第125話 五人目の妹

 三日三晩続いたイカパーティーも落ち着き、数日経った今、私ことサクラ・トレイルとカトレアちゃんの二人は出来立ての家に引きこもっていた。


「学園の時のサクラの気持ちが分かったわ……」

「善意だから無下にできないもんね。どこに行っても話しかけられるのは疲れるよ。幸い家にまでは来ないでくれているみたいだけど……」


 今私達はクラーケンを倒し、領主を助け、海賊から解放してくれた救世主として領民から絶大な人気を誇っている。町に一歩でも出ればいろんな人に声をかけられるため気が休まらないのだ。


「そろそろアニエス王国に行きましょうか……」

「そうだね。日付の指定は無かったけどきっと早めの方がいいよね?」

「ただ……素直に外に出してくれるかしら……」

「人気者はツラいね」


 私達が出発すると領民に知れ渡った途端にお見送りパーティーが開催されるか全員に引き留められるかの二択の未来しか見えない……。ひっそりと夜中にでも抜け出すかな? いちおうドゥーグさんにだけ伝えてから出ようか。


 ピンポーン


「とうとう部屋にまで来たの?」


 絶望顔してるカトレアちゃんも可愛い! じゃなくてこの感じは領主様だね。丁度いいから今夜あたりに発つことを話しちゃおうか。ドアを開けて迎え入れる。


「ドゥーグさんいらっしゃい。……アイリちゃん!?」

「お邪魔するよ」

「えへへ。お邪魔します」


 アイリちゃんが領主様に捕食されてるようにしか見えないとびっくりしてる間に二人が部屋に入ってきた。急いでドアを閉めて二人に続く。……あれ? 一応家主は私だよね?


「二人だったのね。お茶を準備してくるわ」


 カトレアちゃんがホッとしつつもお茶の準備を始める。その間に私はドゥーグさんとアイリちゃんの話を聞き始める。


「サクラさんもカトレアさんもぐったりしてますね……」

「ええ。悪気がないのは分かってるんですけどね……」

「お姉さんお疲れ様」


 アイラちゃんがいいこいいこしてくれた。年下に頭を撫でられるのも気恥ずかしいね。

 アイラちゃんに頭を撫でられているとカトレアちゃんがお茶の準備を終え持ってきた。あれ、ちょっと不機嫌?


「さて、本題は何かしら?」


 アイラちゃんは元の席に戻り、カトレアちゃんが私の横に座る。いつもより距離が近くない?


「気のせいよ」

「そ、そっか」


 気のせいだったみたい。気を取り直してドゥーグさんの話を聞く。


「まずは僕から話そうか。まずはギルバードについて。彼はお仲間と共に地下の牢屋に閉じ込めたよ。元々腕っぷしが強かったのもあって、土地を持つことに憧れていたらしいんだけど僕を封印するのにうまくいって調子に乗っちゃったみたいだね。サクラさんのおかげで今はしっかり反省してるよ」


 腕っぷしが強い? そうだったかな?


「サクラを基準にしたらダメよ。みんな弱くなっちゃうわ……」


 私が首を傾げているとカトレアちゃんからツッコミが来た。そんなこと無いと思うんだけどな?


「あっはっは。ギルバードも可哀そうだね。井の中の蛙。サクラさんの言った通りなわけだ。次に領民についてだね、ギルバードにとらわれていた人達も全員無事の確認ができたよ」

「それは良かったです」


 他に気になることはないし今夜発つことを伝えるかな。


「それで、今回の褒美は何が良いかな? 聞いた話だとお金に困ってる様子はないし何をあげるか悩んでしまってね。何も受け取らないのは無しだよ? 僕にもメンツがあるからね」

「そしてら私達が今夜こっそり旅立つので大げさな見送りもなしで周りにばれないようにしてくださいますか? あ、あとアニエス王国までの海図をください」

「あはは……。領民に怒られそうなご褒美だね。もっと欲を出していいと思うけどそれで二人が納得するのなら構わないよ。……そうだ。追加でこれを受け取っておくれ。後で役に立つはずさ」


 ドゥーグさんの足から海図と別で丸い物を受け取った。これは? 半透明に透き通った綺麗な色をした真珠……かな?


「それを海底王国で見せると僕のお気に入りの人間だって示すことができるんだ。君たちが海底王国に行くかは分からないけどぜひ持っておきなさい」

「ありがとうございます」


 へえ。ドゥーグさんは海底王国でも偉い人の一人なのかな? 大切に保管しておこう。アイテムボックスにしまうと今度はアイリちゃんが意を決したように声をかけてきた。


「お姉さん。お姉さんって旅してるんだよね?」

「そうだよ? 旅の話でも聞きたいの?」


 ここ最近はずっと宿のお手伝いをしていたみたいだし外の話でも聞きたいのだろうか。


「お話聞きたい! じゃなくて、えっと……」


 もじもじしだしたけどどうしたのだろう? ドゥーグさんがアイリちゃんの背中を優しく叩くとアイリちゃんは決意の籠った目を向ける。


「アイリのことも一緒に連れて行ってくれませんか? 足手まといになっちゃうかもしれないけど……」


 そ、そうきたか……。どう返事しようかな。


「アイリちゃん。それは何でかしら? 魔物も大人しくなってるとは言え旅は危険なのよ? ただの興味本位ならもっと大きくなって強くなってからにしなさい」


 私が言葉を選んでいる間にカトレアちゃんが返事をした。ちょっときつい言い方かもしれないけどアイリちゃんを想ってのことだよね。


「お姉ちゃんに会いたくて……。お姉さんたちに付いて行けばいつか会えるかもって思ったんです」


 そういえば両親が三年前から旅に出ていてお姉さんもいなくなっちゃったって言ってたっけ。


「やっぱり残念だけど危険だからアイリちゃんを連れていくことはできないわ」

「そんな……」


 カトレアちゃんの返答にアイリちゃんがショックを受けた顔をする。でも、カトレアちゃんの言葉には続きがある。


「でも、あなたのお姉さんを見つけたらアイリちゃんがここにいるって伝えてあげる。それと酒場のマスターが持ってる念話機に連絡を入れてあげるわ。それで我慢できるかしら?」

「はい」


 アイリちゃんの目の端には薄っすら涙が貯まってるけど笑顔で返事をしてくれた。


「それで、アイリちゃんのお姉さんの名前はなんていうの?」

「あ、お姉ちゃんの名前はマジュリーって言います。海底王国にいると思うんですけど……」


 ん? マジュリー? どこかで聞いたような……。


「場所が分かってるなら行けばいいじゃない」

「それは……今は海底王国に近付けないんです。危険な魔物がうろついてるからって」

「そうだったのね。アニエス王国の用事が終わったら海底王国向かってみるわ。サクラもそれでいいでしょう?」


 マジュリー。マジュリー。水色の髪?


「サクラ! 聞いてるの?」

「なななななにかな? 聞いてるよ。アニエス王国を出たら海底王国に行くんだよね?」


 せっかくのどまで出かかっていたのにカトレアちゃんの大声で霧散してしまった。むぅ。


「なに膨れてるのよ。ま、聞いてたのならいいわ」

「アイリちゃんも納得できたみたいだし僕達は退散するよ。今夜発つんだったね。領民には明日に伝えることにするよ」

「「お願いします」」


 ドゥーグさんとアイリちゃんが帰っていき、私達は夜に向けてひと眠りをした。

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