第5話 親友の助言
それから数か月経ち。
時は2021年春。
私はいつも、最も親身に相談に乗ってくれる親友と短い時間だが会った。
実は親友は読書が好きな女性であり、書き上げた小説の見直しを依頼していたのだ。
彼女は多数のジャンルを読む人であった。
私は彼女に相談を持ち掛けた。
「良いじゃん。納得できるまでやってみなよ。だって、やらなきゃ始まらないでしょう? 一つ書き上げたんでしょ? 凄いことだよ!」
その言葉は、私を包み込んでくれた。
呪縛の言葉は、そのおかげでようやく消え去ったのである。
「高校時代、たまに詩を渡してくれたね。だから、才能がないとは思わないよ」
「ありがとう……。その言葉に凄く救われたよ」
まるで、戦場に素っ裸で放り込まれた兵士に鎧と剣を渡してくれたような言葉である。
感動して涙腺が潤んだことは、彼女にバレたかもしれない。
だが、彼女はそこには触れなかった。
「ちなみに、ペンネームとかどうするの?」
「一応ね、決めてあるんだ。」
私は彼女へ、悩みながら付けたペンネームを告げた。
その時、彼女は優しい笑顔で頷いていた。
ここで、ペンネームの話もしておきたい。
実は、本名にはかすりもせぬ名である。
強いて言うなら、〈香〉の字だけは本名と同じだが。
金森の苗字は、母の旧姓から失敬したものである。
実の苗字と母の旧姓、コンテスト提出ギリギリまで悩み続けた上で母の旧姓を失敬したのである。
なぜならば、怜香の名の由来がかかわっている。
怜香の名は、父方の祖父から預かっていたものだ。
預かっていた、というのは、実は祖父から贈られた名の候補だったのである。
祖父が提案してきた名前は、厳密には〈
麗しく華やか、というのは大分かけ離れているからだ。
だが、怜香と変換してはどうだろうか?
そう思い、この怜香という漢字にしたのだ。
だから、実の苗字ではなく母方の苗字を失敬した。
両親に対して、両家の血を引いた子だ、という思いも込めて。
後日、私はついに両親に告げた。
「見つめ直して決めた。作家になりたい。だから納得いくまで書く!」
「まあ、お前が決めた事なら仕方ない。ただ、書くなら責任は持てよ」
私は父の言葉に笑った。
「途中で連載を投げ出したりはしたくないもの」
両親は半ば諦め、という感じで作家の道を承諾した。
もちろん、これには兼業という条件も付いた。
だが、この時親に黙っていたが。
私は先手を打って稚拙な短編をコンテストに送っていた。
もちろん、
結果は良くなかった。
だが、それでも得られたものはあった。
こうやって成長していくものだ。
私は一つでも作品を完成させることができた!
まずはそこを誇っておくことにした。
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