Chapter15「激闘」
一陣の風のように駆けるブラン。
野生の狼のように迫るその姿、獰猛で苛烈。
「ブラン!」
「ありがと」
クリスティアからの魔法。
主と使い魔のテレパシーにて思考が繋がり、クリスティアのやろうとすることが伝わる。
ブランの手には氷で出来たメイス。
無論ただの強度ではない。
クリスティアが度重なる
生ぬるい熱では、溶かすことはかなわない。
鬼に金棒とは、まさにこれ。
好戦的な野生と、理性の融合。
ブランが従来持つ強みを最大限に、英雄へ一瞬で迫る。
「甘い」
しかし、相手は英雄。
ブランが以前戦ったエリートと比べ数段違う怪物。
満身創痍、かつ獲物は残り一つにも関わらず完全にブランの動きを見切った上で。
「ッ・・・!」
一閃。ブランの獲物を斬り裂いた。
更に振るわれる、斬撃。
それは直撃は避けたものの、腕に掠める。
走る激痛。掠めたのみでも、それは滅べと告げるように黄金の輝きは痛みを与える。
「させないッ!」
繰り返される猛攻。
それはクリスティアから打ち出された砕けた氷の結晶が襲う。
元は氷の柱だったソレは、無数の棘になり降り注ぐ。
レイゴルトが全快ならば、七つの刃を用いて切り払ってみせただろうが、しかし今は一つしかない。
大きく下がり、降り注ぐ氷の棘の範囲から出る。
(ッ─────来る!)
レイゴルトの持つ刃に、黄金の輝きが爆発的に強くなる。
故国の誰もが知る、世界を裂く
もはやレイゴルトの自滅に期待出来ないクリスティアは、庇おうとするブランを予め思考の共有でやめるように支持して、クリスティアは自身の魔力を練る。
迸るのは、青白い稲妻。
氷点下の場所では封じられていたゼウスの加護が、スカジの加護により開花した魔法の才で強制的に稲妻の魔法を引き出す。
まさしく神威の天罰のように、その稲妻は圧縮され─────
「いけ・・・!」
レイゴルトが切っ先から放つ
衝突し、周囲に強い衝撃が走る。
「くっ・・・!」
足腰を落としてふんばり、拮抗し。
やがて衝突した光は、散り始める。
散った光は稲妻となり、四方八方に降り注いだ。
「っは・・・!」
いつもはレイゴルトが反動を受けながらも平気でやる一撃。
レイゴルトほどの反動は無いが、しかし急な魔力消費にクリスティアは立ちくらみをする。
しかしその隙をレイゴルトが見逃すはずがなく、直ぐに前へと駆けてくる。
「ブラン!」
「わかってる」
それも、クリスティアは読んでいる。
いつも見てきた。隙を見逃すことなど有り得ない。
だから自身の隙を埋めるべく、ブランをけしかける。
「ッ、つよい・・・!」
一合、二合、ブランとレイゴルトは打ち合うがやはりブランが押される。
持ち前のセンスと観察力で致命傷は避けているものの、次から次に切り傷が増えていく。
「そこだ・・・!」
立ちくらみから復帰したクリスティアがそれを見過ごすわけもない。
降り注ぐ稲妻と、吹き荒れる氷の棘による援護を行う。
テレパシーによる連携にて、ブランが巻き込まれることはない。
(大丈夫、抑えられてる!あとはこのまま・・・!)
レイゴルト側は静かに二人の連携に対応する。
素直に感嘆する。まさかここまでとは、と。
「見事だ。クリスの魔法使いとしての素質、使い魔のポテンシャル、そして連携・・・なるほど、よく俺を見てきただけはある」
迸る稲妻が掠め、刃を凍らせ、遂にレイゴルトは刃を手放す。
もう満身創痍のレイゴルトは勝てないのか。
否、そんなもので止まるはずもなく。
「─────だが、戦闘者としては三流だ」
「がっ・・・!?」
素手でブランの一撃を回避して腹に叩き込む。
刃は手放してしまったのではなく、あえてそれを選択しただけ。
武器を手放した英雄に対し、二人がかりであれば性能で上回るはずだった。
だが現実はこの通り、既になったレイゴルトはなおもブランを圧倒、そして─────
「くっ・・・!」
もう見切ったのか、クリスティアの魔法の猛攻を最低限の動きで回避する。
理性的で、かつ本能的。
最適解を瞬時に把握した上で、驚くほど賭けに出る。
「────手ぬるい」
短い観察からの、積み重ねた修練の成果。
ただそれのみで、二人の連携を凌駕する。
クリスティアの魔法を回避して、ブランを素手で圧倒し、思考を乱して連携を封じる。
「ふッ・・・!」
「ぐっ!?」
そして蹴りがクリーンヒット。
ブランはクリスティアの横まで飛ばされ、転がる。
(・・・ここまで、か)
万事休す。もはや真っ当に打つ手はない。
「覚悟を決めるがいい、クリス」
「・・・やだね」
「なら、まだ勝つための手があると?」
鋭い覇気を身にまとい、歩を詰めてくるレイゴルトに震えることなく、鼻で笑う。
「だから、言ったじゃん─────勝つつもりは無い、てさ」
「──────、───!」
ニヤリと笑うクリスティア。
刹那、吹雪は更に強くなる。
舞うのは青い蝶、それは魔力で出来たモノ。
常軌を逸した吹雪はレイゴルトの動きを封じ、蝶は複数・・・それらはレイゴルトに向かって風に乗って向かい─────
「───爆ぜて」
それらに稲妻を落とす。
超低温の蝶と、超高温の稲妻。
接触したそれらは────
「ぐっ・・・!」
連鎖的に爆発を起こす。
水蒸気爆発、クリスティアが用意した即興の切り札。
どれも魔力の密度が凄まじく、自爆しかねない威力。
それらすべて、レイゴルトの付近で炸裂した。
「はっ・・・はっ・・・!」
「クリスティア・・・!」
捨て身の一手ゆえに、もう先はない。
クリスティアはその場で膝をつき、ブランは戦闘形態を維持出来ず少年の姿に戻る。
しかし、クリスティアは勝ったと思っていない。
なぜなら相手は────
「────まだだ」
黄金の煌翼が舞い、爆風を跳ね除けた。
満身創痍も満身創痍、しかし雄々しい立ち姿に変化は何一つなく。
(だよ、ね・・・)
そして、驚きもしない。
倒れてくれ、なんて願いはあの男には無駄なもの。
つまり、クリスティアはこれによって勝つことは毛頭なく。
「────残念、レイ兄・・・
「なに────」
近づく気配に決着を確信したクリスティアはそう告げて、レイゴルトは驚愕から目を見開いた瞬間
「これは・・・!」
赤黒い魔力の爪、それらが雪を裂いて駆けてくる。
クリスティアに向けて歩を詰めていたレイゴルトは大きく下がり、正面を見る。
「よぉ」
少女の声でありながら、男のようなふてぶてしさ。
クリスティアの隣に立った人物は、白い髪を靡かせて赤い瞳でレイゴルトを捉え、口角を上げて
「───迎えに来たぜ、宝石ちゃん」
そう告げたのは、元日本軍所属であった黒外紫苑だった。
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