作家を志す理由

金森 怜香

第1話 一度目の挫折

動物専門学生時代、齢19歳の頃。


私は同級生の知人から誘われ、カフェにいた。

将来の夢を語ろうということらしいので、私は思い切って告白した。

「第一志望は変わらずトリマーだけど、実は小説、書いてみたいと思うんだ」


一緒にいた知人は私の顔を凝視した。

「それ、正気? 本気で言ってるの?」

「もちろんだよ」


その言葉と共に、知人は私へと浴びせたのは爆笑であった。

「無理無理! トリマーはまだありとしても、小説はアンタには才能がない。小説なんて書くだけ無駄だよ! ほんと、今年一笑ったよ。いい笑い話をありがとう。私はさー……」


その時、私の中で何かが弾けるような音がした。

怒りか、悲しみか、自分への絶望か……。

そして、彼女の話などこれっぽっちも心に入ってこなかった。


彼女は、『お世辞という物が死ぬほど嫌い』

これを自称する人間だ。

恐らく、本気で無理と決めたのだろう。


「そ、そっか……。うん、そうだよね……、うん」

私はその場は苦笑いして、それとなく作り笑顔で乗り切った。


彼女は古くからの知人、いわば幼馴染だ。

出会いは保育園である。

読書家だった私の姿は、彼女もよく知っていた。

だが、高校の時から露骨に、私を見下すようになっていた。


それもそうだ。

私は地域最底辺の学校で成績は中の上、もしくは上の下といったところだろうか。

だが、パソコンに特化している学校だった為、ブラインドタッチタイピングなどパソコンのスキル、他にもビジネス系のスキルは身についていた。

だから、私はその学校に進学して特に後悔はなかった。


彼女はそこそこ有名な私立校でそれなりの成績だったと本人は言っていた。

高校で恐らく彼女は自分が私より優位と思ったのだろう。

そして、彼女はその後短大へと進んだ。

やりたいことは見つからなかった、とたまに愚痴を聞いた。


私は、昔からの夢であった動物の専門学校へと進んだのである。

実は親に相談などしなかった。

入学金と定期代くらいは高校二年から始めたスーパーのレジ打ちのバイトで稼いだ給料で賄えると踏んでいたし、相談したところで猛反対は目に見えていた。

私は高校の学校推薦をもらってから親に専門学校の学校推薦をもらったと話した。

もちろん、父は『勝手に決めるな! 就職させるつもりだったのに』と激怒。

母は予定が狂ったと嘆いたが、入学金は自分が用意できると聞いて少しは安堵していたことはよく覚えている。


元々トリマー志願ではあったが、紆余曲折の末、ドッグトレーナーコースへと身を投じた。学校の方針的に、トレーナーコースに入っていようとトリマーとしては勉強できるというので、学費の問題でトレーナーコースに変えることとなった。


私はそもそも愛犬家である。

当時、我が家は雑種のオス犬を飼っていた。

母犬はシーズー、父犬は不明の子だったが、私は弟のように可愛がっていた。

専門学校に通うことを望んだ理由は、トリマーになるという夢と同じくらい重視していたことがあった。

彼の健康管理に役立つ知識と彼の生活がより充実するよう犬のマナーを知りたかったのである。

それを共有することができるならそれが幸いだと感じていた。


そんな私が作家志望、そういうのだから面食らうのはまあ普通の反応だろう。

だが、彼女は笑っていた。

絶対に無理、とバカにしたように。


ちまちまと時間を縫って、ポチポチとwordに文字を打ち込んだ。

小説として、どこかへと投稿しようと思ったからである。


だが、書いてる途中で彼女の声が脳裏をよぎるのだ。

「絶対無理」

「時間の浪費」

「才能がない」

「最高の笑い話だ」


呪縛のように言葉が脳裏をよぎり、私は怖くなって、一度筆を置く決断を下した。

思えば、本当に私は臆病なのである。

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