宝石と狼と逃避行

@axlglint_josyou

Prologue

「あたしね、やっぱり戦争そのものが不満なんだ」


クリスティアは、家族のいない自分の家でナイフを一つ手にした。

青白く臀部まで伸びた髪を、まずは束ねる。


周囲を見渡す。

もう最低限の用意は終わっている。

この家に、もう二度と戻れないだろうから・・・せめて少しでも目に焼き付けたくて。


「ごめんよ、レイ兄。でも、あたしは行くよ。

誰かの命を奪う側に、あたしはやっぱり加担出来ない」


そう呟いて一息に、ナイフで自分の髪をバッサリ切った。

残った長さで束ねてみれば、もう肩にちょっとかかる程度になっている。


それは、一種の決別だったのだと思う。

自分の重りを、一つ外すような。


目の前にある外への扉。

そのドアノブを手にした時に思い出す────この逃避行の始まりとなった出来事を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る