14

 玄関先で雑に靴を脱ぎ捨て、上がろうとした瞬間ー・・・



 何かの気配を感じた。

 何かがいる?人の気配みたいな感じ。


 暗い部屋の中で、窓外の街灯からボンヤリと映って人の形をしたシルエットが目に入る。

 障子紙越しでもハッキリと分かる。

 その人はただ黙って突っ立っている。


 母さんか?

 僕の部屋の合鍵を持っているのは愛子と母さんだけである。

 愛子は自宅にいるだろうから除外して、仮に母さんだとしても直立不動で立っているのは不自然だ。


 母さんじゃない・・・と思う。

 出来れば母さんであって欲しい。


「だっ・・誰でふか?」


 緊張し過ぎて噛んでしまった。


 弱々しく発した僕の問いに応答は無い。

 

 身体が強張って硬い。

 心臓の鼓動が速くなっているのを感じる。

 声なんか出さずに、無言で出て行けば良かった。

 

 静寂の中で唾を飲み込み、そっとドアノブに手をやった。

 このまま外に出て、警察署まで行こう・・・いや、車の中で電話だ。


 てか、本当に誰なんだ?

 空き巣にしてはおかしいだろ。

 何で突っ立ってんの?

 動かないし、もしかしたら人間じゃない?

 等身大の人形か?

 いや、そうだとしても僕の部屋にあるのは変だ。

 誰が置いたとか、何の為にとか考えてしまう。


 とりあえず出て行こう。

 そーっと、ドアノブを回したが、キィと軋む音が鳴ってしまった。


 咄嗟に人の形をした方向へ目を向けた。

 それでも微動だにしていない。


 人間じゃない?本当に人形か?


「あっ、あのー?」


 勇気を出して再度声を掛けるも返事は無い。

  

「部屋間違えてません?」


 応答は無い。


「だ、誰でっかー?」


 馬鹿っぽく言ったが返事無し。


 小さく息を吐き、靴を脱ぎ、恐る恐る障子に向かった。


 襖を開けた瞬間、襲ってきたらどうしよう?


「あっ、開けまーす」


 一呼吸置いて襖を開けた。

 そこに立っていたのは・・・・


 人間では無かった。

 部屋の電気は消えている為分かりにくいが、全体的に真っ白?な人形みたいだ。


 動かない。

 母さんが置いていった?

 いや、冷静に考えてそれは無いだろう。


 異様な等身大のそれは未だに微動だにしない。

 そもそも動いたりするのかすら疑わしい。


 害意は無さそうで少しはホッとした。

 多少は警戒しているが、埒があかないので灯りを点けた。


「あっー」


 見た事がある。

 しかもわりと最近だ。

 なんでだろう?


 目が人より三倍位大きくて、口の付いていないそれは若干光っているように見えた。


 こちらを見ている?

 目の焦点が分からないから謎なんだが、まん丸とした黒い目玉が僕を見ているように感じた。


「んっ!!」


 思い出した。

 こいつ、何日か前にテレビのニュースでやっていた宇宙人だ。


 本当に実在していたようだ。

 僕と同じ位の身長のそれは一切動く様子もなく立っている。

 それにしても・・何で僕のアパートにコイツはいるんだ?


 日本語・・いや、人の言葉を話せるのか?

 顔を見ても唇っぽいのは無いし無理か?

 直接僕の脳に話し掛けたり出来ないのかな?

 なかなかに現実離れした事を考えてしまう。

 いやいや、こんな現状、現実離れもいいとこだろ。


「あっ、あの~」


 低姿勢で身構えながら話し掛ける。


 動かない喋らない。


 1分位待っても応答が無い。

 どうしたら良いのか分からない。

 警察に通報すべきなのだろうか?

 説明しにくいし、何より面倒くさい。


 かといって、このまま放置する訳にもいかない。


「おっ、お部屋間違えてませんか?」


 先ほどと同じ質問をするが、やはり応答は無い。


「あっ・・・口が無いから喋れないとか・・っすか?」


 応答は無い。


「日本語書けます?・・えっとー、紙とペンで、そのー・・・ねっ?」


 応答は無い。

 虚しくなってきた。

 つーか、普通に不法侵入だし疲れてきた。

 一人で人形相手に話し掛けてる痛い奴みたいだ。


「聞いてます?・・てか日本語通じますか?」


 両手を広げ、ジェスチャーをしながら話し掛けても返事は無い。


 それからまた暫く待ったが反応は無い。


 一体どうすれば良いのだろうか?

 普通に疲れてるから寝たいんだよな。

 居たたまれない静寂。


 動く気配すらない。


 触ってみよう・・かな?

 でも、それで急に襲ってこられるかも知れない。


 とりあえず・・・・・


「あっ、あの~、もう遅いんで、その・・申し訳ないんですが、ね、寝ますね?」


 遠慮気味に告げるが当然返事は無い。


 再び灯りを消して、そろりそろりとベッドへ向かった。

 正直、訳分からないし、関わりたくないし、疲れたし、面倒くさい。


 起きた時、居なくなってくれる事を祈りつつ、僕は眠る事にした。

 

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