第132話 再会

 カトレアちゃん以外の全員がアイリちゃんの精神攻撃に晒されて撃沈している中、私に変わってカトレアちゃんが話を引き継ぐ。


「アイリちゃん。サクラは二十歳を超えているわ。アイリちゃんと同世代じゃないのよ」

「えー? そうなんですか?」

「ええ。だから後でサクラのお守りは返すわね。別の鱗で作ってあげてちょうだい」

「んー、分かりました。次会った時に交換しますね」


 カトレアちゃんが勝手にお守りを交換するように決めてしまった……。


「サクラ?」

「いえ? ナンデモナイデスヨ」


 ニコリと微笑むカトレアちゃんには逆らってはいけない。うん。ワタシシッテル。


「アイリちゃん。私ならアイリちゃんをこっちに連れてこれるけどどうする?」

「え?」

お姉さんマジュリーの所に来たかったら迎えに行くけどどうする?」

「ぅえ? コホン。なら準備もあるので二時間後にお願いできますか?」

「もちろんだよ。二時間後に迎えに行くね」

「はい」


 念話を終了し、撃沈しているジーベットさんとマジュリーを起こす。二時間後にアイリちゃんを連れてくると言ったら驚いていたけどアイリちゃんを迎え入れる準備を始めていた。


 ―――


 二時間後、ジーベットさんとマジュリー、そしてアクレアさんを連れてカトレアちゃんと共にアイリちゃんの元へと向かう。移動手段はもちろんゲートだ。


 エクレア……ではなくアクレアさんはドメーアの王妃。つまりアイリちゃんとマジュリーのお母さんでジーベットさんの妻だ。パッと見クールビューティなのだがマジュリー以上のドジっ子だった。私達が宮殿に着いた時や食事の時にいなかったのは転んで怪我をしていたかららしく、アイリちゃんのためなら! とベッドから立ち上がった途端にベッドから転げ落ちていた……。


 私が光魔法で怪我を治したため今は普通に動いている。十分の間に三回は転んでいたけどね……。


 ゲートで港町に移動した私達。空の魔法だと驚いているジーベットさんとよく分かってないらしいマジュリーとアクレアさんの三人を連れてアイリちゃんのいる宿に向かう。


「アイリちゃーん!」

「お姉ちゃん!」


 再会してすぐに抱きしめ合う二人。うんうん。いい光景だね。……横を素通りされたショックで呆然としてるジーベットさんの姿が無ければだけど。


「アイリちゃん。換えのお守りは用意したかしら?」

「んー。やっばり交換しなくても……ひっ。これをお納めください」


 どうしたんだろう? カトレアちゃんと話をしていたアイリちゃんは短い悲鳴をあげた後に素早い動きで私のお守りを交換した。


 その後、マジュリーの説明で誤解が解けたアイリちゃんと二人の両親がお話をしている間、せっかくなので酒場のマスターとその場に居合わせたドゥーグさんとお話をした。

 少ししてマジュリー一家が落ち着いたため再度ゲートを使ってドメーアの宮殿に戻る。もちろんアイリちゃんも一緒だ。


「サクラさんは凄いですね……」


 ゲートを潜り、景色が一変するとアイリちゃんが呆然としつつも褒めてくれた。するとマジュリーが対抗するようにアイリちゃんにアピールを始める。


「アイリちゃん。お姉ちゃんのが凄いわよ!」

「そうだね」

「聞いてる?」

「そうだね」

「…………お姉ちゃんのこと好き?」

「そうだね」

「やった!」


 マジュリーが上の空の状態のアイリちゃんに好きと言わせて喜んでる……。ドヤ顔こっちに向けられても困るんだけど……。本当にそれでいいのかな? ……まあ幸せそうだからいいか。


 その後は特に何も起きずそのまま眠り、次の日の朝、私は一人神殿の前で目覚めた。何が起きたの??


 訳の分からぬまま神殿に入る。今回はマジュリーの邪魔は無くそのまま神殿の奥へと進む。明らかに外観よりも長い不思議な廊下を抜けると草原に出た。何を言ってるのか分からないかもしれないけど安心して欲しい。私も何一つ理解できていないから。


 海底にいるはずなのに青空が広がり太陽が登っている。見晴らしも良く、綺麗なのにどこか違和感と嫌悪感を受ける気色を眺めつつ草原を歩いていると突然辺りが真っ暗になる。頭上を確認すると巨大なクジラが近付いてきた。……空をクジラが泳いでる? 海だから普通? 次々と起きる意味不明の出来事に思考停止しているとクジラが話しかけてきた。


『小さきものよ。例のものをここに』

「例のものって何?」

『小さきものよ。例のものをここに』

「話が通じないパターンか……。渡すまでループかな?」

『小さきものよ。例のものをここに』


 独り言にまで反応しなくていいのに……。さて、例のものってなんだろう。一先ずアイテムボックスの中身を取り出してみるかな?


 1つずつ取り出してみても何も反応が無い。ならまとめて? と一斉に出してみても反応無し。帰ろうかな? と思ってふとストレージの中はまだ見せていないことを思い出す。


 なんでこんなことしてるんだろうと目を遠くしつつも全ての荷物をひっくり返していると最後に出した例の黒い石にクジラが反応した。


『よく持ってきた。それを我に』

「これ? しっかり封印していたはずなのに気付くなんて何者なんだろう」


 クジラから敵意は感じないけど渡したらいけない気がする。取り返しのつかないような……。


 黒い石をクジラに渡すか悩んでいるとクジラが大きく口を開けて迫ってきた。私ごと食べるつもり!? 急いで石をストレージにしまいショートワープでクジラの背後に回り込む。するとクジラの背中から水が大量に迫ってくる。確か鼻が後ろに付いてるんだっけ。


 水を躱しつつ冷気で鼻を凍らせると水が逆流したのかクジラが少しむせた。でもダメージにはなってないみたいだ。


『小さきものよ。我との違いを思い知るがよい』


 クジラの言葉が合図となり戦いは激化していった。

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