第一章 無人の異世界であいつと二人っきり 肝心なモノがなかった!

1話 二日目。テトリスの陽の下に

 ──ホーギッチョギッチョギッチョ。 

 変わったなき声だな……。トリか? 野鳥でもやってきたのか。 


 ──フガフフガフガ。 

 なんだ? 犬? 犬が鼻を鳴らしてるのか。

 それに、われの周りをさっきからパタパタ歩きまわって、オカンが朝のしたくか。

 いつもながら慌しいな。


 ……というか、なぜ犬が我の部屋に? ……もう少し、あと五分。寝かせて…………。


 ──いかん、学校に遅れる!


 ……って、ここはどこ? 


 ようやく、目を覚ましたが、視界に入ってきたのは、まったく見なれぬ景色だった。


 あ、ああ。

 そういえば、今朝で二日目だったか……と、我は状況を飲み込んだ。

 とりあえず、飲み込んだということにしておく。

 ……また、屋外で寝てたか。


 硬い床に寝てたので、からだが少し痛む。

 上体を起こしつつ、辺りをうかがっていた。

 にしても、

ここはいったいどこなのか? 何がどうなって、こんなところに?


 ふいに、我の下半身の辺りにバサっと、何かが降ってきた。

 ――衣類だった。 


 無造作に投げてよこされた。

 まったく気配には気が付かなかった。 

 投げてよこした方を見やると、長い髪が風に翻弄されるがままになってる女子が立っていた。 


 ――仁科だった。仁科千景にしまちひろだった。


凛一りんいちくん、早よ服着てよ!」 

 その声で、ようやく我は自分が…………。

 

 ──ぜ、全裸だとおおおおお!?


 ……そういえば、昨日もそうだったはず。

 何故か気にしなかった。

 気にする、余裕がなかったのだ。

 頭もボーっとしてたし、あまりに寝過ぎたにしては、妙にからだが思うようにならなかったり、

何よりやたらと、喉が渇いてたりしていて。


 何かおかしいと思ってはいたが。  

 焦りながら服を着込んだ……。


 トランクスにスニーカー、長めの丈のパーカー、大きめのハンカチ。それだけ? ズボンは無いのか? 


 でも、まあ、これでもさほど問題は無いが。

 パーカーの丈が太ももの真ん中辺りまであった。 

 目の前のテーブルの上には、我の眼鏡とナチ帽があったが、もうそれ以外は何もなさそうだった。

 プロレスごっこをするおり、使用してたマスクまでは、さすがに。


 プロレスごっこでは、専らマスクマンであったが、普段は、眼鏡にナチ帽、ナチス将校風の帽子が我のトレードマークといったところか。


 もっとも、ナチ帽の鉤十字はオカンによって奪われてしまい、五芒星のバッジを代わりに付けていたが。   


 仁科も、我と同じような格好をしていた。

 仁科の方のパーカーは、オフホワイトに淡い青緑のツートーンに対し、

我が着込んだ方は、オフホワイトに淡いピンクのツートンだった。

 どちらも同じ位置にポケットがふたつあった。


 色的に男女逆ではないか? とは思ったが気にしなかった。


 うん? ……そういえば、我は、とてつもない重要な見落としがあったことに気がついた!


 ──仁科も一日目は、全裸だったのではないのか!


 おそらく、そうだったはず。

 何気に記憶してるものの、ぼんやりとしか覚えてなかった……。

 何故、我はそれに気が付かなかったのだ! 

 我が生涯、痛恨の不覚ううう! ううむ、一生、後悔するな……。



「えと、学校に行かねば……」

「は? どこから、どうやって行くつもり?」 

 仁科は、我を呆れたように見て言った。


「えと、ここはどこか?」

「さあ、知らん。こっちが聞きたい」


「……え、仁科なら知ってるかと」 

「たぶん、同じタイミングで朝、目を覚ましたらあんたもわたしもここにおったっぽい。わけ分かれへん……」


 ──ふむ。ここがどこなのか、まずは、知らねば話にならぬ、とようやく思った。


「このスマホが巨大になったような建造物が立ってるんて、何なんやろ」 

 その漆黒の立方体を見上げながら、仁科は言った。 


 確かに、巨大なスマホが立ってるようにも見えるが、妙だな……スマホのようにガラス? 

