第2話 二度目の挫折

専門学校を卒業して数年後。

地元がペットに関してのビジネスは薄く、私はペットショップ、動物病院ともに採用がもらえず、就職難であった。


私は、専門学校を出ても就職先が見つからなかったので、とりあえず生活費のためにと高校時代からバイトしていたスーパーを退職し、別の接客業へと移っていた。


仕事後、本屋に立ち寄って運命の出会いを果たした。

とある作家の本とたまたま出会ったのである。


今もなお執筆されている、N氏という、ミステリー作家である。

なぜか惹かれ、その本を買い、読みふけった。

私はそのN氏の刑事もの小説に感銘を受けた。


小説そのものは破天荒だった。

なにせ、描写はなかなかにコメディ色が強いが、なぜか妙に引き込まれる。

まるで漫画を読んでいるような面白さに、ページが進む。

いつの間にか、読み終わっているのでまた読み返す。

その繰り返しを何度したことか覚えていない。


どこかで読んだ資料か本に載っていた。

【読者というのは非日常を求めている】

まさに心理だった。

N氏の小説の事件は、日常普通に生きていては巡り合えないと思われるほどの事件ばかりが書かれていて、妙に惹きつけられたものだ。


その作品を皮切りに、私はさらに色々なミステリー作品を手あたり次第読んだ。

元々幼少期から読書が大好きな身である。

父から受け継いだのか、母が何かの折にご褒美で何か買ってやろう、というと決まって『本が欲しい』と答えるような子供だったからか……。


そして、胸の奥でめらめらと熱い思いが湧き上がった。

そう、『作家になりたい』、という渇望だった。

やはり私は諦めきれなかったのである。


両親が口を揃えて『お前の考えくらいわかる』という。

それと同じで、私も『親の考えがわかる』

作家など否定されるだろう。

そう思いつつ、私は親にそれとなく話をした。


「あのさ……」

「どうしたの?」

「やりたいことがあるんだよ」

母はその瞬間、何かを言わせずに言った。

「あー、ダメだ! 絶対ダメ! でも、どうしてもやりたいなら条件付けて許す」

「条件ってなに?」

「数年、様子を見なさい。それでもやりたいなら勝手にしなさい。もし数年してやりたくないと思うなら、お前の気持ちはそんなもんだったってわかるでしょう? 」

「それ、アロマセラピーの資格取る時と同じ理屈だよね?」


私は、専門学校時代にアロマセラピーをわずかだが習った。

それも、動物に使える程度の精油及び、その薄め方などである。

そして、興味を持ったので数年間ブランクを開け、アロマセラピー検定を自分から受験した。

二級、一級、ともに嬉しいことに一発で通った。


母は届いた賞状に目を丸くした。

まさか一発で通るとは考えていなかったのは、火を見るより明らかだ。

だが、プロ資格を取る時にはまた同じことを言った。

『数年様子を見よ』と。


だが、真意は分かっている。

『数年』、実際は大抵一年程度だが。

遠ざけてなお欲しい、やりたいならばやっても良いという意味だ。


つまりは、本気度を計りたいわけだ。

ある意味、両親からの試練でもある。

一人娘の私がどうしても本気でやりたいなら、親として見届けよう、そう解釈している。

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