第113話 天の適正の極致

 サクラの氷の支配ニブルヘイム・改の影響で植物の動きが止まる。でも私には効かないよ? ……さっき他の魔法にかかったばかりだから油断しないけどね!


 魔法がダメならと素手で攻撃を仕掛ける。戦闘形態は全身が武器みたいなものだからね! サクラに接近するとサクラが操る魔力が私の体を覆ってくる。怠惰の大罪ベルフェゴールで魔力を停止怠けさせ、サクラの攻撃を防いだあと距離を取る。ふふん。狙いは良いけど無駄だよね!


 黒の魔法から解放されただけのはずなのにサクラとのつながりが深くなった気がする。お互い、言葉にしてないのに何を考えているか伝わってくる。


『セレス、本気で来てね?』

『……死なないでよ?』


 魔素が停止しているのであれば、魔素を必要としない植物を創るまで! サクラが言う光合成のように自ら魔素を生み出して動く植物を創り出しサクラに攻撃を仕掛ける。サクラが氷華で植物をいなしつつも近付いてくる。いいよ? 返り討ちにしてあげる! 怠惰の大罪ベルフェゴールを使って私の周囲にいる生物の五感を全て消し去る。くふふ。これで魔力感知に頼るよね? ……普通は動けなくなるはずだけど普通に動けるのは正直意味が分からないけどサクラだから仕方ないね! 私の魔力をまとわせた植物を囮にしてサクラの様子を確認する。案の定囮に引っかかったサクラを見てにんまりする。ふっふっふ。どうだ! 私の位置はそこじゃないのだ! 囮に引っかかったはずのサクラがなぜだか笑い出す。まったく。耳も聞こえない筈なのになんで笑えるんだか。


 すこし離れて魔力を纏わせずに植物で攻撃する。攻撃が分からないはずのサクラが横によける。すごい! よく躱したね! 次は躱せるかな? サクラはすごいね! えへへ。こんなに思いっきり動いていいなんて! きっとこのまま暴走してもサクラなら止めてくれる! なら暴走も気にしないで良いよね? しばらく攻撃を続けるけどサクラは躱すだけで攻撃してこない。むむむ。もしかして氷の支配ニブルヘイム・改に集中しすぎて攻撃できないのかな?


『ねえ、氷の支配ニブルヘイム・改は解除した方がいいんじゃない? 私にも私の植物にも効かないし、意味無いよ?』


 私のアドバイスもサクラは無視して攻撃を躱し続ける。……むぅ。サクラなんて知らない! 私に負けちゃっても知らないんだからね!!


 攻撃の密度を一段階上げる。少しずつ攻撃を受け始め、ボロボロになっていくサクラを見て攻撃してる私がハラハラしてくる。でも……龍馬が全力でやれって言ってたんだ! きっとサクラなら大丈夫! 信じるからね! さらに一段階攻撃を増やそうとした時、サクラが新しい魔法を発動する。


魔素の支配ニブルヘイム・真


 魔素が動き出した。魔法の不発? でも違和感がある。とりあえず植物で攻撃を仕掛けるとサクラが火、闇、光の魔法を使い始めた。……!!? 一瞬遅れて理解する。そうか。そうなんだね。サクラはとうとう天の適正の極致に辿り着いたんだね? 天の適正は唯一すべての魔法を使えるようになる特別な適正。空、時の適正と並べられて超級適正なんて言われているけどそれは極致へと至っていない時の話。それまでは時や空よりも使いづらい適正だけど極致に到達した瞬間評価が逆転する。他の適正の魔法を全て使えるからこその“天”を冠した適正なんだ。


 私は植物が創れなくなる。もう何が起きてるのか分からないや。でも、とても誇らしく思う。そろそろ決着がつくね。


「やるね。それでこそサクラだよ!」


 泣きそうになるけどぐっと我慢する。植物を創れない私にできることは少ない。互いに接近して攻撃を仕掛ける。躱されると思いつつも噛みつくとサクラに無理やり受け止められた。私の歯がサクラのお腹に食い込む。え? なんで避けなかったの? 慌てて口を話そうとするけどサクラがしっかりと捕まえてきた。どうして? このままじゃサクラが死んじゃうよ!? 私の思いとは裏腹にサクラは笑顔のままだ。


「戦闘中に相手の心配をしてちゃダメだよ」


 そう言うとサクラは祝福のスキルを使う。なんだろう。心の中が暖かくなっていく。サクラの優しさが流れ込んでくる。死ぬな。生きろとサクラの叫びが伝わってくる。サクラの体が煌めき始め、私のスキルが変化していく。怠惰の大罪ベルフェゴール豊穣の神デメテルが変化し、無くなっていくのを感じる。な、なんてことを!! サクラは今何をしているのか気付いているのだろうか。母さま創造神の創ったスキルを書き換えるなんて……。


 すごいや! そんな発想私にはなかった! まだ魔法の状態ならまだしも、スキルとして定着している物に干渉できるなんて! そうか。だから龍馬は私に全力でやれって言ったんだね? サクラがこの極致に到達するために。これで私は死なずとも暴走せずに済む。魔王はもう暴走しない! 見たかアービシア! これがサクラだ!! 私達の勝利だよ!


 サクラの煌めきが一際大きくなり、眩しくて目をつぶる。


 ―――


 ここはどこだろう。目を開けると私は一人、人の姿を取って知らない世界に立っていた。アビスフィアでもなく、日本でもない知らない世界。キョロキョロとあたりを見回すととても大きな木が見えた。すごいね! 雲の上まで突き抜けていて木のてっぺんが見えないよ! 大きな木を見上げていると突然後ろから聞きなれた声が聞こえてきた。


「よっ。やっと来たな」

「龍馬!!?」


 なんでこんなところに? ここはどこ? 聞きたいことはあるけどとりあえず突進する。


「ぐっ。さすが神霊サマ。力が強いね」

「むむ。女の子に向かって言っていい言葉じゃないよ?」


 まったく、失礼しちゃうよね! そう思いつつもしっかりと龍馬に抱き着いたまま離すつもりは無い。


「ま、とりあえずお疲れさん。大変だったろ。無事でよかった」


 頭を撫でてくれるのは嬉しいけど子供を相手にしているようでちょっと不満だ。


「本当に大変だったんだからね! 本当に、本当に私は死ぬしかないって思ってた……」

「そうかもな。でも大丈夫だった。そうだろ?」


 カッコつける龍馬に少し安心する。息を吸うと広がる龍馬の匂い。幸せだね。……もしやここは天国!? いたっ! 龍馬にデコピンされた! 酷い!


「天国じゃねえよ。それだと俺も死んだことになるだろうが」


 確かに! それは大変だ!! なんてね。しばらくの間、龍馬とおしゃべりをする。つらかったこと。大変だったこと。龍馬の話も聞いた。私の事を後輩にしつこく聞かれて大変だったこと。私と会ってるところを職場の人に見られえてロリコン扱いされたこと。二人で笑いあい、励ましあい、ゆるやかな時間が過ぎていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る