Chapter13「鋼鉄と黄金」
「「創生せよ、天に描いた極晃を───我らは煌めく流れ星」」
同時に告げ始めた詠唱。
お互いの星光を発動すべく、更なる詠唱を重ねる。
「世界を覆う、負の連鎖。太古の秩序が暴虐ならば、その圧制を我らは認めず是正しよう。
勝利の光で天地を照らせ。清浄たる光と共に、新たな希望が訪れる」
振り抜かれた二つの刃に、光が満ちる。
黄金の輝きを、今まさにあらゆる者の瞳に焼き付ける。
「
遍く絶望を焼き尽くせ。
我が身を縛る鎖は最早なし、鋼の覇者は
終わりなき地獄を前に、しかし雄々しく立ち向かおうとする様は、他者から見ればやはり英雄。
「聖戦は此処にあり。さあ人々よ、照らした道を進むのだ。
約束された安寧を、この世界で叶えよう。」
そして遂に、胎動した光は・・・爆発的に刃に宿る。
「
覇者の光、それに相対するジャイロは恐れない。
「鏃から血肉の全てを蝕む告死。永劫終わらぬの
そう相対する強者は、己が師の神話を踏破する。
「蹄を鳴らせ、弦を引け、矜持を胸に地平を駆けろ。苦悶と嘆きにこの剛弓が朽ち果てるなど有りはしない。
なぜならば、耳を澄ませば聞こえてくるのだ───
毒牙に侵されようが、知ったことではなく・・・ああそうとも、ずっと聞いて見てきたのだから。
「おお、遥かに煌めく絶滅光よ。星座となるには早すぎる、まだ戦えと言ってくれるのか。
ならば我が身は全身全霊、すべてを懸けて応えるのみ」
だから立つ、立ち上がる。
「爛れた血肉は切除した、鋼の四肢を取り付ける
穢れた血潮は総じて無用、燃える魔力と入れ替えようぞ」
それが、決意。
今の己が歪だろうと、目の前にいる馬鹿一人を止めるために。
「最果てに到達し、星座に列するその時まで。さあ戦友よ、轡を並べていざ往かん
約束された誓いを掲げ、邪悪を穿つ矢を放て」
馬鹿一人とまた、肩を並べる為に───
「
鋼の両腕に宿る紫色の光。
神さえ殺し得る殺意。
神話を超越し、己自身を矢として英雄に立ち向かう。
ぶつかり合う星光。
鋼の腕と、光の刃は衝突した。
その刹那、光の刃は砕け散る。
「ち・・・ッ!」
破壊力に特化したレイゴルトの能力に対し、ジャイロもまた破壊力に特化した能力。
それは「物質を強制的に脆い結晶に変化させる」能力。
あらゆる物質、どれだけ固くとも不滅でも、有機無機問わずに脆い結晶に変化させるそれもまた必殺の業。
よって、たとえキュクロプスの創り出した刃でも、それは脆い結晶になりて砕け散る。
早速ジャイロに優位が傾いたと、そう思った。
「ぐ、ぅ・・・っ」
ジャイロの両腕に走る激痛。
そう、義手が適合しきれていないジャイロに能力の反作用が帰ってくる。
両腕が、砕けそうなほどの激痛。
足を止めてしまうほどの苦しみ。
しかし────
「まだだッ!」
止まらない、立ち向かう。
ジャイロもまた、光狂いが故に。
戦友に向けて、本気で食らいつく。
「レイゴルト、お前は気がついてねぇ。それがどれだけ恐ろしい所業か分かってるのか」
話の続きだ。
死闘を始めつつ、言葉を使ってぶつける。
互いが互いの業を回避しつつ、至近距離の舞踏を演じつつ、意志を伝え続ける。
「妹だぞ、家族だぞ?大事じゃなかったのか?お前が説得に任せられる誰かは、本気で居ないと思ったのか?個人の純粋さ?ふざけるんじゃねぇ、違ぇだろうがそれは!」
先程聞いた決意を認められず、訴えは止まらない。
「なにを格好付けてやがる!俺たちは笑顔の盾だ!
