Chapter3「英雄譚・狂乱」
もはや端役の入る余地のない物語。
天に轟く
燦然と語り継がれる真の
「─────ふッ!」
此処に集う三者。
破壊力という一点なら、紛れもなくレイゴルトが最強だろう。
この中で唯一の人類種でありながら、悪鬼たちに破壊という点で勝っていた。
繰り出す光刃は天下無双の
あらゆる現象も貫く
悪の敵になりたいという祈りと決意が、激しい光を生み出し、迫る怪物を迎え撃つ。
その名を、"
無論、そんな破壊力を常に放ち続けるということは、その反動を常に受け続けるというもの。
発狂しかねない痛みを抱えながら戦っているのだから、もう立つことすら論外であろうに・・・
「どうした。何を手間取る魔星ども────俺は健在だぞ。
長期戦なら俺が音を上げるとでも?甘い。
俺の
眼光は変わらず、立ち振る舞いも荘厳。
絶望も敗色も見られない、道理や理屈を轢殺しながら二体の怪物を殺しにかかる。
体捌きが、判断力が、また一段階成長する。
より洗練された殺戮舞踏が、怪物の首まで目前から紙一重と迫る。
まさしく人間として磨き抜いた強さと集大成。
呆れるほど技術を極め、生じる痛みを我慢して、命を燃やし明日を目指して突き進む、まさに輝きの集大成。
特別なことなど、何もしていない。
夢を抱き、叶えるために常々努力を絶やさず全力を尽くしてきた、その結果だ。
「はははははッ────なるほど、こいつは
大衆ならば、ああ尚更。おまえさんの輝きにコロッと心を奪われちまう」
だからこそ、戦鬼は笑う。
レイゴルトを心の底から認め、その馬鹿馬鹿しさを嘲笑う。
「断言するぜ、おまえさんは伝説になる」
そして確信に満ちた祝福であり、呪詛。
誰よりも人を殺す生き物なのだと、愛おしく宣言する。
「だからこそ憐れでならんよ、オレが今から救ってやる。
せめて、オレが、正しき
慈悲に満ちたような戦鬼なりの言葉をかけきる前に、くぐもった笑みを漏らして。
もういいや、と人格者の皮を脱ぎさって
「ああ、ああ、ああ、ああ、知らねえなァッ!死んでくれ!とにもかくにも死んでくれ!
ただひたすらに殺して殺して殺したいんだよ!
だから
喜悦と共に弾け飛ぶ身勝手な願望が、カーネイジの出力をはね上げた。
露呈したのは単調かつ悪辣な殺人願望。
物質の結合を砕く負の瘴気は、更に濃くなった。
襲いかかるカーネイジに、カウンターによる斬撃をするレイゴルト。
しかしこれまでと違い直撃を狙いづらく、膂力の差をつけられ始めた。
「これが貴様の本性か」
「おお、そうとも!とっくに分かっていたと思ったがなァ?あるいは、その気配はあったが確信に至らなかったから自分の目で見て判断するって?
ご立派だねェ、死んでくれ!大したもんだよ、死んでくれ!
潰れた脳が、砕けた骨が、弾けた血肉が見たいんだ。
だから、早く、もっと、もっと───夢高らかに心地よく、英雄殺してみたいんだよォォッ!」
「そうだ、死ね。その存在は一秒たりとも許されん」
戦鬼の咆哮にあわせるように貴族は憎悪と共に、氷河の杭をいくつも降らせてゆく。
直撃になる杭のみを、レイゴルトは捌いてゆく。
だが無論、刻まれた杭も外れた杭も、今一度、今一度と、幾度もレイゴルトを襲う。
「逃げても無駄だよ、ここはもう私の花園だと知れ」
レイゴルトがこれを打破するには、辺りを焦土とするしかない。
可能ではあるが、クリスティアがいることと、根こそぎ余力を使い切る故に選べない。
それこそ、殺したがりのカーネイジが放ってはおけないだろう。
無差別に氷河を作り出す貴族、その影響を受けずに特攻してくる戦鬼。
確実に追い詰められてゆくレイゴルト。
だが・・・
「その程度か?違うだろう、こんなものでは話にならん」
長期戦ではレイゴルトは部が悪い。
そんなこと、とっくに理解している。
そもそも魔星の能力など、当然頭に叩き込んでいる。
何度見返したかも分からない、書類上の情報など熟知している。
だからこそ、今の状況はレイゴルトにとって予想通り。
戦鬼と貴族の全力も、これといって理解の外を出ていない。
では何故、彼は予測できた劣勢に甘んじているのか?
力任せで、付け入る隙があるから?
わざわざ煽って馬鹿にしている?
逆転を狙う?単に必死に凌いでるだけ?
