第6話 運命の出会い

2021年7月7日。

私はとある都市へと用事で出かけていた。


用事の帰りにちょうど原稿用紙を切らしたのを思い出したのと、気まぐれでアロマセラピーの道具を買い求めに、駅に併設されたデパートへ立ち寄ったのである。

文具売り場は、なぜかいつも以上に心が妙にざわめいた。


私はそこで、一本の黒い万年筆と出会った。

シルバーのメッキが施されたものだが、私は一目見てどきりとした。

どきり、というよりかは背が伸びる、というような感じだろうか? 

なぜか、私はその万年筆から離れることをためらった。

一つの文房具のために離れることをためらうようなことはなかった。

唯一、この万年筆と出会ったときだけだった。


万年筆という素敵な文房具、私にはもったいない。

そう思って離れようとしても、なぜか黒いボディの万年筆がじっと見てくる気がした。

「……なんでこの万年筆にだけは、こんなに心惹かれるんだろう?」

私は買い物かごにその万年筆を優しく入れた。

迎え入れる、と覚悟が決まったのだ。


正直、高価なものではない。

傍から見れば、たかだか一本の【万年筆】である。

それでも私はとても嬉しくなった。


その日、家で早速万年筆にインクをセットした。

そして、そのまま原稿用紙に詩を書いた。


驚くほど、ボールペンなどよりも書きやすい。

手に握った時間はわずかだというのに、なぜか手になじんだ。


その日は七夕。

もしかしたら、だが……。

愛用している万年筆とは出会い、ともに歩む運命だったのかもしれない。

それほどまでに、しっくりと手になじんだのだ。


私は、万年筆を【相棒】と呼ぶことにした。

手書きの原稿用紙などは、相棒が走ってくれるからこそ書けるのだ。


私は、詩作やショートストーリーを作る時、よくふらりと散歩に出る。

その時に、メモ帳と共に出動してもらうのも決まって【相棒】だ。

見た景色をそのまま、ではなくどことなく表現をして詩を作る。

見た景色を参考に、夢の世界へと誘うショートストーリーを作る。

そのネタを書き留める仕事は、決まって【相棒】の仕事になった。


町中でたまに視点を変えたい時、私は意外な行動に出る。

着物を着て、あるいは和洋折衷の服で町を散歩するのだ。

何故だか、少し違う目線から物事を見られるような気がする。

もちろんその散歩も決まって、【相棒】と共に向かう。


ある日、私はまた違う場でもう一本の万年筆を迎えた。

こちらは、インクの色が違う。

ブルーブラックのインクだ

当たり前だろうが、こちらの万年筆は手になじんでくれなかった。

数日たって、ようやくしっくりとくるが、【相棒】ほどではない。

ああ、やはり。

【相棒】は奇跡的に出会った共に歩む運命の万年筆だったのだろう。






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