一人で事は動かねえんじゃねぇ!動かしちゃならねえんだよ!
こうなる前に、何か手はあったのをお前は────!」
絶叫と共にぶつける拳は、また一つ刃を砕く。
両腕の義手と生身から血飛沫をあげなから、しかしジャイロは苦悶の表情を一瞬しつつも止まらず。
「実の家族であっても命を奪う英雄になんの憧れを抱けと言うんだ馬鹿野郎がッ!
軍人は暴力という必要悪を用いてもなお、守り抜いた笑顔を誇りにするものじゃねぇか!
やり過ぎなんだよ!自分の道を行きすぎだ!それはもう、狂人のそれなんだよ!」
訴えを、静かにレイゴルトは受けて。
「ああ否定はせん、俺は歪んでいる」
静謐に、肯定して。
そしてこれより、レイゴルトの本性は紡がれる。
「愛、友情、信念、決意・・・それら善の輝きは尊いものだ。守らなければならないと分かっているし、それを守り抜くために命をかけねばならんことにも、ああまったくもって異論はない。
だからこそだよ、俺がそれを許せないのは」
溶岩のように重たく沈んだ怒りが、奴の中でゆっくりと胎動を始めて行く。
「善は弱い。小賢しい悪を前に容易く蹂躙されてしまう。
実際、世の歴史に台頭してきた強者とはその大半が悪党だ。ひとたび歴史を紐解けば、誰でもそう気づくだろう。
世界は驚くほど正しい者が身を削るように出来ている。
礼を知り、忠節を果たした兵が無事に帰ってきたことはあるか?
納めた税が正しく使われた機会を、お前は見たことがあるか?
施政者の手元を巡り二度と日の目を見ないことが日常茶飯事ではないか?
それを悔しいと俺は思う。
許せんのだ、そういう塵が己の悪を隠しながらほくそ笑む───その醜さが。
勝ちを諦めた途端、他者の妨害に嬉々として勤しむ恥知らず。
現実から逃避して凶行に走る腰抜けども。
声高々に弱者であると吹聴しながら甘い蜜を啜る輩などに至っては、見るん堪えん糞袋だ。
誰が見ても下劣だと分かるだろうに、しかし世界は奴らの存在を黙認している。
苦しむのは常に善良な
何故だ? 何なのだ、その不条理は? ふざけるな。
死ねよ貴様ら、
苦悶の喘ぎを漏らしながら地獄の底まで堕ちるがいいッ。
それが叶わぬというのなら・・・
裁断者が必要とされるならば、いいだろう、俺がやってやる。
罪には、罰を。
悪には、裁を。
奪われた希望には、相応しい闇と嘆きと絶望を。
そうだ、俺は歪んでいる。光を守る? いいや否。
“正義の味方”には程遠く、もはや目指したいとも思っておらん。資格もない
俺はその逆、邪悪を滅ぼす死の光に───“悪の敵”に成りたいのだ!」
正義はなく、悪を滅ぼす何者か───それこそが
軍人の務めでは生ぬるい、守りたい笑顔がそこにあり、ならばそれを打ち壊す悪が自国にすらいるならば─────
そう、レイゴルトはこうする他ない。
すべてをこなす以外に、有り得ないと。
「ぐっ、くそ・・・!まだだァッ!」
「いいや、俺こそ───まだだ」
ほんの短い戦いの中でも、もはやジャイロの能力による反作用は致命的な領域になる。
全身から血飛沫をあげ、鋼鉄の腕はひび割れる。
それでも英雄の刃を一つ、また一つ打ち砕き、そして────残り二本。
どちらもが光狂い。
この短い戦いでも、お互いの出力は際限なく上がり続ける。
余波で周囲の兵士が下がるほどに。
しかし、やはり終わりは直ぐに訪れるもので────
「「"勝つ"のは────俺だッ!」」
お互いの懸けた一撃は交差────決着の時は、訪れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます