第3話 完全に同化して、永遠に消えた

大手証券会社ゴールドマンセックス(黄金性行為)株式会社のエリート従業員と婚約をした貴美子だったが、2週間後に一方的に婚約破棄を言い渡された。


「弟が不可解な爆死を遂げたような人とは、やはり結婚できない」

大手証券会社ゴールドマンセックス(黄金性行為)株式会社のエリート従業員はワイングラスを傾けながら言った。


「なぜ?あんなに激しくあたしのマンコにチンポコを入れて気持ちよくなったくせに!」


「ごめん。君のマンコは確かに素晴らしかったが、僕にはゴールドマンセックス(黄金性行為)のエリートとしての社会的な立場があるんだ。弟が不可解な爆死を遂げたような人の遺伝子は、きっと、気色悪い遺伝子だと思うんだ。それが、僕の子供にも移っていくとしたらおぞましくて……」


「あんなに!あたしのマンコにチンポコを入れて、白目を剥いて、涎をだらだら垂らしながら、ぎもぢい!ぎもぢいよお!ってバカみたいに叫んでいたくせに!」


「ほんと、ごめん……」


そこはエリート従業員たちが恋人や家族を連れてくるフレンチレストラン「マルキド・イノウエ」(1995年開業。オーナーの井上佐千夫さんが直接地中海に行って仕入れてきているという魚介類がとても美味しいと評判)だった。

店内には井上佐千夫さんの妻である井上洋子さんがセレクトした、印象派絵画のレプリカが、展示されている。セザンヌ、モネ、ルノワール、シスレー等々。

そして、ドビュッシーのピアノ音楽が、控えめな音量で、流されている。


高級、セレブリティ、優雅な空間……。


(その貴族的雰囲気を保つために、店舗周辺に入って来る浮浪者、またはそれに準ずる汚らしい恰好をした連中は、徹底的に、オーナーである井上佐千夫さんの鉄パイプによる殴打によって、排除されていた。)


「僕に悪気はないんだ。でも、君の遺伝子がとても、気色悪いと思えてしまった。僕に、悪気はない。君が悪い。いや、正確に言えば君の弟が不可解な爆死をしたのが悪い。君の遺伝子は、気色悪い。僕には大手証券会社ゴールドマンセックス(黄金性行為)のエリートとしての責任があるんだ。わかってくれ……」

貴美子は、白い美しいテーブルクロスに突っ伏して、泣いた。

「酷い!酷いよお!あんまりじゃないの!」


貴美子は涙を流しながら、フレンチレストランを飛び出し、電車に乗り、帰宅した。


泣き叫びながら階段を駆けあがり、二階の廊下の突き当りにある部屋に入る。


そこには、「アギャー!」と凄絶な声をあげて不可解な爆死を遂げた、ヨネオの死体が転がっていた。


腹の部分が膨張して弾け飛んだため、内臓や血が散乱していた。


部屋の壁に、血が、世界地図のような形の模様を、描いていた。


ヨネオは、極めてグロテスクな表情、白目を剥き、口を大きく開き、舌をだらりと垂らす表情で、死んでいた。


「あんたのせいで!この!ヨネオ!この!この!」

貴美子は涙を拭い、悲しみと怒りの混じった、複雑な表情を浮かべながら、ヨネオの死体の顔を蹴った。


あまりにも強い蹴りに、腐敗が進みつつあったヨネオの死体は損壊した。顔面が半分崩れ落ちた。どろどろとした気持ち悪いものが、床に落ちた。


脳みそが、溶けて流れ出していた。


「あたしの弟がこんな気持ち悪いなんて絶対嫌だ!」


貴美子は絶叫し、また駆け出して、靴を履いて、外に飛び出していった。


物凄い勢いで飛び出して行って、信号無視を何度もした。そのたびにクラクションを何度も鳴らされた。


飛び出していく?それは良くない。


いきなり女性の前に飛び出して「すみません。お時間ありますか?これからお茶でもどうですか」唐突に声をかけるのはNGに決まっている。

挨拶で様子を伺い、そのまま会話につなげるのがコツ。

つまり、

「こんにちは。暑い日が続いてしんどいですね」そして「喉乾いていませんか? あそこのカフェの限定ドリンク飲みました? あれ、めちゃくちゃ美味しいんですよ! 一緒にどうですか?」と続けるのが吉。

