第133話 クジラとの戦い
突然不思議な空間に呼び出され、クジラと戦ってるのは私ことサクラ・トレイルである。
クジラが尻尾を振り上げる。単純な動作だけど体が大きいから移動量も重さも文字通り桁違いだ。
風圧に身を任せて吹き飛ばされつつ尻尾を躱す。ショートワープで尻尾の根本に移動すると氷華に氷を纏わせて刀身を延ばして尻尾を切断しようとする。しかし肉が厚すぎて三分の一程度しか切ることが出来なかった。
「切るよりえぐるイメージでいいのかな?」
スパパパパパッ
氷華を何度も振るって表面に切り込みを入れていく。切った場所に追加して切り込みを入れていくことで一回一回は浅くともかなり深い傷を負わせることが出来る。
『ぐおおおおぉぉ』
たまらず向きを変えて尻尾を退避させたクジラに対して雷の魔法をぶつける。しびれて動きが鈍くなったのを確認し、冷気を貯めてから氷の槍を大量に発生させる。槍といってもクジラに合わせて一つ一つが氷山のサイズだ。
「行けっ!」
私の号令に合わせて氷山サイズの槍がクジラを襲う。最初は巨体で槍を受け止めつつも飛び上がり私に向かって動いていたが段々と地面へと押されていき、最終的には地面に墜落した。
『小さきものに……負ける? そんなこと、そんなことはあってはならぬ! 我は神ぞ!』
ぼろぼろになったクジラだったがぶつぶつと呟いたと思うと突然黒い靄が覆いだす。
嫌な予感がして距離を取るとストレージに入れていた黒い石が勝手に外に出てクジラの中に入ってしまった。うーん。嫌な予感……。
黒い靄が完全にクジラを覆うと収縮を始め、二メートルくらいの大きさまで小さくなる。気になって近くによると魔力感知で攻撃されたのに気付いたから横によける。すると私がいた場所は地面がえぐれて地割れのようになっていた。
「ハズシタカ」
「ひゅっ」
声に反応してクジラのいたところを見るとアービシアの面影を持つ子供が立っていた。
「アービシア……じゃないよね。ははっ。私の弟だったりする?」
「ナニヲイッテイル? ワレハアビスだゾ? マダマダチカラハモドッテナイガナ」
おっとっと? もしや封印されているアビスの本体かな? 黒い石がアビスの本体でさっきのクジラは力の一つだったのか……。
「イシのジョウタイでハトオクマでイドウできナカッタからナ。タスカッタゾ。レイにクルシマナイヨうコロシテヤロウ」
アビスの猛攻が始まり、しばらくの間防戦一方となる。今の状態だと移動できたってことはクラーケンに襲われて無事だったのも今朝この神殿の前に来ていたのもアビスの意思だったのか……。複雑な気分だ。
「大人しく殺されるつもりはないよ! 復活してすぐで悪いけど私があなたを退治する!!」
宣言してから氷華で切りかかる。しかし素手で受け止められてしまう。
「くっ。凍れ!」
冷気で凍らせようとするけど聞いていないみたいだ。なにこれなんて絶対防御? アビスが無造作に殴り掛かってきたのを氷華で受け止める。
「ぐはっ」
数十メートル吹き飛ばされ体勢を立て直す。即座に光魔法で回復するけどアビスが接近している。はやっ!
紙一重で攻撃を躱しつつこちらからも攻撃をしかけるけど手ごたえがない。なんだか鉄板を殴ってるような……。もしやさっきのクジラの質量がこの体に納まってる? 物理系のダメージは期待できなさそうだね。なら魔法かな? 先ほどのクジラだとすると雷魔法で動きを止めてから氷魔法で追撃が良さそうだね。
さっそく雷魔法を使ってから冷気を貯めようとしたところでアビスの接近を感知する。
「感電してないの?」
「ワレハムテキだ。ソンナモノキカヌ」
再び劣勢となり時間が経過する。封印が解かれたばかりだからか動きが遅いおかげで余裕をもって反撃ができているがダメージが入らない。厄介だね。ショートワープで距離を取り
「
煙一つ立たずにアビスのいた場所が一瞬真空となる。気圧差で周囲の空気が凝縮して打ちあがり、雲ができて雨が降り始める。やっぱり魔力の消費が激しいね。
「イマのコウゲキはワルクナカッタ」
「ははっ。褒めてくれてありがとう……」
地面を含めたすべてが塵となるなかでアビスは顔をしかめただけだった……。今のでダメとなると勝ち目無さそうかな……。いや、ダメージを与えられるならいけるか。
その後、辺り一帯の魔素をかき集めて何度も何度も
魔力を回復させるためにアビスの攻撃をさばきつつ三度防御に徹していると遠くから歌声が聞こえてきた。何事!?
「助けに来たわ」
振り向くとそこにはマジュリーとリヴィの二人が突入してきたところだった。
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