アフターシナリオ ~海底王国編~

第126話 出航

 夜になりカトレアちゃんと二人部屋を出る。ドゥーグさんは約束を守ってくれているようで周りには人がいない。


「これで落ち着いて出航できるわね」

「そうだね。誰かに見つかる前に出発しようか」


 闇夜に紛れて町を縦断する。たまにはこういうのも楽しくていいね。


 そのまましばらく歩き、海辺で魔動車を出す。


「思っていたよりも滞在したわね」

「そうだね。最初はただ通り抜けるだけの予定だったからね」

「どこに通り抜けるだけの予定だった町で家まで貰っちゃう人がいるのよ」


 ここにいますがなにか? なんならカトレアちゃんもお仲間ですが?


「そうだったかしら……。私もサクラの非常識に侵食されてる? いえ、そんなはずは無いわよね?」

「カトレア?」

「なんでもないわ」

「そ、そっか」


 よく聞こえなかったけどなんでもないならいいよね。


「しゅっこうだーーー!! いたっ」

「うるさい! 夜中に大声出さないの! ひっそり出てる意味がなくなるでしょう!」

「そういうカトレアの方が……いや、なんでもないです」


 据わった目をしたカトレアちゃんにお口をチャックする。船出は必須の様式美なのに……。車だけどね。


 しばらくはドゥーグさんにもらった海図を頼りに車を運転していく。


「港町から離れると辺り一面海だから方角が分からなくなるわね」

「そこは大丈夫。方角が分かる魔道具は用意してあるから」


 いわゆる方位磁針のようなものだ。これは私がもたらしたわけではなく昔からあるものだという。


 見渡す限り海が続く景色になってから数日。途中までは順調だったのに異変が起きるのは唐突だった。


「……カトレア。ここに山なんてあったっけ?」

「そんなものは海図には載ってないわ。ここは海のど真ん中よ」

「じゃあ私達が見てるのは幻? それとも蜃気楼?」

「蜃気楼は知らないけど魔力感知で見れば幻かどうかは判断つくでしょ?」

「ですよね。ははっ」


 乾いた笑いが出てくるけど許してほしい。突然大波が発生したと思ったら目の前に山が現れたのだ。それも断崖絶壁の。決して私の胸の事じゃないからね? いいね?


 現実逃避をしてしまったが何度魔力感知を使ってもこの山が魔物だと示している。もしかして……。クラーケンの成体?


「子供殺した恨みかな?」

「子供って……クラーケンの成体ってこと?」

「そうみたい……」


 カトレアちゃんも大きさと子供を殺した発言から悟ったらしい。さすがに大きすぎないかな? 思わず二人して目が遠くなる。


「はっ! 現実逃避してる場合じゃない! 逃げないと!」


 我に返った私は車を急転換させて急いで逃げる。戦えば倒せると思うけど絶対長引くしめんどくさい。


 しかし現実はそう甘くなく、私達が逃げる速度よりも山サイズのクラーケンが足で魔動車を捕らえる方が早かった。急いでカトレアちゃんと一緒に車からでて大木よりも大きな足の一本を焼き切る。しかし直ぐに次の足に捕まり、再度焼き切るといったいたちごっこになってしまう。何度足を焼き切っても再生して何度も何度も襲ってくる足にカトレアちゃんが捕まりカトレアちゃんに気を取られた私も捕まってしまった。そして車もろとも海底深くに引きずり込まれていった。


 ―――


 ふと眩しくて目が覚める。えっと私は何を……。はっ! カトレアちゃんは!?


 すぐ隣にカトレアちゃんが横たわってるのを見て少し焦ったけど息をしてるのに気づいてホッとする。海に引きずり込まれた時に氷でクラーケンを串刺しにしたおかげか海の中で解放されていたらしい。……なんで海底なのに息ができるんだろう? しかも眩しくて目が覚めたよね?


「カトレア、カトレア。起きて!」

「んぅ? サクラ?」


 寝ぼけたカトレアちゃんも可愛い! じゃなくてカトレアちゃんに今の状況を説明する。とっても分かってることはないけどね……。


「私達を引きずり込んだ張本人はどこに行ったのかしら?」

「車も持ってかれたね……乗るのかな?」


 クラーケンの姿も車の姿も見えない。……車は途中で大破したかな? クラーケンはあの程度の攻撃で死ぬとは思えないけど……。しばらく辺りを散策すると空気と灯りがある空間が一定の半球状に広がっていることが分かった。それと、空気のある範囲には魔物が寄ってこないみたいだ。


「ここで呼吸ができる原因はこの神殿かしら?」


 カトレアちゃんが言うのは空気のある範囲の中心に位置する神殿だ。さしずめ海底神殿とでもいえば良いのだろうか。小さな竜宮城?


「何か祭ってるのかな?」

「神霊様ゆかりの地かしら?」


 確かに神聖な雰囲気がする場所は神霊が関わってる気がするね。……オリディア様だったりするかな?


「中に入ってみる?」

「そうだね。他に行ける場所はないし」


「おじゃましまーす。だれかいますかー?」


 声をかけつつ神殿の扉を開いて中に入る。


「アイリちゃん? いえ、アイリちゃんはここまで来れないわね。あなた達アイリちゃんに何をしたの? どうやってここに来たのよ!」

「ああぁぁぁああ!! 思い出した!!」

「突然人を指さして叫ぶんじゃないわよ!」


 神殿の中にいたのは槍を構えてこちらを睨みつけるアイリの姉。SDSの五周目の主人公であるマジュリー・オリエンテイルその人だった。

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