どれも、違う。
答えはもっと彼らしいもので────
「蕃神の遣いというなら、少しは迫ってみせるがいい。破壊に長けた貴様らがこの程度で、いったいなんの価値がある」
この戦いさえ、神へ挑む糧とする為に。
見極め、足掻き、全霊をかけながら、この死闘を選んだ。
そう、レイゴルトが似合わぬ防戦を選んでいたのは、これから先を見越しての判断に他ならない。
すべては、やがて来たるべき蕃神との戦いの為に。
彼はこの一戦で自分の命を対価にしながら、敵の最高戦力を完全に見切ろうとしていた。
「貴様、ああどこまで──!」
その精神が、フリーズの癇に障る。
的確に苛立たせる男に、憎悪が唸る。
視線はこちらに向けてるし、観察されてはいるものの、実体として眼中に無いことが明らかだ。
レイゴルトが見据えるのは、常に変わらず未来だけ。
だからその対比として、前段階の障害は軽く見えてしまう。
「いつまで私を虚仮にするのか。しかもそれに飽き足らず、我々の主まで届くとでも・・・ッ」
だから、自分が軽く見られている事実に、激しい怒りを抱く。
許さない、許せるはずがない。
「心一つで何でも出来る?馬鹿げた男だ、虫酸が走る。狂犬め、塵め、雑多な血筋の分際で─────」
これまで散々邪魔をしてきた怨敵に対する憎悪が、沸騰して螺旋を描き、絡みつき・・・
「魔星を、蕃神を、一体なんだと心得る!弁えろォォッ!!」
咆哮する凍結貴族。瞬間、彼の出力は跳ね上がった。
「────なんだと?」
「ほほう、こりゃまた。
自壊を無視して跳ね上がる出力。
もはや麻痺して自分では自壊に気づかないほど。
他ならぬ怨敵を前に、ついに凍結貴族は一段階神の領域に近づいた。
「殺す、殺す・・・貴様だけは、必ずこの手でッ」
垂れ流す呪詛、雑念などない。
能力任せの凍結貴族、それが怒りに任せた時にどうなるか。
「逃げ場など、一切残すと思うなよォォッ!!」
優雅さなど切って捨てて、怪物らしく暴力の最大値を叩き込まんとする。
荒れ狂った暴力が、ただ振るわれるだけで何にも勝る脅威となる。
フリーズの両腕に吹雪が収縮する。
周囲もまた急速に凍結し始め、そして
「──────ッ」
気がついた時にはもう遅い。
レイゴルトの足と大地を縫い付けるように凍りつき、身動きは取れない。
そして────
「ひぃぃ、ヤッハァアアアアッ!」
ついに生じた致命の隙を、殺したがりが見逃すはずがなく。
瘴気を纏った戦鬼が、凍結した大地を突き進む。
邪魔となる足場だけを結合分解させながら、剛腕をレイゴルトに向けて振りかぶる。
ついに殺せる、この英雄を。
想像したらたまらない、絶頂しそうなほど。
身勝手な暴走が、出力を上げる発火剤となり。
「さあ、惨く華麗に逝ってくれェッ!」
「貴様が、なッ────!」
そして至近距離でぶつかる光輝と瘴気。
直撃する寸前に放った迎撃の横薙ぎが、英雄の死を食い止めた。
戦鬼は必殺を防がれてしまったが、しかし嗤う。
これはお膳立て、自分の手で殺せないのは惜しいが、ここは義理堅く────
「これで、今こそ────」
恨みはやはり、当人の手で遂げてこそ。
フリーズは限界を超えて左腕が完全に自壊しきって、ならばと右腕で出来た巨大な氷塊を掲げ。
「終われ、レイゴルトォォ─────!!」
それを一直線に落とし、爆散させた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
血を撒き散らし、砲弾の如くレイゴルトの体躯が飛んだ。
勢いよく瓦礫の山に突っ込み、それはまるで墓標のよう。
人間を押しつぶす質量の氷塊。
肉は残らず潰れたはず、それが貴族の心を高揚させた。
ああ、なんと甘美なことか────
「ふ、はは────はははは、はッ」
とめどなく溢れる歓喜。
心の底から打ち震え、堪らぬという風に口角を吊り上げた。
「お見事、やったじゃねぇかよ」
「当然だ。これでようやく歪んだ道理は正された」
愚衆の望む
それを成した事で、己の優位性は確保された。
事実、フリーズはレイゴルトを上回ったといっても過言ではない。
完膚なきまでに、それを証明して見せた貴族はとにかく悦に浸る。
そして──────
「レイ、にぃ・・・」
ああ、やはりと。
しかし、受けた衝撃は覚悟に反して喪失感が勝り。
無敵を誇っていたと無意識に、自分すらも思っていた事実に罪深さを感じ。
家族を、喪ってしまった悲しみに湧き上がる負の感情。
相手の方が強かった。
その事実に受け入れ難い思いが何処かにある。
「─────いいや、まだだ」
ならばこそ、条件は達成された。
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