第129話 海底都市ドメーア
海底王国の目の前であらぬ疑いをかけられているのは私ことサクラ・トレイルである。まさかこんなところでロリコン疑惑をかけられるとは……。
「何度も言ってますがアイリちゃんも知らずに渡しただけだと思いますよ。それにカトレアも貰ってるでしょう?」
「いや、カトレアのは初めての鱗じゃないわ。アイリちゃんが初めてを捧げたのはサクラなの!」
よよよと泣き始めるマジュリー。それは泣き真似じゃないよね? それよりカトレアちゃんが貰った鱗は初物じゃないのか……正直違いが分からない。
「サクラ様。それがですね、ドゥーグ様と一緒にいらっしゃるのであればほぼ間違いなく意味を知っていると思われます。ドゥーグ様は海底王国の学校で校長をしていた御方なので教育はしっかりとしているはずですよ」
校長先生だったのか……。誰とは言わないけど七龍学園の学園長よりもしっかりしてそうだね。それに優しそうだ。
「じゃあアイリちゃんはサクラに一目惚れでもしたのかしら。サクラも黙っていれば顔だけはいいから」
だけを強調しないでくれる? 自覚してるからいいけどさ。どうせ中身はおっさんですよ!
それはさておきアイリちゃんが私達にお守りを渡した理由は一つだよね?
「あの、アイリちゃんは私経由でお守りをマジュリーに渡すために預けただけだと思いますよ」
「そうなの? そうよね! それしかないわ!!」
突然元気になるマジュリーに苦笑する。はは……これで違ったらどうしよう。一気に闇堕ちしそうな雰囲気あるんだよね。マジュリー……。
「そろそろ入ってもいいかしら。アイリちゃんにマジュリーが見つかった報告もしてあげたいし……ゆっくり出来る宿はない?」
「これはこれは失礼いたしました。長らく引き止めてしまい申し訳ございません。私達としておすすめなのは冒険者ギルドの正面にある宿屋ですよ」
「冒険者ギルドがあるの?」
「ええもちろんです。といっても地上のギルドとは独立していますけどね」
なるほどなるほど。遠距離通信は念話で済ませるこの世界だと有線とかの概念が無いのか。後でルアードさんに教えてあげよう。……細かい原理は知らないけど糸電話を見せて光に情報を持たせるとだけ言っておけばハカセが何とかするでしょう。ハカセは勉強出来ないけど発明はできる感覚派の天才タイプだからね……。
「では宿の紹介状でも書きましょうか」
「その必要は無いわ! 私が連れていくから」
「かしこまりました。マジュリー様の推薦があれば紹介状は必要ありませんね。宿の名前は魚涙停です」
え? ネーミングセンス無くない?
「人魚の涙ってお酒が飲み放題なんですよ。それでこんな名前にしたとか」
「え? 大赤字になりそう。どれだけ高級なお店なの?」
「あ、地上ではとても高価な物でしたね。ここではとても安いのですよ。ただ輸送がとても大変でみたいで……。地上で売られている値段はほとんどが運送費です」
なるほど。つまりここで人魚の涙を買い占めて地上で売り捌けば……ふっふっふ。
「サクラ。黒い笑みがこぼれてるわよ」
「おっといけない。人魚の涙はお土産に持って帰れますか?」
「うーん。お土産として買うことは出来ても持って地上に出れるかは微妙なところですね」
アイテムボックスがあれば運送は可能だし魚人族の人達に迷惑がかからないなら売るようでストックしておいても良さそうだね。ま、普通に飲むのも美味しいから飲む用も確保するけど。
「ではおまたせしました。海底王国ドメーア。楽しんでください」
私達は門番さんの言葉に見送られ、海底王国の中へと入っていった。
―――
マジュリーについてドメーアを観光すること数十分。似たような景色が繰り返されると思っていたらずっと同じ場所をぐるぐるしていた……。
「マジュリー?」
「なにかしら?」
「ずっと同じ場所を回ってるんだけど……」
「え? そうだったの? 通りで宮殿が近付かなかったのね」
ここあなたの故郷ですよね? 地元でも迷子になるの?
とりあえず見た感じ一番大きな建物に近付く。きっとそこが宮殿だよね? しばらく歩き、前に見た海底神殿よりも大きな竜宮城のような建物の前にたどり着く。
「そう! ここよ! ここが宮殿なの! サクラはよく分かったわね!」
誰でも分かると思うんだけど……。あれ? 目的地は宮殿だったっけ?
「……サクラ。目的地は宮殿じゃなくて冒険者ギルド正面の魚涙停よ」
あ! 全く違うじゃん!
「ぷぷっ。サクラって抜けてるところあるのね」
マジュリー? 誰のせいで間違えたと思っているのかな? 延々と迷子になったあげく宮殿に近付けないって言ったから宮殿目指したんだよ? マジュリーをしばこうとするとマジュリーとカトレアちゃんの二人からストップがかかる。
「な、なんでサクラが怒るのよ。私関係ないでしょう?」
「諦めなさい。紛らわしいこと言ったのはマジュリーだけど早とちりしたのはサクラよ」
「ぐっ」
そう言われると反論できない……。飲み込むしかないけどモヤモヤするよ……。
「ふっふーん。仕方ないからパパ……お父様に掛け合ってあげる。素直に宮殿に泊まりたかったって言いなさいよね!」
「え、違うけど?」
ドヤ顔してるところ悪いけど宮殿なんて面倒な所に寄るつもりはないよ?
「恥ずかしがらなくて大丈夫! パパは優しいから私の紹介があれば泊めてくれるわ!」
宮殿に向かってマジュリーに背中を押される。カトレアちゃんもため息を吐きつつもついてくる。こうなったら! 諦めるしか無さそうだね……。
観念した私は宮殿の中へと歩き始めた。
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