第131話 死屍累々

 海底王国ドメーアの宮殿に着いた途端にドメーアの王様に拉致されたのは私ことサクラ・トレイルである。私達を拉致した犯人の国王様はマジュリーが友達を連れてきたとルンルンである。スキップでもし始めそうな勢いだね。

 そのまま食堂へと連れていかれると私達の食事も用意されていた。疑問に思いつつも席に着く。


「改めて、この国の王をやっているジーベットだよ。そこにいる娘、マジュリーの父親さ。マジュリーを連れていさ来てくれてありがとう。マジュリーはちょっとだけ道に迷うことがあるから道案内してくれる友達がいて助かったよ」


 ちょっとだけ……ね。あはは。


「それにおっちょこちょいな所もあるからなかなか友達ができなくてね。一人で寂しがっていたから嬉しいよ」

「それはこの国の姫に気後れしていただけでは?」

「そうかもしれないね。でも私の時はちゃんと友達いたんだよ」


 マジュリー……。どんまい!


「哀れんだ目で見ないで」

「あ、はい」


 思っていたよりもガチな目で言われた。そんなに気にしてたのか……。


 お互いに自己紹介をしてから夕食を食べ始める。時間の感覚が無くなっていたけどどうやらもう夕方らしい。ちなみに献立は焼き魚に刺身、煮魚と魚尽くしだ。お米が欲しくなるね。それにしてもこれって……。


「共食い……」

「サクラ! 何失礼なこと言ってるのよ!」


 小声でカトレアちゃんに怒られた。マジュリーとジーベットさんを見ると二人には聞こえていなかったようだ。良かった。


「サクラさん。どうやってここに来たのか教えてくれるかい? 他種族が海底王国に来るのは珍しいことだから気になってね」

「あはは……。それがクラーケンの成体に襲われたんです。反撃は出来たんですけどそのまま海に引き摺り込まれてしまって……気がついたらマジュリーのいた神殿の傍にいました」

「それは……よく生きていたね。無事で良かったよ。それにしても帰る方法も探さないとだね。さっきも言ったけど他種族がここに来るのは珍しいからこのままだとその稀な事が起きるまで待ってもらうしかないんだ」


 帰ったら浦島太郎状態になっていそうだね……。何年かかるのやら。


「パパ。サクラは自力で帰れるわ。神殿からここまでだってサクラの魔法で来れたんだもの!」

「そうなのかい? サクラさんは凄いんだね。マジュリーにも見習って欲しいよ」


 帰り道は転移魔法を使う予定だから少し違うけど誤差だからいいよね? それよりも。


「サクラ? その顔は何?」

「なんでもないよ? マジュリー。気にしないでね」


 ちょっと告げ口するだけだからね!


「ジーベットさん。アイリちゃんに「わーわー!」マジュリー?」


 そっぽ向いて口笛吹いても……いや上手いな。ただの口笛なのに音に深みが出てるんだけど。


「アイリがどうしたんだい?」

「ピューピューピーピョロロ〜〜〜」


 口笛の音量が上がった……。ビブラートまでどうやってるんだろう。必死になって止めようとしてるけど伝えないといけないことだよ?


「どうやら両親に捨てられたと勘違いしているようでした」

「なっ……」

「プシューーー」


 ジーベットさんが驚愕な表情を浮かべ、気の抜けた音と共にマジュリーの口笛が止まり場に静寂が訪れる。


 ガタンっ


 ジーベットさんがおもむろに立ち上がり私の肩を掴んで揺する。


「ど、どうしてだ。なんでアイリちゃんは私達に捨てられたと勘違いしてるんだ」


 返事してあげたいけど揺らされすぎて返事ができない。助けてカトレアちゃん!


「ジーベット様。サクラが揺れて返事を出来ないみたいなので落ち着いてくださいますか?」

「はっ。済まない。つい我を忘れてしまった」

「い、いえ、大丈夫です」


 カトレアちゃんの声掛けに我に返ったジーベットさんが解放してくれた。改めてアイリちゃんの現状を伝える。


「そうか。地上に置いてかれたことで私達に捨てられたと思っていると……。マジュリーは伝えたんだろう?」


 分かりやすく顔を背けるマジュリー。やっぱり私の考えは合っていたみたいだね。


「たぶん迷子になったんですよ」

「は……? いや、マジュリーが方向音……変な方向に歩……方向感覚が優れていないのは知っているけどそれとこれとは関係ないだろう?」


 だいぶ言い直したな。本来は関係ないんだけど、マジュリーの性格を考えると……。


「さしずめ普通に伝えるよりもサプライズでもしようと思って出かけて帰れなくなったとかかな?」

「なんで分かるのよーーー!!!」


 ジーベットさんが口を開けて驚く中、マジュリーの叫びがこだました。


 ―――


 少ししてジーベットさんが事情を把握してからの行動は早かった。食事もほどほどに終え念話機でアイリちゃんに連絡を入れる。


「アイリちゃん。パパだよ! 元気にしてる?」

「私にパパはいません。さような「待って待って待って!」あ! サクラさん! お久しぶりです」


 アイリちゃんの一言で撃沈したジーベットさんに変わって声をかける。するとアイリちゃんは切るのを止めて嬉しそうな声で返事をしてくれた。ジーベットさんに追い打ちが入ったけど気にせずに本題に入る。


「アイリちゃん。お姉さんのマジュリーが見つかったよ。ついでにアイリちゃんの両親はアイリちゃんを捨てたわけではなかったみたい」

「お姉ちゃんが見つかったんだね! 良かった。迷子になってると思ったけど無事に見つかって良かった」

「ぐぅ」


 話をしようと近くに来ていたマジュリーにダメージが入る。


「アイリちゃんもマジュリーが方向音痴だって分かってたんだね」

「ええ、お姉ちゃんはドジっ子さんですから」

「ぐはっ」


 マジュリーが撃沈した……。


「……アイリちゃん。マジュリーの声は……今は聞かせそうにないからマジュリーが復活するまでお話ししようか」

「いいですよ! サクラさんとのお話楽しいです!」

「ありがとう。……お話と言ってすぐになんだけど、鱗の事聞いたよ。アイリちゃんは意味を知ってたの?」

「知ってますよ? 初めて抜けた鱗は特別な魔力が込められているってお話でしょう?」


 知ってたんだ。ならお守りは私じゃなくてマジュリーに……。


「サクラさんに渡したかったの。えへへ」


 えへへ。って可愛い。じゃなくてカトレアちゃんからの視線が痛い。私何もしてないのに……。


「私と同年代・・・の友達っていなくて。初めてのお友達に鱗をあげようと思ってたんだ」

「私だいぶ年上なんだけど……どうしてそう思ったのかな?」


 思わず頬が引きつる。私はもう二十七歳ぞ。人よりもちょっとだけ身長が低いかもしれないけど十五歳の年齢には見られるはずなんだけど? アイリちゃん十歳とかいっても十二歳くらいの見た目をしてるのに……。いや、十二と十五だと同世代なのかな? 私が混乱しているとカトレアちゃんから生暖かい目で見られる。


「年上なわけないよ! だってサクラさん胸無いもん!」

「ぐはっ」


 いや、私は元男だから気にしてないし。ほんとだし。だからカトレアちゃんはその目を止めて?

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