16

 僕にとって愛子はなんだったんだろう・・・


 靴を脱ぎ、また部屋に上がる。

 宇宙人の前で胡座をかいて座った。


「お前に分かるか、この気持ちが?」


 喪失の中で僕は尋ねる。


「愛子が僕の前から消えて分かる・・そんな日が来るとか思わないよ」


 独占欲なんて無かった。

 ただ単純に振り回されているだけだったのに・・・


「愛子を好きだった・・って事なのか?」


 僕には分からない。

 宇宙人は何も答えない。

 そんな事は十分承知だ。


「どこから来たんだ?」


 暫く待ってまた問う。


「なんで日本に・・いや、なんで地球に来た?」


 また待って問う。


「何か目的があるのか?」


 やはり何も返さない。

 返さないじゃなくて返せないのか・・・


 どうして何も言わない。


「なんで僕んとこに来たっ!?」


 愛子の件もあるのに、煩わしくも新たな問題を追加したくないんだ。


「どこか・・行けっ!!」


 玄関に指を差した。

 頑なに動かない宇宙人。


「じゃぁさ?・・・愛子を生き返らしてよ?・・なんか、その不思議な能力とか持ってそうじゃんお前?」


 自分でも何を言っているのか分からない。

 神頼みならぬ宇宙人頼みをしたところで、どうにもならないのは分かっている。


 「あっ・・クソっ!!」


 愛子が美味しそうにレバーを頬張る姿が浮かんできやがった。

 なんだよ・・・今、そんなの浮かんでくんなよ。

 

 結婚式から一変して葬式とか笑えない。

 

「何か出来ないのかお前は!?」


 僕は立ち上がり、宇宙人の腕を掴んだ。

 掴んで分かった。

 腕が冷たくて硬い。

 まるで鉄パイプでも握っているような感触だった。


 怖くなって手を離した。

 依然として動きを見せない。

 今は・・コイツの相手をしている場合じゃないな。

 

 着替えて愛子の自宅へ向かう準備をした。

 車に乗り、エンジンを掛ける。

 寒いからエアコンが効いてくるのを待った。


 その待っている間に浮かんできた。

 俯瞰して冷静になってくる。

 何も返さないと分かってイキがって叫んだ。

 責めるように宇宙人に言った事が恥ずかしくもなった。


 (あっ、きた)と感じる。

 自分を良く知るからこそ分かるこの感情。


 結局は愛子に対してまでそうなのか。

 

 さっきまであんなに愛子の事を考えていたのに、身体中から失われていくこの感覚。

 


 あぁ・・・・・


 襲ってくる虚無感。


 大切な人が亡くなったのにこのなんとも言えない虚脱感・・・


 実感が湧いてないからというのもあるが、こんな時でも考えてしまう。


 面倒くさい。


 早く終わって欲しい。


 悲しげな表情をしないといけない。

 愛子の両親と話しをしないと、話しを聞いてあげないといけない。

 それすら煩わしい。

 きっと泣きまくるんだろうな。

 僕は、ちゃんと涙を流すことが出来るのか?

 全然自信が無い。


 どうして僕はこうなんだろう。

 悲しいと思っている反面、面倒くさいと思ってしまうのが怖い。


 婆ちゃんが亡くなった時と同じだ。


 「はぁ」と枯れたため息が出る。


 僕はキーを回しエンジンを切った。




 

 

 


 

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