2話 テトリスの陽の下に その2
あと、この辺に人工物といえば、
──モヘンジ……。は、
没にされたのだったな──ストリス・サークルの側に止まってる、
あれは、乗り物だろうか?
長さ七、八メートルほどで、
電車より一回り小さい円筒形のあれは。
それだけは触ってみても、ストリスのように感覚的に操作方法が判る感じではなかった。
まったくわからん。
奇妙にも、ストリスのサークルから一歩出たとたん、風が強くなった。
サークル内は、見えない風よけ機能でも働いてるのだろうか。
……それにしても、ここはどこか?
この辺にちょろっと人工物があるだけで、見事になーんにも無い…………。
途方もない広大な、大原野の中なのだった。
緑豊かなのだが、植物層も全く見慣れぬばかりか、動物層もだった。
ダチョウのような足を持つ何かが、もうスピードで走ってた。
ありゃ、タコか? タコのようだ。
変だなと思っていたが、
そもここは日本なのか?
いや、海外にすら、そんな動物はいない…………ってことは、
何かマッドサイエンティストが実験でも行なっている島とか?
変な鳥の群れが飛んでる。
いや、鳥ではないな、コウモリか?
そんな翼に見えるが違うな。
木から木へと飛び移っていた。
まるでドラゴンの幼体のようだ。……と思えばよく見れば、あれもタコか。
イカが飛ぶというのは知ってるが、それでも海の上での話だ。ここは陸じゃないか。
タコの中でもコウモリダコの足というのは、悪魔の翼のように見えなくもなかったな。
フガフフガフガと鼻を鳴らしていたのはてっきり犬だと思ったが、
それは、子豚のようだった。
人間に対する警戒心があまりなく、チョロチョロと辺りを徘徊していた。
それも、よく見れば哺乳類ではなく、タコ。
なんだ、ここは? タコの楽園か?
ならば、昆虫はどうなっている? どんなのがいる?
我は俄然、好奇心でテンションが上がってきた。
辺りを見渡すと蝶が目についた。
なんせ、飛ぶのが速く、何気にしか確認できないが、まったく見たこともない模様をしていた。
日中に活動しているし、夜行性の蛾ではなさそうだが、例外もある。
ニシキオオツバメガなどは夜行性ではなかったな。
蝶との違いは触角で判る。
蛾の触角の先端は尖っており、
それに対し、蝶の触角の先端は、
手芸用のまち針のように可愛らしく、丸まっている感じだ。
「トリバネアゲハくらい大きいぞ。ジャコウアゲハの仲間か? 辺りに食草のウマノスズクサが在れば、幼虫やサナギが拝めるかもしれん」
「ちょっと! いい加減し! また、迷子になるで。早よ、家尋ねてみよ」
……そうだった。ここは残念ながら、今は仁科の言う通りであろう。
「ごめんください」と、仁科はノックするが、反応はなかった。
サークルから、この家まで舗装されており、道なりに歩いてきた。
ゴミがほとんど落ちてなかった。
「ドア開いてるで。ごめんください、失礼しまーす」
二人して、家の中を覗いた。
「……もぬけのからやん。大っきな鏡と、窓が三つに、ベッドにテーブルに椅子が一脚だけって、まるで生活感なし?」
ゴミひとつ落ちてないし、人が住んでた形跡もなかった。
「キッチン、冷蔵庫、バス、トイレもナシとか。なんかヘンやな……」
我はひとつ、違和感に気がついた。
「壁がおかしいぞ」と仁科に見てみるよう促した。
「なにこれ、紙みたい! 出入りした時、何か変やと思ったら壁がびっくりするほど薄いやん」
けど、かなり頑丈だな。まるでびくともしない。どんな技術だ?
「他の家も回ってみいへん?」
「では、手分けするか、あと二軒だしな」と言い、我は向かい出すと止められた。
「ちょ、ちょー待ってよ! 怖いから一緒にきてよ!」
三軒ともまわってみたが、最初の一軒とまったく同じだった。
「ほんま、だーれも居てへんとか、どないなってんの? なんで、わたしと凛一くんだけとか……」
「今は、一時的にどこかしらへ行ってるだけかもしれん。家も使われてないようだし、何か分かるまで我々が使わせてもらうか」
「鍵も付いてへんかったけど、大丈夫やろか。怖いなあ……」
衣食住、とりあえずは揃ってはいる。
何か分かるまでここで様子を見てみるしかなかろう。
我と仁科は、それぞれ、三軒あるうちの小さな家に泊まることとなった。
そこで、一息つく。
辺りの様子を見てまわっても、とても見切れる感じではなく、
慌ただしく一日が終わろうしていた。
本来ならいつも通り、学校へ行く筈なのだが……。
学校……。あ、そう言えば、我は自宅警備員初日のつもりだったのではなかったか。
そうだ、卍・シークレットファイルが何者かの手に渡ることとなり、
学校に居場所を失くして……。
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