第114話 鎮魂歌

 先ほどまでの戦いが嘘のように緩やかな時間を過ごしている私はセレシア。セレスって呼んでね!


 龍馬と話していたけど気になっていることが一つ。


「どうやって母さまに言付けを……むぐぅ」


 ぐぬぬ。質問しようとしたら口を指で摘ままれた。レディに対してその対応は無いんじゃない!? にらみつけると龍馬は苦笑しつつ謝ってくる。


「悪い悪い。ただ話をし過ぎちまった。もうあまり時間が無い。これからは俺の話を聞くことに集中してくれ」


 困った顔をする龍馬にしぶしぶ頷く。私の口から指を離すと龍馬は話を続けた。


「いいか。アービシアはもうすぐで七つの大罪の因子……欠片を回収し終える。そうするとアービシアは復活し、アビスフィアは崩壊する。しかもセレスの母親はこの事態を把握できてない」


 え? それってかなり不味くない? 私の暴走がどうとか言ってる場合でもなかった? というか雑談してる場合じゃなかったじゃん!!


「アビス・シアンの復活までは少し時間があるから気にするな。それでな? サクラが使った祝福スキルに俺も干渉させてもらった。セレスの持っていた怠惰の大罪ベルフェゴール豊穣の神デメテルを統合してスキル鎮魂歌レクイエムにしてもらった。なんでそんな名前のスキルにしたかって? 俺がセレスにはアイドルが似合うと思ったからだ。文句あるか!」


 ……いやいや、文句も何もあいどるなんて私知らないんだけど。


「そうか。アビスフィアにはアイドルなんて文化無かったな! ……セレスの母親がはまってまた怒られそうだしそっちには無い方が良さそうだな。こほん。アイドルっていうのは可愛い子が歌って踊る職業の事だ!」

「えぇ?」


 職業ってことは歌うだけでお金がもらえるってこと? ……吟遊詩人みたいな人の事かな? はっ! もしかして龍馬が私のこと可愛いって言った? 言ったよね? やったー! 思わずニコニコすると顔を一瞬背けた龍馬が話を続ける。


鎮魂歌レクイエムは魂を鎮める歌って意味だ。厳密には死者の安息を願う歌の事なんだが……細かいところは気にすんな。重要なのはこのスキルを使うと過去の世界線で魔王として暴走しているセレスを鎮めることが出来るってことだ」


 !!? それってつまり……。


「このスキルを使えば今の世界だけでなく過去の世界の罪からも解放される。魔王が死ぬと捉えれば鎮魂歌の意味と一致するな」


 ふっ。と気障ったらしく笑う龍馬。それって過去の私からみんなを助けて貰えるの? そっか……。


「ただ一つだけ注意点がある。このスキルは魔王暴走したセレスと結びついている。要は魔王が事前に生まれないように立ち回るのではなく生まれたばかりの魔王を鎮めることしかできないということだ」


 それってつまり……私が暴走する原因サクラの死は防げないってこと? 恩ばかり積みあがって何も返せないなんて……。かなりのショックを受ける。どうにかできないの?


「そんな絶望した顔をするな。大丈夫だ。サクラを救うために俺が干渉したんだ」


 どういうこと?


「俺はアビスフィアの人間じゃないからな。そっちの世界の人の生死にも関与できるんだ。全く、セレスに渡された木の実を飾っておかなくて良かったよ」


 それって……それってつまり?


「俺がセレスの旅に付いて行く。セレスが鎮魂歌レクイエムを使ってセレスを助け、俺がサクラを生き返らせる。すべてがハッピーエンドさ!」


 大げさに表現する龍馬に声を出して笑う。くふふ。いいね! はっぴーえんど!


「さて、そろそろ時間だ。いいか? この世界のアービシアよりも他の世界のアービシアを優先して叩きに行くぞ。この世界のアービシアはサクラに任せればいい」

「サクラにはいつ伝える?」


 せっかく私の為に頑張ってくれたのに休憩もなく次はアービシアを倒すために頑張れ! っていうのは止めてあげたい……。直ぐ教えるとサクラの気が休まらないと思うしどうしよう……。


「そうだな……。レオンを経由して十年後にでも伝わるようにすればいい」

「分かった。そうする」

「やるべきことは把握したな? じゃ、下に戻れ。サクラが待ってるぞ」

「うん。またね」

「おう。またな」


 私の意識は引き上げられ、現実へと戻ってく。確かな希望を持って。


 ―――


 目が覚めて大きなあくびをする。私の羽にはサクラが気持ちよさそうに寄りかかっていた。私が噛みついた場所も光の魔法で治療済みみたいだね。サクラを起こさないようにアービシアの紙を取り出す。黒の魔法の残滓はすっかり消えており、ただの文面になっている。この紙をレオンに渡せば後は対処してくれるだろう。未だぐっすりと眠るサクラの頭を撫で、私も一緒に眠りにつく。おやすみなさい。


 ―――

<アービシア視点>


「仕掛けが破られたか……途中から情報が途切れたな」


 過去の世界の俺から記憶を受け取った俺が最初にしたことは各地に黒の魔法をばらまくこと。思い出したばかりの弱弱しい魔法だったせいで大した量の魔法をばらまくことはできなかったが最低限、要所にばらまくことはできた。

 俺が本体……アビス・シアンとして復活するためには全ての神霊を殺し、大罪の欠片を集める必要がある。この世界だけで全ての神霊を殺すのは難しいが、過去の世界も含めていいのならセレシアを暴走させるだけでいい。あれが暴走すれば大抵の場合抑えるために他の神霊が立ちふさがり、一匹や二匹は勝手に死んでいくからな。記憶によると今までの世界ではそれが上手くいっていたみたいだ。最後の一つは***。途中までは上手くいくと思ったんだが……。ま、時間はまだまだ残ってる。のんびり進めていくとするかな。

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