第3話 決定づけた作家

母から条件を付けられた見つめ直す期間。

本当に私は作家を目指したいのか? 

作家ならどんな作品を書いていきたいのか? 

私は、答えを知るべく仕事の休みには図書館に通い詰めた。


郷里の地について描かれた作品などを読んだらヒントになるだろうか?

そんな思いで、とにかく様々な本を読み、答えのヒントを探した。


私はそこで、自分の書き方の師匠と出会ったのである。

直接教えを請うたわけではない。

というよりかは、請うことなどできはしない。

生まれるよりもおよそ半世紀も前に鬼籍に入っていた人だからだ。


【恩讐の彼方に】

著者は菊池きくち かん先生だ。


私はその本に深く感銘を受けた。

凄まじく短く要約するならば、『主人公に父を殺された息子が仇討を企てるが仇討をせず和解するという話』である。

私が受け取ったメッセージは物語の後半より『岩も穿うがてば道となる』

つまりは『岩も毎日少しずつ砕いていけばいずれは道だ。少しずつでいい。コツコツ積み重ねていけば、いずれは完成する。継続する努力も大切な力だ』という風に感じ取った。


【恩讐の彼方に】を読み終わってから、菊池先生の代表作として有名なのも頷けると思った。

とても素晴らしい作品だと感動した私は、とにかく菊池寛先生の本を図書館で借りてはとにかく読み漁った。

【無名作家の日記】、【半自叙伝】、【藤十郎の恋】、【島原心中】、【恩を返す話】、【忠直卿行状記】、【父帰る】などを。


【無名作家の日記】

この作品にも深く感銘を受けた。

周りが有名な作家になったり、同人誌を作成したり。

それでも自分はまだ無名のままだという焦り、書き続けることの重大さ、諦めないことの大切さ。

私は本を通して、菊池先生に教わったのである。


どの作品にも、言えることがあった。

「とにかく簡潔で読みやすいからこそ理解もしやすい」

私は、そんな文章を書けるような作家になりたい!

新たな決意が生まれた、そんな瞬間であった。


菊池先生の本を読んで、学んだことは多数あった。

明治や大正、昭和の初期辺りの本は現代語訳してある本も多い。

私はあえて現代語訳されていない方も読んだ。

確かに、大正など当時の文の書き方で読みにくいと感じたものもあったが、慣れるにつれてそれは逆に心地よく思えた。


その後、私は短編で私小説を書いてみよう、そう思った。

だが、よく考えてみたら……、私は私小説の書き方など知らなかった。


どうしたものか……。

私は悩みつつ、今いる場所はどこか、ということを思い出す。

そう、図書館だ。


ならば調べればいい! 

私が一番に目を付けたのは……。


有名なある人物の本であった。









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