第112話 サクラとの戦い

 部屋の中に入ってきたサクラを向かい入れ、私は告げる。


「……サクラ。待ってたよ」


 サクラが部屋に入り、扉が閉まると私の事をまっすぐと見る。敵意も殺意も籠っていない。まっすぐとした目に思わず見惚れる。私と同じ姿……サクラの方が成長しているけど、似た姿をしてるのに何でサクラはこんなにも強いのだろうか。私がサクラを見つめているとサクラが口を開く。


「セレス、救いに来たよ」

「っ!」


 サクラの言葉に思わず息をのむ。ありがとう。生まれてきてくれて。ありがとう。私と契約してくれて。ありがとう。私を悪夢から解放してくれて。ありがとう。こんな魔王を信じてくれて。ありがとう。ずっと騙してきた私を赦してくれて。おかげで私はこんなにも救われている。サクラになら殺されても良いと思えるのだってサクラが私を……僕を救ってくれたからだ。きっと今この瞬間。敵意も殺意も全くない目線。たったそれだけのことでどれほど僕が救われているのかサクラは気付かないのだろう。


「……すでにサクラは私を救ってくれてるよ」


 思わず口に出してしまった。今は感傷に浸る時間じゃなかったね。


「サクラ。行くよ」

「待って、戦わない方法はないの?」

「……ごめん」


 目一杯探したよ。ローズと約束して、レオンとヴィヴィ、ヴァニティアの協力を得て母さま創造神さえ頼って。それでも見つからなかったんだよ……? 感情を隠すように攻撃を仕掛ける。龍馬の言付けを信じて本気での攻撃だ。それでも私の攻撃はサクラに当たらない。祝福を授ける前ならこれで決まっていたのに……。成長したね。


「セレス! なんで戦わなきゃいけないの!?」

「サクラ? 私は魔王なんだよ? サクラは魔王を倒すために頑張ってきたんでしょう?」


 言ったでしょう? 私は魔王なんだよ? 戦いたくなくても、暴れたくなくても。このままだと半年もせずに私は暴走してしまう。今の僕には戦うしか選択肢は無いんだよ!! サクラが私を殺さずにはいられないように攻撃を強める。


「でも、セレスとは戦いたくないよ! セレスも同じ気持ちなんでしょう?」

「気持ちだけじゃダメなの! 私は……。魔王として討伐されるならサクラに討伐されたい」


 出来ることなら魔王ではなく、セレシアとして。私の大好きな名前が魔王という名に塗りつぶされないように。私の気持ちを反映するように。一回り大きな花を創り出す。早く私を殺さないとサクラが死んじゃうよ? レーザーを発射するけどサクラは氷で鏡を作って光の軌道を逸らす。そんなこともできるんだ。やっぱりサクラはすごいね。こうした攻防の間もサクラは私を説得しようとする。


「魔王としての能力を制御しようよ! 私達の旅でしてくれたみたいに活性化した魔物でも人を襲わないようにできるんでしょう?」


 サクラの修行のために魔物を調整していたの。気付かれていたんだね。そうだよ。今だけならサクラの言う通り魔物を私の意思で操ることはできると思う。でも……。


「さすがサクラだ。気付いてたんだね。でもダメなんだよ。今は良くても最後は抑えきれなくなる。私は……僕はもう人を滅ぼしたくない! もう悲鳴は聞きたくない! 敵意の籠った、殺気の籠った目で見られたくない! 僕はしたくてやってるわけじゃないのに!」


 魔物を操ることで思い出すのは繰り返される滅びた世界。私の意思とは関係なく、私だけを避けて人に襲いかかる魔物達。私の創る植物で逃げ道を塞がれ、魔物によって食われていく人々。恨みの籠った視線。いやだいやだ。僕はもうあんな思いはしたくない。僕が持つ圧倒的な力で誰かを助けるでもなく、蹂躙し尽くすことなんてしたくない。その前にサクラに殺してもらわないと……。やっぱり。僕が救われるためにはサクラに殺されるしかないんだよ……。


「救うというなら! 僕を救ってくれるというなら、サクラが僕を殺して! 化け物としてではなく! 誰かの仇でもなく……。魔王ではなくただの神霊として、サクラの友だちとして。私を殺して」


 攻撃を止め、サクラに懇願する。サクラは優しいから僕の願いを聞いてくれるよね? 逃げかもしれない。ちゃんと僕の罪と向き合わないといけないのかもしれない。でも。でもね? 僕はもう限界が近いんだよ……。それなのにサクラは私の願いを聞いてくれない。


「セレスは誰も傷付けてない! 誰かに敵視される理由なんてない! 未来だって決まったものじゃない! なのになんで全てを諦めてるの? 絶望するのはまだ早いよ!」

「サクラ。人は誰も知らないけれど、この世界は何度も何度も繰り返してるんだ」


 分かった? 僕の手は血にまみれてるんだ。いっぱい人だって傷つけてきた。なんどもなんどもなんどもなんども…………僕の意思は関係ないんだ。ちゃんと、ちゃんとせつめいをしてちゃんところしてもらわないと。


「僕が僕で居られるのはサクラが生きている間だけだ。サクラが僕の魂の欠片を持って、僕の理性として生きてくれているから僕は魔王にならずにいられる。だからサクラが僕を殺さないと僕は救われない。サクラには辛い思いをさせるけど、今までの世界で僕が起こしてきた罪からサクラが救って殺して欲しいな」


 ね? おねがいだよ。ぼくをころして……。サクラがひょうかをかまえるのがみえる。よかった。ちゃんところしてくれるみたいだ。


「セレス、行くよ!」

「サクラ。……ありがとう」


氷の支配ニブルヘイム・改


 部屋の中の魔素が停止する。……? 途端に思考がクリアになってさっきまで頭の中に靄が広がっていたことに気付く。……! ふところにしまった紙に残っていた黒の魔法の残滓消えてる! そうか。黒の魔法に長時間当てられたせいで心が弱っていたのか……。慌てたせいで対処するのを忘れてた……慌てて怠惰の大罪ベルフェゴールで黒の魔法を消す怠けさせる。さすが神の魔法。私のスキルベルフェゴールを貫通するなんて……油断してた。こんなの私らしくなかったね! 改めて、行くよ! サクラ!

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