第149話 古参の騎士

 王都ルマニアの野性味溢れる道を進み、アニエス王国の城に到着したのは私ことサクラ・トレイルである。街並みからどんなワイルドな城に住んでるのかと恐々としていたけどパッと見普通のお城のようだ。


「なんだその顔は」

「なんでもないよ?」


 ジト目で聞いてくるライアスにとぼけてみるとため息をついてそれ以上の追求は無かった。別にどんなワイルドな城が見れるのか楽しみにしていたわけじゃないんだからねっ! 心の中が謎のツンデレ口調になってしまったけど聞かれてないからよし。


「「お帰りなさいませ」」


 城の前まで行くと門番さんが一礼してから開門する。さすがライアスだね。


「顔パスなのね」

「一応俺王様だからな?」

「いや、私達は王族なのに信じて貰えずに止められた人知ってるから……」


 マジュリーとかね。


「その国大丈夫なのか?」

「大丈夫だと思うよ」

「アイリちゃんがしっかりしてるものね」


 代替わりした時にマジュリーだけだと不安があるけどアイリちゃんがいれば大丈夫だろう。


 車を降りると羊の獣人の執事さんが案内してるれる。気配を消すのが上手い。私は気付いたけどね。


「ドヤ顔してないで行くわよ」

「うぃ」


 置いてかれそうになって慌ててついて行く。しばらく歩くと客室に着く。


「こちらでおやすみくださいませ」


 一言だけ言うと執事さんは姿を消した。


「しばらくしたらさっきの執事が二人を呼びに来るはずだ。それまでは悪いが部屋にいてくれ」

「了解。何か準備はいる?」

「そうだな。特に必要なものは無いけど動きやすい格好がいいかな」


 普段着でいいか。あ、そういえば。


「なんで私達のこと呼んだの?」

「は?」


 聞いただけなのにライアスのコメカミに血管が浮かんだ。え? 怒られるところ?


「お前の相方セレスが原因だろうが。何も聞いてないのか?」

「何も聞いてないよ?」


 カトレアちゃんを見ても首を振っている。私の相方カトレアにも心当たりはなさそうだけど?


「マジかよ。じゃあ後で説明するわ。仕事抜けて二人を向かいに行ったからさっさと終わらせてくる」


 脱力した様子のライアスだったけど気を取り直して部屋を出て行った。


「忙しそうだね」

「そうね。過労で倒れないといいけど」


 服を着替えてまったりしつつ執事さんを待つ。


「この国にもアビスの欠片はいるのかな?」

「ドメーアの嫉妬の欠片クジラみたいなやつ?」

「そう。気になってね」


 レオンがどの欠片を持っていたのかは知らないけどセレスが過去の世界で欠片を分離させて封印したのなら神殿みたいなものがあるはずだ。


「直接聞くしか無いわね。ライアスなら答えてくれるでしょう」

「そうだね。もしかしたら既に倒してたりして」


 コンコンコンっ


 しばらくするとドアを叩く音が聞こえる。執事さん……とは気配が違うね。カトレアちゃんに視線で合図を出してからドアを開ける。すると腕から羽の生えた撮りみたいな獣人が立っていた。


「城に来たのに俺様に挨拶をしない不届き者はお前たちか! 俺様は寛容だから許してやるが次からはいの一番に俺様のところに来るのだぞ!」

「は?」


 訳の分からない主張に呆然としてしまう。


「そうかそうか。俺様に見とれているのか! 俺様は魅力的だから仕方ない! お前を俺様の嫁にしてやるぞ!」

「は?」


 今度はめっちゃ不機嫌な声が出る。このバカは名乗りもせずに何言ってるの?


「申し訳ありませんがあなたには一ミリも興味無いので。誰だか知りませんが二度と関わらないでください」


 ガンッ!


 ドアを閉めようとすると足をドアの隙間に入れて止めてきた。ぶん殴っていいかな?


「俺様を知らないだと!? 俺様は数少ないグリフォンの獣人にしてこの国最強の男! ローレン・グリフォード様だ!」

「そうですか。あなたには用が無いので帰ってください」

「照れなくていいぞ! お前は俺様の嫁になるのだかr ぐはっ」


 ライアスの客だから我慢していたのにカトレアちゃんが殴ってしまった。しかも片腕だけ大狐に変えている。


「カトレ」

「サクラはこんな男が良かったの?」

「全然良くない!」


 咎めようとしたら据わった目で聞いてきたから急いで否定する。勘違いでもそんなこと思わないで欲しいね。


「でもライアスが……」

「なら文句ないわよね?」

「イエス・マム」


 私はカトレアちゃんのニッコリ笑顔に文句を言うなんて無謀な事はせずに敬礼して返事をする。全部ライアスが全て悪いと言うことにしてしまおう。ローレシアだかロールケーキだか知らないけど鳥の獣人を放ってドアを閉めようとしたら執事さんがやってきた。


「何事で……ローレンが失礼しました」

「いえ、こちらこそ壁を壊してしまい申し訳ないです」

「いえいえ、ローレンが絡まなければ壊れることも無かったので全部ローレンに弁償させますよ。それと陛下の準備が出来ました。ついてきてください」


 現場を一瞥して全てを察した様子の執事さんはテキパキと使用人に指示を出す。有能な人だね。執事さんの後ろを歩きつつさっきの男について質問する。


「あれはどうして城の中に?」

「いやはや、お恥ずかしいことなんですがあれでも傲慢さにさえ目を瞑れば有能な男なんです。それにグリフォンのように特別な獣人は寿命も長く……先々代。いえ、初代から近衛騎士をやっているため最古参の人間なんです」

「排除も難しいのね」

「カトレア! ストレートすぎるよ」


 顔も広く城の人達の弱みやら何やら持ってるのかもね。傲慢さが無ければ優秀なんだね。……そうか、傲慢か。昔からいることも含めて怪しいかな?

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