第147話 サクラの前世<カトレア視点>

 ライアスと二人車に乗っているのは私ことカトレアよ。サクラは外を走っているわ。


「ライアスはどうしてサクラの前世に付いて聞いたの?」

「あー、俺の場合はたまたまだな。セレスがサクラの前世について知っていたみたいで初めて会った時にサクラの事を前世の名前で呼んだんだ」


 セレスも知っていたのね。セレスはなんで知っていたのかしら? いえ、セレスの事は考えても無駄ね。


「カトレアは俺の前世の記憶が穴抜けだったのは知ってるか?」

「聞いたことがある気がするわ」

「……興味無さそうだな」

「ええ、興味ないもの」


 神霊の愛し子だろうがなんだろうがサクラの味方だということ以上に必要な情報なんて無いわよね? 私が即答するとライアスはため息を吐きつつ続きを話し始める。


「はぁ、でセレスがいなくなった時あたりに残りの記憶を思い出したんだ」

「へえ」

「後から聞いたらサクラが創造神様に頼んだ結果だったらしい」

「え?」


 どういうことかしら。サクラ自身よりもライアスの為にお願いをしたの?


「あー、そんな怖い顔をするな。俺だったのはたまたまだよ。サクラはサクラの前世、桜庭先輩の後輩に関しての情報を知りたかったみたいなんだ」

「?」


 その後輩とライアスにどんな関係が……なるほど。


「その後輩とライアスが同一人物だったってことね」

「そうだ。サクラの願いで俺の記憶が完全に戻ったんだよ」

「サクラの前世はどんな人だったの?」

「そうだな。核となる部分はサクラそっくりだな。実は……」


 ―――


 ライアスの話によるとライアスの前世である猫宮さんはいわゆるいじめられっ子だったらしい。いじめられていたところを助けてくれたのがサクラの前世である桜庭さんだったとのこと。猫宮さんはそのまま桜庭の後を追っかけて同じ会社まで入ったけど突然姿を消した桜庭さんを探している間にこの世界にやって来たとのこと。

 ここに来るときに記憶をなくすかも知れないと言われたのに迷わず来るなんて凄いわね。


「良く決断したわね……」

「あはは、には桜庭先輩しかいなかったから……」

「私?」

「あ。……まあいいか。俺は前世で女だったんだ」

「…………ええええぇぇぇえええ!!」


 衝撃的過ぎて一瞬頭がフリーズした。サクラが元男だと言われてもすんなり納得できたのにライアスが元女と言われると違和感しかないわね。


「それはそうだろ。サクラの願いで思い出すまでは前世の性別なんて知らなかったんだから」

「そ、そうね……」


 恥ずかしそうに言うライアスがなんだか可愛く見えてくる。……不思議ね。はっ。桜庭さんと猫宮さんは付き合ったりしていたのかしら。


「そんなに見つめるな。心配しなくとも付き合ったりしていないよ」

「そ、そうなのね」


 生暖かい目で見られて少し恥ずかしい。別に気になったわけじゃないけどね?


「そもそも俺は男っぽかったというか男の格好をしていたからな……。それが原因でいじめられていたんだけど。桜庭先輩はが女だと気付いてなかった可能性も……」

「さすがにそれは……サクラの前世だと考えるとあるのかしら?」


 鈍そうだしあり得るかも。


「それ以外のところだが……」


 ―――


 今みたいな残念な一面は特になく周りに頼られているしっかりものだった? たまにカッコつけることはあるけどそれすら親しみやすくなる一因だった? 何かしら。しっくりこないわ。


 その後サクラと桜庭さんの似ていることや想像の付かないことなどいろんな話を聞いた。ある程度話を終えるとライアスが切り出す。


「桜庭先輩にとって大切な人っていなかったんだ。人気者だったけど心から誰かを許す人はいなかったんだよ」

「え?」

の事も助けてくれたけど私が大切な人だったからじゃない。半分はいじめが気に食わないから、もう半分はカッコつけたかっただけ。それでもは救われたんだけどな。それに桜庭先輩は常に誰か遠くにいる人を想っているような……そんな感じだったんだ。女の勘だけどな」


 ライアスの口から女の勘なんて言葉が出てくるの違和感しかないわね。そう思っているとライアスが少し微笑む。


「だからこそ記憶を思い出して驚いたわ。サクラがカトレアの事を大切にしてて、しかもかなりの過保護なって。桜庭先輩からは想像できなかった」

「そ、そう」


 大事にされているとは思っているけど第三者に改めて言われると恥ずかしいわね。なんとか私が相槌を打つと今度はライアスが真面目な表情を作る。


「俺の想像でしかないが……。初めてできた大切な存在だからこそ距離感を掴めていないんだと思う」

「え?」

「サクラ本人が自覚してるか自覚してないか……自覚していても元男で現女の中途半端な存在だからと気持ちに蓋をしているのか……そこまでは分からないけど。ただの友達でなくそれ以上の存在に臆病になっているんだよ」

「……」


 私の理解が追い付かずまばたきをしているとライアスが困ったように苦笑する。


「カトレアも聞いてるだろう? 桜庭先輩の家族の話」

「育児放棄気味だったってこと?」

「ああ、桜庭先輩は親から愛情を受けたことが無かった。サクラになって母親に溺愛されているみたいだけどな」

「ええ。そうみたいね?」


 突然の話題転換に驚きつつもライアスに肯定する。サクラの前世の両親については少しだけ聞いたことがあるのよね。


「全員に当てはまるわけじゃないが……日本では幼少期に愛情を受けずに育った子供は愛情を持たずに成長するって言われてるんだ。サクラの人格を作っている前世で愛情を注がれなかったサクラはローズさんのおかげで愛情を知った。だけど、だからこそ愛に臆病になっていると思うんだ」

「?」


 難しい話をしているけどそれがどうしたのかしら……。私が理解できていないことに気が付いたのかライアスが簡潔に伝えてくる。


「俺が言うのもなんだけど黙ってたサクラを怒らないでやってくれ」


 なるほど、それが言いたかったのね。


「ええ、もちろんよ」


 私の返事にホッとした様子のライアス。その様子を見てふと思う。


「ライアス……猫宮さんは桜庭さんが好きだったの?」

「え? ぜ、前世ではね? 今は違うからね」


 目を泳がしつつあたふたし始めたライアスを見て笑う。


「前世で自分が女だと伝えられなかった猫宮さんの心境を思い出して今のサクラの心境がよく分かるって?」

「ああ、そうだ……じゃなくないけどそれ今言うことかな?」


 その後、サクラが仲間外れはズルいと後ろを走るのを止めて車の中に突入してくるまで二人で笑いあっていた。

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