 ツルツルしているのに、いっさい光を反射してないとか。そんなこと、ありえるのだろうか。

 どんな、材質なのだ……。 


 部屋の扉より、一回り大きく、厚みは二十センチ近くある、あらまし四角柱に見えた。

 大小様々な大きさのキューブを積み上げるよう構成され、デコボコとしていた。


 割とまんまだったので言ってみた。

「これはモノリスだろうか」

 モノリスより、かなりデコボコしているが。


「モノリスって何よ。落ちてくるやつを、穴にはめて消してゆくゲーム?」

「一枚岩の意味だったと思う。よくわからんが、神に等しき存在によって創造された的な? アウストラロピテクスがペタペタとさわり、骨を投げると宇宙船になるのである」


「はあ? 全く、さっぱりわっかりませーん」


 ふむ、明らかに、まだ人類の手では造り出せぬような、技術にしか見えん……。 


 何らかの機械であるならば、どこかに型番の表記や、分解するための隙間やネジなどがあるハズなのだが、パカっとあけるところなど。

 それには、そういうところが一切、見当たらなかった。


 腹が減ったなと思い、何気なくモノリスをタッチすると――。

「繧ォ繝ュ繝ェ繝シ繝。繧、繝医??蜊∝?」とモノリスに文字が浮かび、

タンスの引き出しが開くかのように、

キューブ状のものが迫り出し、

その中から、カロリーメーツのようなものが出てくる。いくらでも出てくる。 


 公園で見かけるような水飲み蛇口、立形水飲水栓たちがたみずのみすいせんからは、

幾らでも水が出るようでもあったし、

とりあえず飢えはしのげそうか。 

 しかし、文字が読めない。なぜ文字化け?


「こっちは、生活雑貨が色々出てくるで」 

 仁科が操作したのだろう。

 別のモノリスから、さらに、熱帯魚を飼育するような大きめの水槽ほどの漆黒の立方体、キューブが迫り出しており、

そこからナベやらヤカン、トイレットペーパーなどを取り出していた。


「でもなんか、操作の仕方が感覚的に解るって言うか、頭にでも入ってるみたいな感じせーへん?」 

 そういえば、そうだ。確かに妙だな……。


 モノリス状のものが、全部で、……十ニ、いや十三基か。

 円環を成すよう並んで立っていた。

 その囲いの中に我々は居た。  

 


 この辺り一帯の地面は、キレイに舗装されており、少し枯葉などが落ちてる程度で、ゴミひとつ落ちてないと言っても、さしつかえないほど、手入れが行き届いているようだった。


 この円環の上には、円形の屋根が付いてた。

 屋根を支える柱らしきものは見当たらない。

 ただ、一本、丁度登り棒のような細い柱があるだけで、

それを柱というにはちょっと無理がある。

 どこで屋根を支えてるのか? ひょっとして、浮かんでる?

 


 遺跡のようにも見える。

「そういえば、ストーンヘンジ・サークルのようでもあるな」

「ああ、あれか、イギリスにあるやつ。モノ何とかって言うのんは知らんけど」 


 円環は、直径十メートルほどか。中は公園のようにも見えた。

 立形水飲水栓に加え、ドラム缶ほどの大きさのゴミ箱、

ブランコとジャングルジム、

ゆりかごのようなベビーベッドに、

子ども用の電動乗用カーが三台、

中央には長方形のかなり長いテーブルに、椅子は合計で、十二脚あった。


「では、モノヘンジ・サークル公園といったとこか」

「モノヘンジって、なんや語呂がわるいな」


「なら、ストリスか。いや、モヘンジか。モヘンジ・ダロのようだな。ダロとは古代パキスタン語で公園という意味だ」

「へえ、そうなんや」

「ウソだ」

「どついたろか。モヘンジなんか没や」


 しかし、現在進行形で使用可能ということは、遺跡とは違うのだろう。 

 そういえば、このサークルの外で、

何かが動きまわってると思ったら、

あれはロボットか! 白い立方体で構成されてるものの、人型だ。連邦軍? 

 そのロボットたちが二、三台動いていた。

 何の作業してるのやらわからぬが。


「側に、小さな家が三軒あるな」と口をついて出た。 

 サークル内を出て、直ぐの辺りに、やけに小さな家が三軒あった。


「ちょっと誰か居てないか尋ねてみよ? ずっと他に人が見当たれへんとかやし。ここ、一体どこなんよ?」


 不安そうに仁科は言った。

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