解放
15
早朝ーー
ゴロンと身体を横に向ける。
「はぁ~」
寝ぼけ眼ながらも視界に入ったソレを見て、ため息が出た。
当たり前のように普通に居るし・・・
なんなんコイツ。
動いた様子もなく、昨日と同じ場所に突っ立っていた。
「今、何時っすか?」
寝起きの頭が回らないテンションで声を掛けるも、当然応答は無い。
ムクリと起き上がると、ズンと身体のダルさを感じた。
コイツもいるし、月曜日だから今日からまた面倒くさい仕事が始まる。
てか、仕事に行ってる場合かな?
こんな堂々とした不法侵入者を前に、呑気に仕事に向かうのもなぁ。
やっぱり警察案件だよなぁ。
仕事行きたくないし、昨日の件で愛子に会うのも気まずい。
携帯を見るも愛子から連絡は無かった。
とりあえずは宇宙人も愛子も無視して洗面所へ向かった。
顔を洗ってサッパリすると少しは冷静になってきた。
鏡の前にいる情けない表情をした自分に切なくなってくるのも毎度のこと。
昨日は・・もし愛子の家で泊まっていたら、宇宙人もどこか他所へ行ってくれたのだろうか?
歯を磨き終え、首を左右にコキコキと鳴らしながら戻る。
以前として動いた気配の無い宇宙人さん。
「・・・ずっと立ってて疲れない?」
もはや敬語で話すのも面倒になった。
いや、敬語とか云々以前に日本語を理解出来て無いと思う。
喋れないにしろ、ジェスチャーとかで意思の疎通を取って欲しいものだ。
害はなさそうだけど、このまま放っておく訳にもいかない。
職場に行くか警察署へ行くか・・・
少しだけ考えて、結局は仕事へ行く事にした。
理由は、なんだか面白い出来事が起こるかも知れないと思ったからだ。
映画や漫画であるような予想外な事象。
退屈な毎日を、この宇宙人が変えてくれるかも知れない・・・そんな事を考えてしまう。
着替えて仕事へ行く準備をする。
「いってきます」と宇宙人に向かって言った。
帰った時にコイツが居なくなっていたとしても、それはそれで構わない。
またいつもの日常に戻るだけだ。
いや・・コイツ、突っ立っているだけだし、今のところは何らいつもと変わらない日常なんだけどな。
玄関にて仕事用の靴を履いたところで携帯が鳴った。
愛子からである。
謝ってくるか、それとも昨日の続きで罵詈雑言の怒りの電話か?
「もしもし」と覇気もなく出た。
「流樹君?」
愛子の父親の声だ。
「は、はい」
「あ、あ、愛子が・・・・」
様子がおかしい。
動揺しているような焦っているような声である。
「愛子がどうかしましたか?」
「おお、落ち着いて・・きき、聞いて欲しい」
いや、アンタが落ち着きなよ。
「昨日の晩、あ、愛子が・・愛子が交通事故を起こして・・そ、即死だと・・・ー」
「えっ!?」
どういう事だ?
昨日の晩って、僕が愛子の自宅から出た後の話しか?
それから父親から詳しく話しを聞くと、どうやら愛子は昨日、僕が帰った1時間後に、僕に謝りに車で向かったみたいだ。
電話じゃ分かり合えないから直に会って話し合いたいと言ってたそうだ。
それから近くの曲がり角から、スピードを出した対向車と衝突してしまったらしい。
愛子も僕に早く会う為に、多少は無茶な運転をしていたそうで、避けきれなくなり正面衝突したそうだ。
泣きながら家を出ていったらしい・・・
一部始終を話し終えると、愛子の父親は泣きだした。
これは、僕の・・せいになるのだろうか?
そんな事を真っ先に考えてしまう自分が気持ち悪い。
「愛子ぉー、うぅ~」
電話越しに泣き喚く愛子父。
止めてくれ・・・・よ。
こんなふうに罪悪感を植え付けてくるのは卑怯だ。
僕にどうしろと?
僕が悪い・・・のか?
愛子が勝手に暴走して起こしてしまった事故だろう?
いや・・そもそも本当は愛子は死んでなくて、家族ぐるみで僕を試している・・・訳ないよな。
父親の話し方がとても演技には思えない。
昨日の今日で現実感が湧かない。
実際に愛子の遺体を見れば、嫌でも現実味を帯びてくるのだろうか?
「どうし・・・仕事・・休んでそちらへ向かいます」
失礼な言動をしてしまいそうになった。
気が動転している。
返事を待たず電話を切った。
愛子が死んだ・・・・
ペタんと玄関に尻もちをついた。
しかも昨夜って・・まだ10時間かそこらだろ?
こんな事が実際に有り得るのか?
受け入れ難いと言うより信じ難い。
さっきまで宇宙人の事で頭がいっぱいだったのに、今は愛子の事でいっぱいだ。
こんな早朝に頭が混乱するような事言うなよ。
あぁ、いや違う違う。愛子の父親はワザワザ報告してくれただけだ。
いや、それでも、なんだよそれ・・・
急にそんなん言われても整理つかないよ。
昨日、素直に愛子の家に泊まっていれば、こんな事にはならなかった。
悪い状況になってからの、たらればなんて無意味とは分かっているのに、そういう思考になってしまう。
愛子の笑った顔、怒った顔、泣いた顔、ムスりとした顔が頭の中で浮かんでくる。
「ふはっ」
浮かぶ愛子の表情の殆どが怒った顔だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます