第122話 クラーケン

 私達は救出したドゥーグさんに町の現状を伝えた。


「そうだったのか。居心地の良い壺だったから長居しちゃったけどさっさと出ておけばよかったね」

「自力で出られたのですか?」

「んー、やっていないと分からないけど出られなかったと思うよ」


 出られんのかい! マイペースというか独特の人? だな……。偉い人ってこういう人しかいないのだろうか……。


「よし、せっかくだし二人に正式に依頼しようかな。ギルバードとクラーケンの討伐。できればギルバードは捕獲して欲しいけど二人の安全第一でよろしくね」

「分かりました。依頼をお受けいたします」

「固くならなくて大丈夫だよ。柔らかくいこうね」


 タコだけに……じゃなくってクラーケンってタコだっけ? イカともいわれてたと思うけどどっちだろう。


「クラーケンはイカの魔物よ。成体になるとかなり巨体になるのが特徴的ね」

「イカか。干物やゲソが美味しいかな?」

「あっはっは。もう勝った時のことを考えるなんてずいぶん余裕そうだね。油断はしちゃいけないよ?」

「はい……」


 注意されてしまった。焼くか茹でるかどっちがいいかな? あ、海の上での戦いだということも考えないといけないね……クラーケンごと海を凍らせたらダメかな?

 私の様子を見ていたカトレアちゃんがドゥーグさんに質問する。


「……ドゥーグ様。一つ質問があるのですがいいですか?」

「もちろんだよ。ちなみに僕はタコの魚人で足は八本だよ」


 足を八本壺から出してゆらゆらさせてるけどそれは見た目で分かっていたかな。


「何も言わずにサクラに任せるとここらの海一帯の生態環境がめちゃくちゃになりそうなので許容できる被害範囲を指定してください」


 な、ナンノコトカナー。そっぽ向いて口笛を吹くとカトレアちゃんがため息を吐いた。ひどい!


「あっはっは。サクラさんは嘘が下手なんだね。うーん。海の幸が取れなくなると大変だからそこを配慮してくれると嬉しいな」

「わ、分かりました」


 氷漬けはあまり良くないかも……。そうなると水魔法で直接捕まえるのが早そうかな。


「では今日準備して明日あたりでクラーケンの討伐に向かいますね」

「よろしくね。僕はみんなに無事を伝えつつ二人の支援をするように、それと明日は海に近付かないよう領民に伝えておくね」


 私がクラーケンの調理……討伐方法を考えてる間に挨拶が終わりドゥーグさんの屋敷を後にした。


 ―――


 宿に戻りカトレアちゃんと一緒にクラーケン退治の計画を練る。


「全部でクラーケンは何体いるの?」

「三体……かな。ずっと一緒にいるから一体ずつ撃破は難しいと思う」

「そう。そしたら私が一体貰っても良い? サクラがやればすぐ終わるかもしれないけど私も経験を積みたいのよ」

「もちろんだよ! でも危険だと思ったらすぐに私を呼んでね?」

「ええ。でも呼ばなくて済むように頑張るわ」


 戦い方を決めたけど、後はどうやっておびき寄せるかが問題だね。


「えさが欲しいけど。何なら食いつくかな?」

「クラーケンも魔物でしょう? 魔力の塊を海面においておけば出てくるんじゃないかしら?」

「それだ! そうだね。その案で行こう」


 あっさりと計画も決まり、ご飯を食べた私達はゆっくりと眠った。


 次の日の朝、宿の食堂で魚介料理を楽しんでいるとアイリちゃんがやってきた。


「お姉さんたち。これをどうぞ」

「これは? 何かの鱗かな?」


 水色の鱗だけど光の反射で濃淡が変わる綺麗な鱗がネックレスに付けられている。見たことない種類の鱗なんだけどなんの種類なんだろう。カトレアちゃんにも同じ物を渡している。


「そうです。今日クラーケンと戦うって領主様から聞きました。お守りとして作ったので是非持っていてください」

「ありがとう」


 お礼に頭を撫でると一度笑ってから従業員の部屋に戻っていった。あ、なんの鱗か教えてもらえなかった……。


 お守りを首にかけ、外へ出るとドゥーグさんがいた。


「「ドゥーグさん。おはようございます」」

「二人ともおはよう。今日は頑張ってね。僕は領民が海に近付かないように見張ってるよ」


 仕事とかは大丈夫なのかな? 気にしなくていいか。


 海辺に辿り着いた私は氷の魔法で氷の橋を架ける。これで暴れても町へ被害は出ないだろう。少し大きめの魔力の塊を三つ海面に設置し、カトレアちゃんとお話をしながら待ってると魔力感知でクラーケンが三体近付いてくるのが分かった。


「カトレア。そろそろ来るよ。準備はいい?」

「ええ。もちろんよ」


 私が風の魔法と空の魔法の組み合わせで空を飛んでカトレアちゃんから距離を置いたタイミングで三つの魔力の塊にクラーケンが食いついた。


「狐火・槍」


 カトレアちゃんが炎を槍に変えてクラーケンを突き刺す。うまく眉間に当たったみたいだけどまだまだ元気そうだ。そのままクラーケンがカトレアちゃんに襲い掛かる。


 私はカトレアちゃんを見つつ水の魔法を使って残りのクラーケンの周りの水を持ち上げる。クラーケンが逃げようとしたため水の周りを凍らせて逃げられなくする。最後に天の魔法で中の水を超速振動で沸騰させて茹でたらお終い。美味しく食べることができそうだね。

 せっかくなのでアイテムボックスの中にクラーケンをしまい、時の魔法で水を沸騰前の状態に戻したら氷も溶かして海へと戻す。


 私が仕留めてる間に、カトレアちゃんが相手しているクラーケンも逃げようとしていたがカトレアちゃんは影の魔法でクラーケンの足を捕縛している。うーん。このままだと足を自切して逃げられそうかな? 手伝おうかと思ったらカトレアちゃんが一際大きな炎を創り出した。


「カトレア!? 海の環境を破壊しちゃダメだよ!」

「分かってるわよ! サクラと一緒にしないでくれる?」


 がーん。カトレアちゃんが冷たい。私が空中で“の”の字を書いているとカトレアちゃんの影がクラーケンの本体を捕らえた。なるほど。さっきの炎は影の面積を増やすために使ったのか。

 カトレアちゃんはそのままクラーケンを持ち上げて先ほど作った炎で炙る。……いい匂いがしてきた。三体いるから一体貰ってイカの料理を作ってもらおう。


 カトレアちゃんが相手していたクラーケンの討伐も無事に終わり私のアイテムボックスにしまう。


「お疲れ様!」


 カトレアちゃんのいる氷に着地し、ハイタッチを交わす。


「サクラは凄いわね。一体相手取るだけでくたくたなのに二体倒しても余裕そうじゃない」

「経験値が違うからね」

「学園にいる時からサクラと一緒に戦えばよかったわ……」


 ちょっと膨れてるカトレアちゃんが可愛い。ニコニコ見てると私が見ているのに気付いたカトレアちゃんに尻尾で叩かれた。それはご褒美です! あ、引かないで……。


 二人でお話をしつつ町まで戻るとドゥーグさんが迎え入れてくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る