Chapter14「兄妹」
「さらばだ、
地に伏したのはジャイロ一人。
両腕は完全に砕け散り、胸を裂かれた男は倒れたのだ。
勝者は英雄、ただ一人。
七つの刃のうち、ただ一本を残して砕け散り、ジャイロの一撃が肩を掠めて一部結晶化する傷を負いながらも健在だった。
ジャイロが万全ならば、そう思わずにはいられない一戦。
しかしレイゴルトは友であったジャイロ相手に、躊躇なく斬り伏せた。
光の翼を展開し、空を見上げる。
障害は排除した、あとは決めたことを遂げるのみで。
「お待ちください!せめて治療を!」
「不要だ。時間が無い」
部下の制止を聞かず、宙に浮く英雄。
憧れを通り越して、もはや畏敬の念を抱いた彼らはもう誰も止められるわけもなく。
レイゴルトはそのまま飛翔し、クリスティアを追うべく空を駆けた。
雪の大地を駆ける影が二つ。
ブランがクリスティアを背負い駆ける。
現在地、北海道。
大陸を突っ切って、そこから船で日本に渡った。
ここから北海道の目標地点に急げば、後は取引通り。
「・・・おっさん」
この北海道に着く前、少しの間だけ
予想通りの流れであり、結末は見届けられなかったものの、あの身体では結末も既に・・・
つまりは一人、犠牲になった。
命を懸けられてしまったクリスティアは、罪悪感に押しつぶされようとしていた。
「ブラン・・・」
「なに?」
「ブランは、死なないよね・・・」
「そんなつもりないよ」
少し力を込めてしがみつき、涙を目に溜める。
ブランは変わらず、全力で駆ける。
一刻も早く、そうでなければ───
「────そこまでだ。お前の慟哭は此処で終わる」
天から降り注ぐ
それがブランの前に、薙ぎ払う。
「っ・・・!」
当然ブランは止まるしかなく、クリスティアを背負ったまま見上げる。
そこに浮かんでいたのは、雄々しき英雄。
「────来たんだ、やっぱり」
「無論だ。俺の責任は、誰かに替えられん」
見た目が変わったクリスティアに、しかしレイゴルトは迷いなく断定した上で
同じゼウスの加護を受けたものとして、その気配は誤魔化せない。
「・・・様変わりしたな、クリス」
雪の大地に降り立ったレイゴルトは、静かにクリスティアに告げた。
臀部まで伸びていた青白い髪は、今は少し束ねて肩にかけたネイビーの髪。
容姿は変わらないが、それはひと目では分からないほど。
急激に変わり続ける環境に、クリスティアは疲弊してやつれていた。
無論環境だけでは無いが、疲弊するには充分だった。
「・・・そっちも酷いね」
対し、レイゴルトはダメージが深刻だった。
結晶化した肩の部分から光が漏れて、恐らく今は体内は激痛が走っている。
戦う時もそうだったが、ここまで追うまでも限界を超えて追い続けたのだろう。
刃は一つしか残っていない。
お互いボロボロだ。
まさかこんな形で向かい合うとはお互いに思わなかった。
「・・・ちょっと前なら、自分から斬られてたんだけど」
ブランの背中からゆっくり降りる。
ブランの後ろに立ち、しかしレイゴルトを真っ直ぐ見つめる。
「死ぬ訳には、いかなくなったんだ。
あたし、命を懸けられちゃったから」
刹那、髪が青白い色に戻る。
吹き荒れ始める吹雪。
三人を取り囲う、突然の悪天候。
「・・・クリスティア、それが」
「ごめんよ、言う余裕もなかったけど。これがあたしだよ」
クリスティアの本来の姿を見たブランは、呆然と見上げ。
しかしブランは謝罪を聞いて首を横に振り。
「綺麗だよ」
「・・・そか」
こんな時だというのに、そんなことを言われては気恥しい思いをした。
その間に出来上がる氷の柱。それはクリスティアたちの背後に沸き立つ。
徹底抗戦。クリスティアは選択した。
「ならば良し、その決断を尊重する。
好きに尽くせ。されど止まらん、俺は必ず勝つ」
レイゴルトの持つ刃が、黄金に煌めく。
片眼も黄金に輝く、変わらず身体は激痛に侵されているのにも関わらず出力は増している。
「・・・"勝つ"、かぁ」
決意の輝きを放つ兄を見て、クリスティアは苦笑を浮かべる。
「あたしは別に、要らないよ。
けれど、敗北も要らない」
最初から、そんなものは求めてない。
「・・・あたしの我儘、貫くだけだから」
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