第148話 仲直り

 頭を冷やすために車から出て後ろを走っていたのは私ことサクラ・トレイルである。ライアスの護衛が付いているため魔物が来ても基本的にやることは無い。護衛の人たちの半分はオープンカーのような形の魔動車に乗っている。私のアドバイスでハカセが作った車だね。残り半分の護衛の人達は馬を使っている。


「オープンカー導入されたんですね」

「おーぷんかー? なるほど、この屋根空車のことですか。最初は馬に関わる人達に反対されたみたい何ですが棲み分けができるからしぶしぶ許可が出たみたいですよ」

「なるほど。影響が少ないんですね」


 最初、ルアード商会でオープンカーを作ったのは良いけど馬丁などの職をなくしてしまうことを懸念してお蔵入りしていたのだ。どうやらオープンカーは魔法使いはまだしも騎士たちには一人で運転しつつ魔物と戦うのが難しいため、人数を確保できる騎士団でしか使用できないから国相手に売られるようになった。今度戦車でも……いや、オーバーテクノロジー過ぎるから止めておこう。


 途中、カトレアちゃんの驚いた声が聞こえたりライアスと二人で笑いあったりする声が聞こえ、もやもやしつつも我慢する。護衛さんに一言断ってから魔物の間引きに参加する。……戻った時にどちらが魔物か分からなかったと失礼をかました一人は一発殴っておいた。


 魔物相手に八つ当たりをして気持ちを切り替えた私が車の中に戻ろうと車の中を見るとカトレアちゃんとライアスの二人の距離が縮まっている気がする。うーん? 良いことなのに素直に喜べない。仲良く笑いあっててなにかずるい。


「サクラお帰りなさい」

「ただいま」


 車に入るとカトレアちゃんが出迎えてくれた。ちょっとしたことでも嬉しいね。


「「ごめん」」


 座席に座ってから謝るとカトレアちゃんと被る。互いに逡巡し、私から話始める。


「えっと、カトレアを信用してないわけじゃないんだけど、聞かれなければ言わなくてもいいやと言い訳をしていました。カトレアは優しいから私が言いたく無さそうにしていたら聞いてこないと分かったうえで……。ごめんなさい」

「そう。いいわよ。そもそも怒ってないわ。ちょっと悲しかっただけだから」

「うっ」


 ちゃんと謝ってから頭を下げる。許してくれただけど心に刺さるね。


「私も、サクラの気持ちを考えれば言えなくてもしかたないのに拗ねちゃってごめんなさい」

「カトレアに悪いところは無かったと思うんだけど……」

「けじめの問題よ」

「そっか。それでカトレアが納得できるなら許すよ」


 気恥ずかしくなって互いに視線を逸らす。するとニヤニヤしてるライアスが目に入った。


「一件落着ってか?」

「そうだ。サクラは猫宮さんが女性だって知ってた?」

「……へ?」


 猫宮って日本の時の後輩だよね? 女性だったの? ちらりとライアスに視線だけ向けると口を押えて笑ってる。これはカトレアちゃんが茶化してきてるかライアスに騙されているかかな?


「まさか、その手には引っかからないよ! ねこみやは男でしょ?」


 私が宣言すると噴き出すライアスと残念なものを見る目を向けるカトレアちゃん。え? マジだったの?


「あはははは。やっぱり桜庭先輩は俺の前世を男だと思ってたんですね」

「全く気付かなかった……」


 確かに中性的な顔というか男としては可愛い顔してたけどまさか女性だったとは。食事にはよく行ったけど遊びに行くのは少なかったんだよね。それに胸も慎まし……こほん。今の私と同じくらいだし、気付かなくても仕方ないよね?


「あ、肩を叩いたりするの訴えようとか思ってた?」

「ぶふっ。今そこ気にするの? 訴えないですよ。訴える場所もないし。……嫌じゃありませんでしたし」


 最後の方が小声で聞き取れなかったけど今は訴える場所が無いから訴えないって言ってるってことはあれ以上向こうにいたら訴えられるところだった!?


「ご、ごめん」

「いいですよ。その代わりお願い事を聞いてくれよ?」

「お、おう」

「言質は取ったぞ?」


 猫宮の時の口調になっていたけど途中でライアスの口調に戻り、にやりとしながら脅してきた。私は何とか返事したけど顔が引きつってると思う。


 ―――


 そのまま車で快適な旅を数日過ごすとアニエス王国の首都ルマニアに辿り着く。

 ライアスがいるため王都の中に入るのは当然の如く顔パスだった。門潜ると目に映ったのは……


「……ずいぶんと野性味に溢れてるね」

「エルフほどじゃないけど自然が好きな奴が多いからな」


 道路は全く整備されておらず車が揺れる。不揃いの木々がいたる所に生い茂り、場所によっては家を貫通している木まである。木を囲って家を作ったのか、家をぶち抜いて木が育ったのかどっちなんだろう……。


「俺が王になってから家を建てさせて風呂に入るように指示したんだがな。獣の習性が強いやつが多くて全く聞かないんだ」

「それは……なんというか……どんまい?」


 辺りを見回すと道で寝てる人も多い。ケモ度が少ないほとんど人族のような見た目の獣人から動物をそのまま二足歩行にしたような見た目の獣人までいるね。ケモ度が高いほど野性味が多そうだ。


「全員鼻がいいはずなんだけどな……。匂いに慣れてるからか風呂を嫌ってるんだ」

「そうなんだね。カトレアは大丈夫……じゃなさそうだね」


 カトレアちゃんを確認すると顔色を悪くしながら鼻をつまんでいる。一先ず光の魔法で気持ち悪さを緩和させる。


「カトレア、嗅覚弱めていい?」

「お、お願いするわ」


 獣人の一人であるカトレアちゃんにとって嗅覚も大切な情報収集器官だから断られるかと思っていたけど全力で頷いてきた。かなり匂いが酷いらしい。闇の魔法でカトレアちゃんの嗅覚にデバフをかける。


「ありがとう。かなり楽になったわ」

「俺の国の民がすまんな」

「ライアスのせいじゃないよ」

「私もライアスのせいじゃないと思うけど改善を頑張って欲しいわ……」


 ぐったりしてるカトレアちゃんが息絶えだえにお願いするとライアスは神妙な顔をして頷いていた。

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