第144話 歌姫<マジュリー視点>
「行っちゃったわね。アイリちゃん寂しい?」
「大丈夫」
サクラとカトレアが王都を歩くのを宮殿の一室から眺めている私はマジュリー。リーヴィアという神霊様の契約者でドメーア王国の一の姫よ。隣には目に入れても痛くない可愛い可愛い妹のアイリちゃんがいる。
私はドメーア王国の次期女王として様々なことを学んできた。だけど私にはママのおっちょこちょいな性格が遺伝してしまったため戦闘も勉強も上手くできなかった。いえ、勉強に関しては分からないわけじゃないのだけど……絶対に計算間違いや書き間違いをするのよ。私に付いた講師は全員音を上げて私は落ちこぼれ扱いされていた。一方のアイリちゃんは誰に似たのか容量が良く年の割に頭も良かった。幸い私の回りには優しい人が多かったため直接何かを言われることは無かったけど宮殿内や国民の一部でアイリちゃんが次期女王になったほうが良いのではないかと考えられていたことを知っていた。
でも、私は幸運なことに運命の出会いに三度も恵まれた。一つはリヴィ。戦闘はからっきしだったがリヴィと契約したことでみんなのサポートをすることが得意になった。たまに間違えて魔物を強くして怒られちゃったりもしたけど国民の私を見る目は全員が良い方向に変わった。
もう一つは歌。サクラも褒めてくれたけどアイリちゃんもパパもママも私の歌を聞くと毎回褒めてくれる。一度私の誕生日パーティーで歌を披露した時は国民全員が笑顔になってくれたの。その時から私は歌姫として海底王国の次期女王として認められるようになった。
しかし、幸運なことは続かない。元々アイリちゃんを次期女王に考えていた一部の人達が私達の仲を裂こうとしたのだ。食事に毒を入れられたりなぜか外の魔物が部屋に迷い込んできたり。時には暗殺者が来たりもした。そこでパパとママが考えたのは私達二人を地上に逃がすこと。アイリちゃんには宮殿内の魑魅魍魎を知らないで欲しかったから地上に遊びに行くよと嘘を吐いて二人で近くの港町に出た。
しばらく地上で暮らしているとアイリちゃんが家に帰りたがり始める。いくら賢くてもまだまだ子供、親に甘えたかったのでしょう。まさか捨てられたと勘違いしてるとは思わなかったけどね。
一日の中で悲しむ時間が増えたアイリちゃんを見ていられなかった私はサプライズプレゼントをしてアイリちゃんの気持ちを晴らしてあげようと思い、リヴィの猛反対を押しのけて一人海の中に戻ったの。私達の護衛と教育係として付いてきたドゥーグさんにアイリちゃんの事を任せてね。
海に出てそのまま迷子になった私はリヴィのおかげで海底神殿というリヴィが守っている神殿を拠点としてしばらく過ごすことにした。……さすがのリヴィも一度しか行ったことのない港町まで道案内はできず、またドメーア王国に一人で戻るのは怒られそうだったから勇気が出なかったわ。本当は直ぐにドメーア王国に戻るべきだったのだけどね……。
長らく神殿でうだうだしていると三度目の幸運に出会う。そう、サクラとの出会いだ。最初はアイリちゃんの特別な鱗を身に付けている彼女を見て激昂したけど平和的に解決することができた。
そしてそこからはとんとん拍子に物事は進んでいった。ドメーア王国に戻りパパに怒られ、アイリちゃんが帰ってきて……そしてリヴィは神殿の守り人の役目から解放された。
クジラが強くなったりカトレアが狐になったり大変なことも多かったけど今までで一番濃い三日間だったわ。
「ふふふ♪」
「アイリちゃん機嫌がいいわね」
「うん! サクラさんのお守りを交換できたからね!」
「え?」
お守りを交換? え? 待って? それってつまり?
「カトレアさんにはばれてないから大丈夫。サクラさんはともかく魚人族以外に違いは分から無いもんね!」
サクラとカトレアが王都から出るのを見届けたアイリちゃんが嬉しそうに話す。全く、いつの間にこの子は……。呆れつつも仕方ないなと笑っちゃう私も相当重度のシスコンかもしれないわね。
国中の全てを癒す歌声で絶大な人気を誇る女王陛下とそんな女王を影ながら支える妹殿下が海底王国を統治するのはほんの少し先のお話である。
―――
<???視点>
ブルーム王国の王都ペタルに幽閉されているアービシアの元に一人の男が近付いていた。
「嫉妬の欠片が……」
「そのようだな。だが問題ない」
最後まで言っていないのに返事をするアービシアに男はため息をつく。
「本当にアレをサクラに持たせてよかったの?」
「その方が効率良いだろう? くっくっく。世界一周旅行を楽しみつつ父の野望をかなえてくれるなんて素敵な娘だと思うだろう?」
その娘を殺そうとしたのはどこの誰なんだか……。言うと面倒なことになると分かっているため言葉を飲み込んで男はその場を後にする。
地下牢に一人取り残されたアービシアは一人楽しそうにする。
「ここでの一人目は失敗か。だが過去の世界線と
しばらくの間アービシアの笑い声が地下牢の中に響き渡っていた……。
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