第134話 サクラの元へ

<カトレア視点>


 今朝まで時間が遡る。


「サクラおはよう」


 アイリちゃんを迎えに行った後、海底王国ドメーアの宮殿で泊まっていた私、カトレアはいつもの時間に目が覚める。昨日は子供アイリちゃん相手に大人げなかったわね。なんて考えつつもサクラの返事が無いことに気付く。いつもなら起きて返事をくれるのに風邪でも引いたのかしら。

 疑問に思いつつサクラが寝ているベッドを見るとサクラがいない……。!? サクラが一人で行動することは多いけど何も言わずに一人出かける人じゃない。最低でも書置きがあるはずなのよね。


 部屋の中を見て回っても書置きも言伝もない……。マジュリーさんやジーベット様がサクラを攫った? いえ、それをするメリットは無いはず……。どちらにしろ何か知ってることがあるかもしれないし話を聞きに行きましょう!


 コンコンコンっ


 マジュリーの部屋に行きドアをノックする。中から反応は何も無いわね……。寝てるのかしら? 先にアイリちゃんの所に行く? 流石に国王であるジーベット様の所に一人で行くのは気が咎めるし……。


「はーい」


 ガチャ


 ドアの前で悩んでいるとアイリちゃんがドアを開けてくれた。え? アイリちゃん!?


「あ、あはは。昨日お姉ちゃんが離してくれなくてそのまま一緒に寝ちゃったんです。あ、おはようございます」

「おはよう。あなたも苦労してるのね……」

「なんの用ですか? とりあえず中にどうぞ」


 アイリちゃんに案内されて部屋の中に入る。一国の姫の部屋だけあってやたら広いわね……。所々にクッションやぬいぐるみが置いてあるのはなんでかしら。


「ぬいぐるみが気になりますか?」

「ええ。気にならないと言ったら嘘になるわね。さすがに数が多すぎない?」


 パッと見ただけでも数十。下手したら百個超えてるんじゃないかしら……。部屋が大きいおかげでぬいぐるみに占拠されてる感じはしないけどね。


「お姉ちゃんがよく転ぶので角や転びやすい場所にクッション代わりに置いているんです。地上でも部屋の中がぬいぐるみだらけだったんですよ」

「それはなんと言うか……マジュリーらしいわね?」


 自分で言っててよく分からないわね。まあいいわ。本題に入りましょう。


「それでアイリちゃん。今朝起きたらサクラがいなかったんだけど何か心当たりはあるかしら?」

「私に聞くんですか? あ、それでお姉ちゃんの部屋に来たんですね。少なくとも私に心当たりはないです」

「そう。マジュリーかジーベット様なら何か知ってると思う?」

「どうでしょう。心当たりはないと思いますがなんとも……」


 ま、そうよね。マジュリーを起こそうかしら。


「カトレア。事情なら私が知ってるわ。危険だからあなたは残っていなさい」

「危険ってどういうこと!?」


 リヴィ様が姿を現して警告してくる。危険ってどういうこと? サクラは大丈夫なの!?


「安心しなさい。セレスの契約者なら平気なはずよ。すぐに負けることは無いわ。でも長引くかもしれないから私とマジュリーで現場に向かう。あなた達はお留守番ね」

「私だって鍛えたわ。一緒に連れて行って」


 リヴィとじっと見つめ合う。少ししてリヴィがため息をつく。


「はぁ。これはダメね。止めても無視してついてきそう」

「なら!」

「ごめんなさいね」


 喜んだのも束の間でリヴィの謝罪の言葉をバックに私の意識は無くなった。


 ―――

<リーヴィア視点>


「ごめんなさいね」


 そう言ってカトレアの意識を刈りとる。サクラを迎えに行って帰ってくる頃には起きるでしょう。


「リーヴィア様。カトレアさんは?」

「大丈夫よ。一人で付いてきて私達の戦いに巻き込まれて死なないようにするために寝てもらっただけだからね」


 不安そうにするアイリを宥めてからマジュリーを起こす。この子は寝起きが悪いから少し乱暴にしないと起きないのよね。


 少し高めに浮いてから前足を出してマジュリーのお腹目掛けて急降下する。


「ぐえっ」

「起きたわね。神殿に行くわよ」


 痛い……。とお腹をさすっているマジュリーを急かして準備をさせる。カトレアには平気だと言ったけど嫌な予感がするのよね。あのセレスの契約者である以上サクラが普通じゃないのは理解しているけど実際の強さは知らないし。


