Chapter1「魔力干渉」
"勝利"とは、何か
"栄光"とは、何か
それによって、何も失わずに済むのか。
それによって、幸せになるのか。
あたしは切実だった。
勝利とは恐ろしいものだと、あたしは傍にいた家族が証明していたから。
でも勝利は大事なものだとも、分かっている。
全く必要ないなんて、それは心底ありえないと思ってはいる。
どんな生物であろうと、一度は勝利という結果を目指す。
それが自然で、当たり前のこと。
負けばかりの生涯はそれこそ厳しいのだから。
だから、あたしは決断した。
そもそも、勝敗の概念から遠ざかってしまえばいいと。
だから、あたしは決断した。
加護を受けていながらも、あたしはフリーのウィザードハッカーで在り続ける。
力ある者の責務とやら。
栄光ある兄に隠れた日陰者とやら。
好きに呼べばいい、あたしは決めたのだから。
恥も外聞も、とっくに捨てた。
「─────
兄、レイゴルト=E=マキシアルティはギリシャ軍の大佐。
その妹であるあたしの名は、クリスティア=E=マキシアルティ。
兄妹揃ってあたしたちは、ギリシャの総てを支配できる万能の雷神"ゼウス"の加護を受けている。
けれど、主にその恩恵を受けているのは兄のほう。
兄は強い、誰よりも。
だから選ばれたし、みんなに認められている。
つまりあたしは、その予備。
具体的な力を得たわけではない。
だからあたしは得た加護から、この力を作った。
それは、
雷の力を使い、自身を魔電子体に変化させて空気中に漂う魔力を通じて、あらゆる魔力に通じた道具等に干渉する。
道具に入るもよし、道具を操るも良し。
要は、幽霊のようになる・・・といったところか。
通じるものは魔力以外でも、妖力、そして神による奇跡も。
もっとも、強い力では無いので神造兵器や専用に改造された兵器等を操ることは出来ないが。
昼時、あたしは自分の部屋で日常的に行う
黄金の魔力は、そのままあたしの霊体のような形を作って漂う。
やることは、いつも同じこと。
荒神の陣営と蕃神の陣営の区別なく、あらゆる機密情報を盗み見ること。
必要と感じたならば、兵器に干渉することだって厭わない。
「・・・なに、これ」
いつも通り、そう思っていた。
蕃神陣営、それも主にギリシャを狙う軍勢。
その情報を探った時、最悪な情報を見た。
「今夜、首都を奴らのエース級を二体投入だって・・・!?」
ギリシャ軍人を散々苦しめてきた殺戮者。
それが今すぐにやってくる。
「兵器に干渉、司令に・・・いや、ダメだ・・・!もう遅い・・・!」
今夜襲撃されるという決定事項を、今更覆せない。
何故今まで気づかなかったのか。
いや、気づかれないように秘密裏に司令を送ったのか。
或いは、たまたま昨日発令されたばかりで知ることが出来なかったのか。
どれでも構わない、いずれにしても今夜やつらは必ず現れるのならば。
今すぐにギリシャ軍本部に、奴らが来ることを知らせなければならない。
「
一度自身の身体に意識を戻すことなく、直行でギリシャ軍本部に空気中に漂う魔力を通じて向かう。
「知らせる手段・・・会議室・・・ごめん、落書きみたいになるけど・・・!」
そしてたどり着いた本部の会議室の一室に置かれた紙に首都襲撃を知らせる一筆を記す。
せめて、せめてこれで通じてくれと。
そう、もう時間が無い。
「接続終了・・・!」
限られた時間で伝えられるだけ伝えて、自身の身体に帰還する。
こんなに長い時間、それもこんなに深く使うことはあまりない。
長時間使うと分かっていれば、一度自分の身体に戻るというもの。
それをやらなかったということは、つまりは
「っは・・・、は・・・は・・・!」
多大な負荷がかかるというもの。
そもそも自己改造した魔法なものだから、若干の不安定さは免れない。
「まにあって、もらわないと・・・こまる、なぁ・・・」
まだまだ発展の余地がある。
半年もあればかなり安定させられるだろうと思ってはいるものの・・・それも生きていなければ意味が無い。
どうか、間に合ってくれと慣れない願い事わしながらクリスティアは気絶した。
───────その夜、首都は炎に包まれていた。
「・・・ぁ」
間に合わなかったのか。
ようやく目が覚めたクリスティアは、外の景色を見て息を飲み、絶望した。
否、間に合わなかったわけではない。
ただ、間に合ったが敵わないだけ。
エース級、というには生ぬるい魔人・・・いや、魔星と言わんばかりの強大な存在たちが、ギリシャの軍人たちを滅ぼしていた。
戦鬼というふうな姿から繰り出される赫黒い爪は、あらゆる物質を角砂糖のように分解した。
貴公子というふうな優雅らしい姿から繰り出される息吹はあらゆる物質を凍りつかせる。
兵士たちの兵器を、兵士ごといとも簡単に滅ぼしてゆく。
怪物だ、化け物だ、あんなものに太刀打ち出来るものが想像出来ない。
間に合う、間に合わない問題ではもはや無かったのだ。
クリスティアは、あれが何なのかを知っている。
「
ギリシャを苦しめる絶望の象徴、その双璧。
蕃神の使徒たるあの鬼と貴族は、業を煮やして遂に使徒を襲ったのだ。
神の加護だとか、誇りだと言いながら。
冗談じゃない、こちらが一方的に滅ぼされてるだけじゃないか。
「──────っ!」
震えて見ていると、奴はこっちを見た。
戦鬼が、貴族が、あたしを捉えた。
やってくる。
あらゆるものを分解する爪を鳴らして
あらゆるものを凍りつかせる息吹を放つ両腕を構えて
ゆっくりと歩いてやってきて─────
「─────そこまでだ」
弾かれるように、そちらを向いてしまうほどの覇気。
荘厳にそれを示す軍靴。
七つの刀を腰に刺し、堂々たる男の声。
それが、あたしの家を守るように立った。
ああ知っている、その男を。
なぜならあたしは────産まれた時から、その背中を見てきたから。
男の名は、レイゴルト=E=マキシアルティ。
ギリシャを守る、黄金の英雄─────
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