第139話 カトレアの戦い 2<カトレア視点>

 どうしよう。せっかく目が覚めたのにまた真っ暗闇の中にいる。九尾に負けたせいで身体を乗っ取られているのよね。外はどうなってるのかしら。

 ふと外の事を気にすると四角い窓が出てきた。窓の覗くと外の景色、九尾視点の景色が見える。しかし起き上がる気配が無いわね。どうしたのかしら?


 なんとか身体を取り返せないかと動き回ったり魔法を使ってみたりしてみるけど何も起こらない。……よくよく考えたら私の精神世界よね? 魔法が効いたら自爆するところだったかもしれなかった? ……効かなかったのだから良しとしましょう。サクラもよく結果良ければ全てよしって言っているもの。


 声をかけたり念話よ届け! と念じてみたりして、しばらく経つと窓が真っ暗に戻り九尾が姿を現した。


『の、のう。あの身体どうやって動かすのじゃ?』

「…………」


 教えたら暴れるって知ってるのに教えるわけないわよね。


『暴れるの止めるから教えてくれんか? 自由に身体を動かしたいのじゃぁああ』


 駄々を捏ね始めた九尾が可哀想に思えてくる。罠の可能性もあるけどこんな面倒な事はしないわよね?


「じゃあいくつか条件があるわ」

『良いのか? なんじゃなんじゃ? できることならなんでもやるぞ?』


 なら後でモフらせて貰おうかしら。サクラに自慢してあげたいわ。……じゃなくて。


「身体の主導権は私が持つわ。私とあなたで違う動きをしようとしても私の意思を優先してちょうだい。それと、私がダメと言ったことは決してやらないこと。良い?」

『お易い御用なのじゃ。ずっと動けなかったから嬉しいのう』

「後、私の部屋に移動するから少し待っていて貰える?」

『分かったぞ!』


 返事は完璧ね。一先ずは信じることにするわ。さっき九尾目線で見た限り私のいる場所はマジュリーの部屋ね。アイリちゃんだと力が足りなくて部屋を移動できなかったみたい。心配かけないように誰かに一声かけてから部屋に戻ろうかしら。


「…………」

『どうしたのじゃ?』

「私精神世界に自由に行き来できないからどうやって身体に戻るのか分からないわ」

『そうかそうか。大丈夫じゃ。ああやればよいのだぞ?』

「なるほどね。そうやって……。いや誰よ!!」


 九尾が指さした先には瀕死のクジラみたいな生き物が窓の中に入っていく所だった。なるほどね。あの窓に入れば良かったんだなんて考えてる場合じゃないわ。あのクジラ何者よ!


『邪悪な気配がするのう』

「あなたの同類じゃないの?」

『カッカッカッ。あれと同類にするでない。妾は自由になりたいだけじゃ。あやつは全てを妬んで破壊しようとしておるぞ?』

「もっとやばいじゃない!」


 そんな危険な存在に身体を渡す訳にはいかないわ。というかいつから私の精神世界は化け物の巣窟になったのよ!


『いつからも何も妾は初めからお主と共におる。あやつはたったさっき来たところじゃな。妾もお主も身体を動かしてないから避難先、もしくは乗っ取り先の身体としてちょうど良いと思われたんじゃろう』


 衝撃的な事を聞いた気がするけどそれどころじゃないわ。早くあれをなんとかしないと!

 急いでクジラに近付いて尾ひれを掴むダメね。私一人だと力が足りないわ。


『任せろ! 妾とて部外者に身体を使われるのは好まん』


 九尾が力を貸してくれたおかげでクジラをひっぺがすことができた。さて、精神世界ではどうやって戦えば良いの?


『とりあえず地上と同じ戦いでいいはずじゃ。妾は外での戦い方を知らぬがな』

「分かったわ」


 一先ず気合いを入れて九尾と共にクジラと戦う。九尾が爪や尻尾で叩き、私は魔法で攻撃を仕掛けていく。しかしクジラにダメージが入らない。


『困ったのう。何か不思議な魔法を使っているようじゃ。妾の攻撃もお主の攻撃も無効化されておる』

「無効化!? 確かそういう時は……」

『「無効化の上限を超えるダメージをたたき出す!」』


 サクラから攻撃を無効化したり吸収したりする相手との戦い方として教わった方法だ。他にも条件があるはずだから条件を外す方法があるとも聞いてるけどそっちはサクラみたいに戦闘中に敵の分析をできる人以外には難しい。


 九尾が炎をだして私の火魔法と合わせる。すると白色の焔魔法となり触れた相手を焼き尽くす魔法へと変わった。


『上手くいったようじゃの』

「後で説明してくれるのよね!?」


 笑いつつ誤魔化しそうな九尾にため息をつきつつクジラに向かって焔を当てる。相手を焼き尽くすまで消えない以上いつか無効化を突破するはず……。


 しかしいつまで経ってもクジラがダメージを負う気配はない。最初は焔魔法に驚いたのか動きを止めたけど直ぐに気にせずに動き出してしまった。瞬間的な火力じゃないとダメなのかも……。九尾も同意見なのかクジラの攻撃を捌きつつ呟く。


『これでも厳しいか。うぬ。賭けに出るしかないのう』

「まだ策があるのね。何をするのかしら?」


 出会った最初は敵かと思ったけど今はもう敵じゃないと思っている。九尾はただただ外で遊びたいだけの大きな子供だ。なんで私の中にいるのかは知らないけどね。


『目を潰れ』

「え?」

『はようせい! 目をつぶるのじゃ』

「わ、分かったわ」


 こうなったらやけよ。どうせ負けたらクジラに身体を乗っ取られるのだもの。九尾の言うことを信じるしかないのよ。


 クジラと距離を取ってから目をつぶる。すると九尾に鷲掴みにされた。…………大丈夫よね? 嫌な予感しかしないのだけど。

 私が早速後悔している中、九尾が楽しそうに言う。


『ほうれ。投げるぞ。舌を噛むなよ?』

「は?」


 何の冗談かと思って目を開けるとちょうどクジラに向かって投げられるところだった。


「裏切りものおおぉぉぉおお!!」


 叫んだ私は悪くないと思う。

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