第138話 カトレアの戦い 1<カトレア視点>

 ここは? ふと気が付くと真っ暗闇の中にいた私はカトレア、サクラの幼馴染よ。えっと、リヴィ様に謝られてから気を失ったのね? その前は……サクラ! 大丈夫かしら。


「結局また置いてかれちゃったわね」


 今の状況を思い出した私は一人ごちる。せっかく強くなろうと頑張ったのに……。


 私はサクラの幼馴染としてかなりの間一緒にいる。だけど私の才能だとサクラの足手まといになるから戦闘みたいな危険なこと、アービシアとの戦いや魔国への潜入にはついていけなかった。

 その時は私がサクラの帰る場所になれれば良いと思っていたの。思っていたのよ……。


 でも、そのせいで私はサクラが一番辛い時期に一緒にいてあげられなかった。


 アービシアの戦いでサクラが死にかけた時も私は何も出来なかった。セレスがいたおかげで大事にはならなかったけど私が足手まといにならないくらい強ければサクラは危険な目に合わなかったのでは?

 セレスが魔王だとサクラが気付いてからの数日、レオン様やローズさんが、サクラと話すまでの間、サクラが決意を固めるまでの間、私は何も知らずに呑気に王都で待っていただけ。一緒にいたライアスはサクラの変化に気付いていなかったみたいだけど私なら気付いて上げられたのでは?


 どちらも私が知ったのは全て解決してからだった。セレスが、またはサクラ自身が解決して私は頑張ったね、大変だったねと労うことしかできなかった。

 アービシアの時はまだセレスがいたから良かった……良くないけどマシだった。でもセレスが魔王だと知った時のサクラは? ローズさんと合流するまでサクラは一人ぼっち・・・・・だった。


 だから私は決意したの。今度は何があっても、どんな強敵と会っても置いていかれないように。足手まといにならないように努力すると……。サクラが私に安全な場所にいて欲しがってるのも知っている。サクラとの才能の差も知っている。だからサクラに隠れて努力しようとした。すぐにサクラにバレたからサクラに直接鍛えてもらうことになったけどね。

 …………私の努力なんて努力のどの字ですらないことを思い知ったわ。才能があるだけじゃなくて努力もできるなんてさすがサクラよね。まるでローズさんが金棒持ってるくらい心強いわ。


 コホン。だからこそ、今回の旅では戦闘にも参加してきたしわがままだと分かっていても危険な場所について行くつもりだったのよ。私だって守ってもらうだけじゃない! 私もサクラを守るんだ! ってね。なのにリヴィ様のせいで……。


『置いてかれちゃったわね』


 だれ!? 声がした方を見ると私そっくりの影みたいな人が立っていた。一瞬クジラみたいに巨大な姿が見えた気がしたのだけど……。


『私はあなたよ』


 今更だけどここはどこかしら。誰かに精神攻撃でもされてるの? 闇魔法かしら。


『ここはあなた……私の精神世界よ。安心してちょうだい。攻撃されてるわけではないわ』


 私声に出してたかしら?


『出てないわ。でも私とあなたは同一人物だからあなたの考えが分かるのよ』


 これが私? 本当に?


『本当よ。だって悔しいでしょう? せっかく力を付けたのに置いてかれるなんて』


 確かに悔しいわね。でも仕方ないでしょう? 私が弱かっただけなんだから。


『私は弱くないわ。比較相手が悪いだけ。あなたが努力しても決して届かない存在なら要らないわよね?』


 なに……言ってるの?


『羨ましいでしょう? 妬ましいでしょう? 努力しても努力しても私は正当に評価されない。連れて行ってくれるだけでいいのにそれすらもして貰えない。なら要らないわよね?』


 何が……言いたいの?


『サクラが居なくなればあなたはあぶなっ!』

「あなたは誰? 少なくとも私ではないわね。ちゃんと言わないと攻撃するわよ」

『既にしてるじゃない!』


 あなたが私ならサクラの悪口だけは言うわけ無いでしょうに。


『バレたなら仕方ないわね。本当は同意の上で乗自由になりたかったのだけど……』


 そう言って私のそっくりさんは大きなクジラ……よりも巨大な九本の尻尾を持つ狐に姿を変えた。


「あなたは誰?」


 もう一度聞くと今度は答えてくれた。


『妾に名前はない。見た目通り九尾とでも呼んでくれればよいぞ?』


 九尾……。目的は何かしら。


『妾の目的? ……強いて言うから遊ぶことかの?』

「え?」

『ずっと閉じ込められて窮屈だったのじゃ! お主の思いを一つ叶えるから身体を貸すのじゃ!』

「嫌に決まってるでしょうが!」

『お主ばかりズルいのじゃ! 妾も外で暴れたいのじゃ!』


 ……気が抜けるわね。まるで大きな子供じゃない。いえ、暴れるとか言ってる時点で外には出せないわね。


『ぬぅ。そういやリヴィ様? とやらがいたからお主が嫌な目にあったと考えておったな? よし、妾がリヴィ様とやらを倒して見せよう。その代わりに身体を借りるぞ?』

「ダメに決まってるんだけど!?」

『カッカッカッ。そんなに遠慮するでない。ほれ、痛くないから大丈夫じゃ。痛くとも最初だけじゃよ』


 そういう問題でも無いのだけど? 攻撃を仕掛けるも私の考えがだだ漏れの中、こちらの攻撃は全く当たらず、動きを先読みされた私は一撃で意識を吹き飛ばされてしまった。


『そういえばリヴィ様とやらの見た目が分からぬな。サクラと一緒にいるようじゃし、サクラと一緒に行動してる奴を攻撃したらよいかのう』


 カッカッカッと笑いつつ九尾の狐はカトレアの身体で目を覚ました。

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