「リヴィ。なんで神殿に行くの?」

「サクラが寝てる間に引き寄せられたからよ。前にサクラとカトレアの二人が神殿前に流されたのもアレがサクラを呼び込んだからみたいね」

「ふーん?」


 これは理解してない顔ね……。まあいいわ。アレは私から分離・・した嫉妬の欠片。私の中に封印されていた筈なのにいつの間にか神殿が立ってその中に移動してたのよね……。あれ? 本当に嫉妬の欠片が封印されていたのは私の中だったかしら? 元から神殿があった? ……………………そうね。そうだったわ。私は神殿の守りを頼まれたのだったわね。なんで勘違いしてたのかしら。


「アレは一対一では絶対に勝てないわ。サクラが負けるとは思えないけど魔力切れで追い詰めまれる可能性があるからさっさと行くわよ」

「はーい。アイリちゃんはカトレアを見ていてね」

「うん。早く帰ってきてね」


 アイリに挨拶をして急いで神殿に向かう。ちょっとマジュリー! そっちじゃないわ! そうそうそっち。って戻るんじゃないわよ! 案の定マジュリーが迷子になりつつも何とかドメーアの外に出て、そこからは私が案内してまっすぐ進み神殿に到着する。


「時間がかかっちゃったけど大丈夫かな?」

「…………サクラを信じましょう」


 二人で神殿の内部に入ると景色が海底から草原へと変わる。いつも……いつも? であれば近付いてくるアレが来ない。サクラと交戦中の可能性が高いわね。


「マジュリー」

「うん」


 サクラの居場所は分からないけどマジュリーオリジナルのスキルなら問題ない。


「〜〜〜♪」


 マジュリーがその場で歌い出す。マジュリーは歌に魔力を乗せて全方位に拡散させる事で傷を少しだけ癒したり相手を攻撃することが出来る。便利なんだけど風と水の複合魔法で難易度がとても高いのよ。今回はサクラの居場所を割り出す為の魔法でエコーロケーションと呼んでいるわ。


「いたよ。だいぶ遠いみたい。向こうの方角」


 マジュリーが指さしたのは前方。このまま進めば良いのね。先に方角を示してもらったのはもちろんマジュリーが迷子になる前に場所を把握するためよ。


 マジュリーの示した方向に進むと途中で景色が消滅していた。……草原も青空もまるで境界線があるかのように綺麗な曲線に沿って向こう側が無くなっているわね。


「これってもしかしてアイツが?」

「いや、アレはサシの防御だけは完璧だけど攻撃手段は少なかったはずよ。少なくとも攻撃魔法はなかったはず……」

「そしたらこれをやったのはサクラ?」


 まずいわね……。これほどの攻撃ができるのも意味が分からないけどサクラが一人である限りどれだけ強い魔法を使ってもアレには絶対に効かない。さすがにこの規模の攻撃は乱発出来ないでしょうし…………。魔力が枯渇した所でアレに殴られたら死んでしまうわ。


 水の魔法で道を作ってマジュリーが何も無い空間にも通れるようにしてから再度奥へと進むとサクラの姿が見えた。どうやら劣勢のようね。


「マジュリー!」

「うん!」


 マジュリーが魔力を回復させる歌をサクラに向けて使う。サクラもこっちに気付いたみたいね。


「助けに来たわ」


 さて、共闘と行きましょうか。

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