しかし大事なことは、どこかで良く見かけるような、聞いたことがあるようなテンプレート的な声掛けやトークは、通用しないということ。

あくまで、あなたらしいオリジナルの、自然体の声掛けやトークを、心がけるべきである。

女性に興味を持ってもらえたら、そのまま連絡先交換までいければ最高。

もちろん、連絡先交換が最終地点ではない。

だから、連絡先交換が終わった後に「ありがと、じゃあね!」とかいうのはダメ。

「教えてくれてありがとう〜。このアイコンの猫かわいいね! 猫飼ってるの?」

「ありがとうございます! さっそく送っちゃお。このスタンプお気に入りなんですよ。〇〇さんはお気に入りのスタンプある?」

「さっそく送っといた! 仕事から帰ったらなにしてる? 夜に連絡しても大丈夫?」

等々、ちゃんと、あなたに興味があります、あなたのことをもっと知りたいんです、ということをアピールしなくてはならない。


「このブス!調子に乗るな!」

埃や白いシミだらけの汚いダウンジャケットを着た中年男性が、貴美子の顔面をぶん殴り、押し倒した。


貴美子は、ちょうど猛ダッシュで曲がり角を曲がったところだった。

そこにこの中年男性がカップ酒を飲みながら待機していたのだ。


貴美子は、大量のゴミ袋が放り投げてあるゴミ捨て場に倒れた。

「いやああああ!」

貴美子は凄絶な悲鳴をあげる。

しかし、あまり抵抗はしていない。

「このブス!」

中年男性は黄色い、並びの悪い歯を剥き出しにして怒鳴り、貴美子のスカートを捲り上げてピンク色のパンティを剥ぎ取った。

「俺が日本の少子化を解決してやるから!このブス!」

白目を剥きながら、中年男性は毛深い指で、ズボンのジッパーを開け、赤黒い、勃起したチンポコを出した。チンポコにはびっしりと白いチンカス、臭いチンカスがくっついていた。貴美子の、剥き出しのマンコ(貴美子は陰毛を全て剃り落している)を、中年男性は凝視していた。中年男性のチンポコの先端からは、透明な粘液が、絶えず溢れている。

「いやああああ!」

貴美子は凄絶な悲鳴をあげる。

しかし、あまり抵抗はしていない。

足を、多少バタバタと動かすくらい。

「このブス!突撃だ!」


その中年男性こそ日本で「伝説のナンパ師」と呼ばれている片岡清三。

1972年生まれ。

大学在学中からプラトン、アリストテレス、デカルト、カント、ヘーゲル等の研究を通じ、独自の「ナンパ術」を探求、著作を出版。大学時代の代表的著作は「新時代ナンパ哲学実践集」これは当時ベストセラー(50万部突破)になった。

その後、大学卒業、大手証券会社ゴールドマンセックス(黄金性行為)株式会社に入社、巧みなナンパ術を買われて営業マンとして活躍。

サラリーマンをしながらほとんど毎年のように書籍を出版。「愛を求める狩人たち」「理想のメス穴を手に入れろ!」「男はセックスしないと男じゃない」「ゼロ秒で女を落とすテクニック~新時代ナンパ哲学実践集2~」「全ての女は男のチンポコを求めていると認識せよ!異論は抹殺」「最強ラブハンターが真実の愛を語る〜ナンパは愛の儀式」「最後はぶん殴って押し倒せばいいんだ」「男なら挿れてヤレ!〜ただヤレ!それが愛」等はその年のベストセラーランキングで5位以内に入った。

その後、大手証券会社ゴールドマンセックス(黄金性行為)株式会社を退職して独立。

日本最大のナンパ術研究組織「NNKK」(日本ナンパ術研究協会)を設立、初代会長に就任した。同年、内閣府の要請を受け、内閣官房参与に就任。担当は「若者の恋愛支援・結婚・子づくり政策推進」。


