第123話 イカパーティー

 クラーケンを倒した日の夜。港町はお祭り騒ぎになっていた。海に近付かなくても宙に浮いたクラーケンや私の姿、カトレアちゃんが作った火の玉は町からよく見えていたらしい。

 朝までの静けさが嘘のように領民たちは外に出て、私達に礼を言い、クラーケンを食べつつ盛り上がっている。私とカトレアちゃんの二人は主役席に座らされ、次々と運ばれてくる料理を楽しんでいる。しかも酒場のマスターが人魚の涙を飲み放題だと一杯持ってきてくれている。カトレアちゃんはこわごわと一杯飲んで終わりにしていたけど私は五杯くらい飲んでしまった。今日と一昨日だけで家が九つ建てられちゃうね! ……飲みすぎたかな?


「サクラさん。楽しんでいますか?」

「はい。といってもまだギルバードが残っていますが領民にとっても希望が見えたでしょうし今日は楽しみたいと思います」

「そうですね。僕が封印されている間にずいぶんひどい仕打ちを受けていたみたいで……。領民たちの為にも頑張りますよ」


 今日分かったのはドゥーグさんの人気が凄まじいこと。見た目は別としてとても心優しい人だから気持ちは分かるよね。どこぞの領主やどこかの陛下みたいに腹黒くないし。


「それにしても良かったのですか? クラーケンを二体も譲っていただいて。幼体とはいえ売ればかなりのお金になりますよ」

「いえいえ、お金には困っていないので。町の為に使ってください」


 カトレアちゃんが倒したクラーケンは記念に取っておいて、私が倒した二体は町の復興に使って欲しいとドゥーグさんに渡した。家よりも大きいイカを二体も三体も持っていてもアイテムボックスの肥やしになるだけだからね。それよりも何か重要なことを言ってた気がするけど気のせいだよね?


「ド、ドゥーグさん……今日私達が倒したクラーケンは幼体なんですか?」


 あーあー、聞こえなーい。私が気のせいにしようとしたことをカトレアちゃんが聞いてしまった。


「ええ。そうですよ。成体になると今の数十倍の大きさに成長します」


 今日のクラーケンでも家の一つ二つ丸のみにできそうな大きさだったのに……。成体になると町ごと食べられちゃうんじゃ……。もしギルバードが成体のクラーケンも従えていたら不味くない? 大きさはそれだけで武器になるよ?


「ギルバードの所に成体のクラーケンはいますか?」

「あっはっは。さすがにそれはあり得ませんよ。幼体ならまだしも成体になるとご飯の量も馬鹿にならない。餌の用意ができずに本人がパクリと食べられちゃいます。大きすぎて飼う場所もありませんし」

「で、ですよね。あはは……」


 大丈夫? フラグじゃない? ドゥーグさんは封印されてよく知らないんだよね? ただの憶測だよね? ……一応クラーケンの成体と戦う準備もしておこう。


 その日は夜遅くまで盛り上がり、まだまだお祭り騒ぎが続きそうだったけど私とカトレアちゃんは途中で退席して宿に戻り眠りについた。


 コンコンコンっ


 次の日、朝起きてゆっくりしているとドアがノックされる。


「どちらさま?」

「お姉さんたち。アイリです。中に入っても良いですか?」

「どうぞどうぞ。今日はどうしたの?」


 ドアを開けて中に招き入れながら用事について聞いてみる。


「まずはクラーケンの討伐ありがとうございました。それと……私があげたお守りなんですけど……」


 綺麗な鱗のお守り? 返したほうがいいのかな?


「海に出る時はずっと付けておいてください。逆に内陸方面に行くときは隠すようにお願いします」

「分かった。そうするよ」


 私とカトレアちゃんが頷くとアイリちゃんは嬉しそうに笑った後部屋を出ていった。


「なんだったのかしら」

「さあ……」


 海ってことは魚人族になにかあるのかな? あのお守りを持ってると味方だと思ってくれるとか。先にアニエス王国行かないといけないから直ぐには行けないけど海底王国に行くまで大切にしまわないとね。


 午前中まったりした私達だったが、お昼になったのでご飯を兼ねて散歩にでる。今日からはギルバードが来るまでは暇だからしばらく観光の予定だ。

 クラーケンが討伐されたからか領民もみんな外に出ていて町が賑わっている。ただ子供と老人しかいないけどね……。


「今みたいな時にくれば漁村だとは思わないわね」

「まごうこと無き港町だね……あとは若い大人たちが帰ってくれば完璧!」

「そうね。早く助けてあげましょう」


 町を見つつ海岸に移動するとドゥーグさんがゴミ拾いをしていた。


「ドゥーグさん。領主様自らお掃除ですか?」

「そうだよ。今日の朝までみんな騒いでいたんだけどみんな足腰が弱いからね。僕なら足も多くて直ぐにできるし立候補したんだ」

「お手伝いしますか?」

「お願いするよ。お話したいこともあるからね」


 お話? ギルバードのことかな? とりあえずストレージを開いてごみを回収していく。カトレアちゃんは火魔法でごみを焼き払っているね。ゴミ掃除をしながらドゥーグさんの話を聞く。


「おぉ。サクラさんの魔法は便利なんだね。すばらしいよ」

「ありがとうございます。それで話ってなんですか?」

「クラーケン討伐のお礼をしてないと思ってね。何か欲しいものはあるかい?」


 ご褒美ってことだね。特に考えてなかったけど……そうだ。


「家を一つもらえますか? この町に遊びに来た時に泊まるようの家で普段は使わないので小さな物でいいんですが」


 家があればゲートをつなげる良い場所になるよね。


「カトレアは何か欲しいものある?」

「サクラが欲しいものでいいわよ?」

「あっはっは。二人は仲がいいんだね。じゃあカトレアさんへのお礼として家具を一式プレゼントしよう。それだと二人で使えるし貰い過ぎだって気にしなくて済むだろう?」

「「ありがとうございます」」


 その後もお話をしながら掃除を終え、ドゥーグさんと別れた。その日の夜もイカをメイン料理としたパーティーが開かれ、盛り上がった。明日もゴミ拾いになりそうだね……。

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