第146話 喧嘩
ライアスのおかげで無事に牢から出してもらった私。ここまで送ってくれたみんなは船に乗ってドゥーグさんの治める港町まで戻って行った。
私とカトレアちゃんはライアスと一緒に車に乗ってアニエス王国の王都へ向かっている。王族所有の車だけあってとても豪華だ。
「よくこっちまで来れたね。王様業忙しいんでしょう?」
「流石に十年経てば少しは慣れるよ。最初の頃は寝る時間すらとれなかったけどな」
学園を卒業した後、ライアスはレオンに連れられて王都に向かったらしい。そこでレオン代理の王様と少し話をし、気が付いたらライアスに王位が継承されていたらしい。元王様代理の人が泣きついたとかなんだとか……。闇が深そうな場所は聞かなかったことにしてライアスの住んでいた集落の人達がどうなったのか聞いてみると全員喜んでお祭り騒ぎだったらしい。そして王様になったライアスを利用してのし上がる……こともなく集落に引きこもっているようだ。
「なんでライアスのことを王様にしたがってたのかな?」
「知るか、平和にやってるならそれでいいだろう」
もしかして神霊の愛し子とかいう爆弾? を抱えたくなかったからだったりして。周りの集落に利用されないようにとか? 厄介者扱いされていたとしたら可哀想だな。
「なんで同情した目をしてるんだよ」
「気のせいだよ」
「まあいい、海賊に慕われるってなにしたんだ? マッチポンプか?」
「今度ライアスが私のことどう思ってるのか詳しく聞く必要があるね」
ふふふと笑いかけると引かれた。酷くない?
「ギルバートはどうした?」
「ギルバートのこと知ってるの?」
「俺の国の船も被害にあってるからな。で、生きてるの?」
「今は牢屋の中だよ。しっかりした人が見てるから安心して」
「そっちの大陸だと……ドゥーグ殿か。なら任せられるな」
流石ドゥーグさん。有名人だね。私は知らなかったけど。
「ねえサクラ。桜庭先輩って誰のこと?」
ライアスと互いに近況報告をしていると何か考え事をしていたカトレアちゃんが口を挟んできた。思わず目をそらすけどカトレアちゃんの視線は消えない。
「ほれ、聞かれたら話すつもりだったんだろ? まさか学園出てから十年経っても話してないのは驚きだったが……」
「後でじゃダメかな?」
「今言えないわけ?」
「後回しにすると余計言い難くなるぞ」
うぅ、二人とも逃がしてくれない。仕方ない……か。むしろ良く今まで聞いてこなかったと思うくらいだし。もしかして母含め誰にも言ってないから聞かないでいてくれたのかも。
「ふぅ。桜庭は私の前世の名前だよ。前世の話は既にしてるよね?」
「ええ」
「前世で働いていた時の後輩がライアスの前世だったんだ。それで桜庭先輩って呼ばれたんだよ」
「ええ。それで?」
どうしよう。どんどん視線が冷たくなっていくんだけど……。
「誤魔化してないで全部話せってことだろうよ」
「分かってるよ」
ライアスにも呆れたように突っ込まれて腹を括る。
「カトレア、ごめんね。私の前世は桜庭龍馬って名前だったの。今まで名前を言わなかったのは前世の私は男だったから。男だとバレると距離を取られるかもって思って男バレしそうな身の回りの事は言えなかったんだ」
「……」
目を細めるカトレアちゃんに居心地の悪い私、数秒の沈黙の後カトレアちゃんが口を開く。
「サクラは何に謝ったの?」
「え? 元男だって隠してたことかな」
「そう」
それきりカトレアちゃんは外を向いて黙ってしまった。……どうしよう。ライアスにアイコンタクトを取るけど何が面白いのか笑ってるだけだ。こんにゃろう。
「う゛」
一発ライアスを殴ると呆れた顔をしたカトレアちゃんがこっちを向いた。
「サクラ。……やっぱりなんでもないわ」
「気になるんだけど!?」
思わず声を出すとカトレアちゃんの目がすっと細められる。怒らせちゃった!?
「はぁ。なにをビクビクしているのか分からないのだけど私は怒ってないわよ?」
「ほんとうに?」
「ええ。サクラの前世が男だと知ったくらいで私が離れると思われていたこととかライアスには話したのに私には話してくれなかったこととか別に全く怒ってないわ」
「怒ってるじゃん」
「止め止め、いちゃつくのは二人きりの時にやってくれ」
「「いちゃついてない(わよ)!!」」
ヒートアップしそうなところでライアスが止めに入る。私が黙っていたのが悪いのは分かっているけどそこまで怒らなくてもいいじゃん。黙っていたことだって謝ったし!
「ちょっと頭冷やしてくる」
沈黙に耐えられなくなった私は二人に一言告げて車の外に出る。ちょうど雲が出てきて涼しいから走りやすそうだ。
ライアスの護衛の人が驚いていたけど気にしないように伝えて車の後ろを並走する。整理された道でとても走りやすいね。
―――
<カトレア視点>
「サクラを放っておいていいのか?」
「良いのよ」
サクラが車を飛び出すのを見て私にそう聞いてくるのライアスにそう答える。車の後ろを並走しているだろうサクラを思い浮かべて苦笑する。
「どうした?」
「いえ、学園に行くときもサクラは車からでて走っていたと思ってね」
あの時は息を切らしていたけど今のサクラなら余裕で付いてくるんでしょうね。
「カトレアは本当にサクラが好きだよな」
「……そうね」
小さい頃からサクラは私のヒーローだったから。サクラの前世が男だと聞いた時、私はなるほどとしっくり来た。驚きが無かったわけではないけどね。
サクラが隠したかった気持ちも理解できるけどもっと信用して欲しかったわ。私がサクラと距離を置くなんてありえないのに……。
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