「ああ!あんっ!イッグ!マンコぎもぢい!あ、あんっ!イグイグ!イグッ!あっ、あっ、あんっ!イッグ!でるでるっ!精子でる!ああ!イッグイグッ!」夢中になって叫びながら、腰を突き出し、毛深いケツが快楽によって震える。白目を剥き、涎を垂らす。人生最高の瞬間。全ての男たちは、この瞬間のために生まれた。チンポコ、気持ちいい。最高。気持ちいいの最高。


「このブス!ちゃんと産めよ!いいか!このブス!お前みたいなブスに種付けしてやったんだ!俺に一生感謝してろ!このブス!」

口を開け、並びの悪い黄色い歯を見せつけ、唾を、ゴミ袋の山のなか倒れている貴美子に吐き掛けた。

唾は生ごみを腐らせ、人糞をそこに混ぜ込んだような臭いだった。

片岡清三は、チンポコを仕舞い、ズボンのジッパーを閉めて、タバコを一本取り出し、火を点けて咥えた。

「帰るか……いや、パチンコかな……」

そう言って、ブロック塀に寄り掛かる形で停車させている自転車に跨り、どこかに走り去った。


貴美子は、ゴミ袋の山に埋もれていた。

スカートは捲りあがったまま。パンティは穿いていない。

剥き出しのマンコ(貴美子は陰毛を全て剃り落している)からは、白い、ねっとりとした精液が、溢れていた。

その精液に含まれている無数の精子が、貴美子の体内にある卵子に、突撃し、今まさに、受精を完了している事実は、言うまでもないことだ。そして、新しい生命の誕生、その予感がもたらす喜びは、人類全体が享受すべきであろう。

だが、貴美子は放心状態だった。

ゴミ袋に埋もれた状態で、ぼーっとしていた。

受精が完了したことについて、喜びを示す余裕は、彼女にはないようだった。

もしかすると彼女は、少子化問題について、それほど関心がないのかも知れなかった。

あたりは暗かった。寒くなってきていた。

貴美子は、自分で自分を抱きしめるような姿勢になり、ゴミ袋の山の中、じっとしている。

「寒いわ……」


「あの、大丈夫ですか?」

声がした。若い男の声だった。

貴美子は、顔を上げる。

そこには、紺色の学生服を着た少年が立っていた。

身長180センチくらいで、スポーツ刈り、体格がいいので、柔道部だろうか。

眉が太くタレ目で、柔和な感じの顔つきをしている。

「あの、大丈夫ですか?マンコ、見えていますけど……」

貴美子は、マンコを剥き出しの状態で、ずっと、座っていたのだ。

「いいの……もう、いいのよ……」

「でも、公共の場でマンコを出しっぱなしにするのは良くないです。確か違法だったと思います」

「そうね……」

「あの、僕もチンポコ入れたいですけど、いいですか?」

「今はダメよ……」

「わかりました。じゃあ止めておきます」

「うん……」

「あんまり、元気がないのですか?」

「そうね……」

貴美子は、涙を流していた。鼻をスンスンいわせていた。

学生服の少年は、鞄を漁って、一輪の花を、差し出した。

「これ、あげます。元気を出してくださいね」

黄色い、小さな花だった。

少年は、貴美子のマンコに、花を挿した。チンポコを入れてはダメと言われたから、せめて、花くらいは、入れたかったのだ。

「綺麗な花……」

マンコに挿入された花を凝視しながら、か細い声で、貴美子が言った。

黄色い小さな花びらに、白濁の精液が、少し、付着していた。

「メランポジウムです。花言葉は《元気》。これを見て、元気を出してください。今、僕にはこれくらいしかできないので。それじゃ!」

そう言って、少年は暗い路上を走り去っていった。

街灯のなか黒い影だけがしばらく動いていた。だが、それもやがて向こう側の、どこまでも続いているように思える真っ黒い闇と、完全に同化して、永遠に消えた。


(了)

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