Chapter17「再会」
あれからのこと。
クリスティアとブランは黒外紫苑によって星屑の国まで護送され、そこに住まう紅士郎と蒼空鈴に出迎えられた。
荒神と蕃神のどちらにも味方しない中立国。
戦争孤児などを保護する夜の教会があることが、分かりやすい特徴だろうか。
どちらにせよ、ここでは戦禍に呑まれることは滅多にない。
どちらにも味方しないことに腹を立てた過激派が攻めてくることはあるが、それを防衛できる一級品の戦力もある。
中立国としてはある意味正しい姿だろう。
どちらにも味方しない、ということはどちらからも味方にされないということ。
ならば己の身を守ろうと強くなるのと同じように、戦力を整えるのはごく自然だった。
・・・そう、クリスティアの身の安全は保証されている。
現在ギリシャではクリスティアは死んだことになっている。よってクリスティアを追うものはいない。
この出来事は徐々に周辺国まで伝わり、
無論、クリスティアの魔法の素質ならある程度はすり抜けられるだろうが、今後は徐々に情報を抜き取るのは厳しくなるだろう。
「・・・でも、やめるわけにはいかないんだよね」
空き家を見つけ、そこに住むことになったブランとクリスティア。
椅子に座るクリスティアは、
レイゴルトから任されてしまった、英雄のいらない世界。
「・・・英雄、なんて」
そう呟きながら、意識を身体から離す。
ジャイロの犠牲により繋いでしまったこの命、何としても達成する希望を見いだせなければ割に合わないと思いながら、ギリシャに向かう。
「え・・・?」
ギリシャの基地に着いた時、信じられないものを見た。
「よぉ、やっと来たか」
『おっさん!?』
ジャイロ=キロンギウスが、あの時のように執務室で座っていた。
幻覚などでは一切なく、全く平気そうに健在した。
「なんだよ、幽霊でも見る目しやがって」
『だって・・・あの時・・・』
「・・・ああ、あの戦いを見てたんだな」
『途中までね・・・でも・・・』
あの後、レイゴルトが飛んできたことを考えればジャイロは間違いなく死んだと思っていた。
「賭けみたいなもんだが生きてるんだな、これが。
不死身の
ま、四肢全部義手義足になったし、内蔵も幾つか人工物になっちまったがな。
お陰で後方にいなきゃならない期間が伸びちまった」
豪快に笑うジャイロに、クリスティアは力が抜けたように安堵する。
自分のために犠牲になったとなると、もう一生呪いのように付きまとうことになるところだった。
「俺としちゃ、お前さんが無事に逃げられたことの方が喜ばしいさ。
わざわざ"鬼殺し"に話を通してよかった」
『迎えに来たのは吸血鬼だけどね』
「そりゃ爺さんだからなぁ」
日本に話を通す、というのは以前二人が話し合った時に知っていたことだった。
正確には、日本の軍にとっても内戦の両陣営にとっても頭の上がらない
無論、タダではない。
対
クリスティアが野放しになることによる被害を最小限に抑える手段を真っ先に与えれば乗るだろうという目論見は達成されたことになる。
「これでお前さんも簡単に悪さは出来ねえなぁ」
『・・・やめろとは言わないんだ』
「言ったところでやめる訳ないだろう、お前さんが。アイツの妹なんだからな。
だったら、出来ない環境に仕立て上げりゃいいんだよ」
『・・・でも、任されちゃったから』
「任された・・・?」
怪訝な顔でクリスティアに視線を向けると、そこには思い詰めたように俯く魔電子体の彼女はその想いを語った。
『戦争が、嫌なんだよ・・・。レイ兄も、あんなに頑張ることになった原因でもあるし・・・』
「だから、その手立てが欲しいってか?」
『じゃないと・・・あんな無茶をし続けたら・・・』
泣き出しそうなクリスティアに、深いため息をついた。
「お前さん、俺が何も手を打たないと思っていたか?」
『え・・・?』
「まず一つ、俺は昇格した。なんと、"少将"にな」
中佐から、まさかの少将。
かなりの昇格ではあるが、ではそれに何の関係があるのかと言えば
「レイゴルトの直属の上司になったのさ。今回の件と、そこまでに至る経緯、全部アイツに自由な行動を許した結果が繋がってるからなぁ。
昔っから懇々と言い続けていたが、中々聞いてくれなくてよ」
それはクリスティアも把握していたことだった。
だが聞き入れることは無いだろうと期待はしていなかった。
それが今回の件でレイゴルトの身体は危険な領域になっており、冗談抜きに寿命が縮む行為だった。
よって、以前より提言し続けたジャイロはそれが認められ、ではレイゴルトに真っ向から意見できるのは誰かと言われれば
「いやぁ、長かった。皮肉にもお前さんのお陰になっちまったが、これであいつも無茶は出来ねえ」
それはジャイロ=キロンギウスをおいてほかは無い。
コツコツと提言し続けたことが、ようやく花開いたという、紛れもない事実だった。
「・・・なぁクリスティア。お前さんには仲間が必要だ。その抱えた戦争が嫌だっていう想いを同じく出来る仲間がよ」
『仲間・・・』
「いるはずだ。賭けてもいい。そんでじっくり探しな。仲間も、そして答えも。
お前さんの兄貴はこっちで何とかするからよ」
呆然と見つめるクリスティアに、またジャイロは笑う。
「ああそれと、関係ないがな。レイゴルトには暫く休暇に入ってもらった。
度重なる無茶したぶん、身体を休めるべきだし、何より妹は死んだ。だったら、気持ちの整理は必要だろ?」
『それって─────』
どういう意味、と言おうとした瞬間に気配を感じた。
同じ加護が近づいてくる気配、それに間違いなどあるはずもなく。
『ッ!!』
すぐに魔電子体のクリスティアは、ギリシャから離れていった。
見送ったジャイロは、次の仕事と言わんばかりに書類に手をつけたのだった。
「はっ・・・はっ・・・」
『クリスティア?』
肉体に戻ったクリスティアは家を飛び出した。
物音で起きた狼姿のブランは、目を覚まして着いてくる。
そして、夜空を見上げれば見えてきた。
黄金の輝き、それが羽ばたいてくるのを。
一時的にだが、羽を休めにきた英雄が訪れる。
今は悪の敵ではなく、ただのレイゴルトとして降り立った彼の顔は、いつもより穏やかで
「・・・早い再会になったな、クリス」
「レイ兄・・・!」
兄妹はようやく、戦禍に関係の無い本音を言い合える機会を得られたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます