんな気象現象なんやろ」


「うむ、最初はもの凄い数の飛行機による飛行機雲かと思ったが、飛行機なぞ一切飛んでいないな……」

「飛行機雲か。ちょっとちゃうんやない? 東から西へと、平行線状になっとって、空は見渡す限り青と白のストライプやな」


「方角なら、西から昇ったお日さまが東に沈む、それでいいのだ! という歌がある。しかし、それは天才の発想であり、凡人である我は、その逆であるという具合に覚えている」

「……凡人以下やろ。成績全滅とかあり得へんわ」


 カチンときて言ってやった。

「空は、ふ、ふ、ふうむ。に、に、にに仁科のシマパンのようだな。かわいいウサちゃんワンポイントなど付いてたりするのだろう。フフフ」


「わたしはもうそんな子どもっぽいの履いてません!」         

 どうだかなと思いつつ空を見ていた。

 つくづく不思議な空模様だった。


「でも、あれはなんやろ? 雲より高い巨大な塔とか!」      

 仁科は四方をぐるりと見渡して言った。仁科の指差す先には……。


「天空を支える柱のようだが、人間にあんなもの建てられれる技術があるのか? ……もしや、軌道エレベーターというものでは?」


「また、わからん事言うて。そうえば、思い出してんけど、あんたってプロレスごっこで覆面被っとったやんか、あんなん一体どっから持ってきたん?」

 プロレスごっこの話など唐突だなと思った。


「い、い、い以前にも何度か聴いてきたな。既に答えた通りだ。我が、か、か、かか買ったものだが」

「ホンマにいい?」 

 怪訝そうに仁科は言った。 


「う、う、うむ」


 べ、別になにもやましいことなど、な、ないんだからね! と言うべきか。


 仁科は、子どもっぽくはないおパンツとやらを、もう三日も履き続けて……は、ないか。流石にな。

 川でこっそり洗濯しているのだろう…………しかし、そ、そその間は、のののノーパンで過ごすことに!

 しゅ、しゅごい!


 *


「え? 凛一くん、泳ぐん?」 

 我は川の前まで来て、パーカーもトランクスも脱ごうとしてるところで、仁科まで着いて来てることに気が付いた。

 あっちへ行ってくれても良さそうなのだが……。


「ああ、丁度暑いしな。幸い、ストリス・サークルの側の川はすこぶる清らかなようだ」

 そう言っても、まだ仁科は去ってくれる様子はなかった。


「折角、からだをこするスポンジに石鹸やシャンプーのようなものもあるのだし、風呂代わりになるだろう」

   

「ふーん、お風呂代わりか。ドライヤーもあったしなあ。わたしも泳ぎたいけど、裸になるん恥ずかしい。大きめのハンカチをバスタオルの代わりにするとか……」

 そう呟きながら、ようやく仁科は去って行った。



「凛一くん、そのまま後ろ向いた状態やで。わたしがええでって言うまでやで! ちょっとでも覗いたら、またお仕置きするからな。誰か近づいてきたら教えるんやで!」 

 河原をちょっと上がった辺りで我は、仁科に背を向けて立っている。


 更に、草木と大きな岩が死角なっており、仁科の入浴シーンは見えそうにもないのだが。


 今日で三日目だ。流石に身体を洗い流したかったのだろう。

 仁科は我に声掛けながら、川を風呂代わりにしていた。どうも心細いようだ。


「気持ち良いけど、恥ずかしいし、どうもヒヤヒヤするな。全く、わたしら以外の人の気配はないけど、バリアになるもんも無い。この場合なんもないということが障壁っちゅうバリアやん。どないかバリアフリーにせなあかんわ」


「に、に、にに仁科、一体いつまで、我はこうしてれば良いのだ? 長いぞ」

 仁科はどうも風呂入ってる時間が長いようだった。


 地震のせいで仁科の家が断水になった日、我の家にやって来て夜遅くまで居座った時もそうだったな。

「もーちょい待ってな」


 **


 千景は、この世界に目覚め、一日目から、違和感を感じ思った。――変やなと思ってたら、わたしの髪が思いっきり伸びとった。


 三軒ある小さな家には、それぞれ鏡もあり、

ストリスを操作するとハサミも出て来たので、

千景はなんとか髪を切っていた。


 ずっとロングヘアが気に入ってたのだが、後ろ髪は肩甲骨の辺りまでで良かった。

 前髪を目の上辺りに、ぱつんと切り揃えて、髪を結わうゴムまであったので、ワンサイドアップにした。

 ストリスから出て来たものの中にはコテまであったので、前髪をゆるく巻いた。



 川を風呂代わりにする。

 ただでさえ、そんな事は女子である千景には抵抗があり、落ち着かなかった。

 更に髪を洗う時は無防備となってしまう。

 

 他にも、色々と違和感があって、ふと、もうひとつに気が付いた。


「あれ、凛一くんの髪って水色やったっけ?」 

 凛一は、千景がまだ裸で、もう良いとは言ってないので、振り向くことなく答えた。


「うむ、そうだが。我は生まれてからずっとそうであり、髪を染めたことなぞないな……ん? という仁科も髪の色が青かったか?」


「うん、紺やったよ。光の加減で紫にもなったりするけど……。でも、あれ? そうやったっけ?」

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