第111話 決戦の準備
魔国を一人出国し、ハイぺ村に来ているのは私セレシア。セレスって呼んでね!
サクラと別れた翌日にはすでに到着し、ローズの元に立ち寄ることにした。ちゃんとできることは考えたこと。それでもサクラに殺してもらう未来が来そうだということ。希望はまだ捨ててないこと。二人目の母になってくれたローズにしっかりと伝えてから遺跡へと向かいたい。
「あら~。セレスちゃんおはよう~」
「ローズ。おはよう」
「サクラちゃんと一緒じゃないのね~?」
「うん。サクラはもうすぐで帰ってくるよ。それで、今日はローズに伝えたいことがあって先に来たの」
「もしかして愛の告白かしら~? 娘に告白されるなんて困っちゃうわ~」
「ち、違うよ……」
思わず脱力してしまう。そして体に力が入ってたことに気付く。もしやローズはこれが狙いで? 思わずローズを見るけど私の事をニコニコ見てるだけだ……分からないことは考えるだけ無駄だね。
―――
魔国での出来事を一から話した。これから遺跡に向かうところまで話し終えるとローズが一言。
「その男には後で会わせなさい。セレスちゃんに相応しい男か見極めてあげるわ。腕が鳴るわね~」
「え? そこなの?」
まさかの龍馬の言付けの箇所を抜き取ったコメントに思わず顔が熱くなる。
「当り前でしょう? 一番大切なところよ? 私も痛い目を見たからね~」
アービシアの事だね? でもアービシアと龍馬を一緒にしないで欲しい。私が顔を膨らませるとローズが頭を撫でてくれた。そしてそのまま私の事を抱きしめる。えへへ。照れるね。
「頑張ったわね。私の約束を守ってくれてありがとう。セレスちゃんの決断がどうであれ、後悔しないなら私は応援するわ」
「ずるい……」
なにがずるいのかは分からないけどローズはずるい! また泣いちゃったじゃないか! 慈愛の籠った顔で微笑みかけられた私は恥ずかしくなってローズの胸に顔をうずめる。
「うふふ~。母親の特権よ~」
そのまましばらくローズの胸で静かに泣いていた私だったけど遺跡に向かう時間がやってくる。
「もう行っちゃうのね~。サクラちゃんのケアは私に任せなさい! セレスちゃんもちゃんと帰ってくるのよ? ちゃんと相手の男を見極めないといけないんだから!」
「うん。待ってて。とびっきりいい男を連れてきてあげるから!」
その前に龍馬を落とさないといけないけどね!!
―――
ハイぺ村を出て真実の遺跡へと向かう。さて、サクラが来る前にエピゴーネンの鏡を攻略しないとね! レオナとヴィヴィは一年かかっていたっけ? サクラが来るまで恐らく数日。レオンが引き延ばしてくれたとしてもそこまで時間を稼げないと思う。ちゃっちゃとクリアしちゃいましょう! 燃えるね!!
遺跡に足を踏み入れると早速魔力を吸い取られる感覚がしてくる。エピゴーネンの鏡を攻略するのに必要なことは二つ。最短で複製体の場所まで行くこと。魔法の使用を最低限に抑えること。どちらも魔力を鏡に吸い取られないようにするためだ。エピゴーネンの鏡はその性質上、魔力を吸い取れば吸い取るほど厄介になっていくため短期決戦が攻略への一番の近道だったりする。……ヴィヴィに教えてあげれば良かったかな? いや、契約者への補助は基本禁止されてるからヴィヴィに教えても意味なかったね。
ここ一年半でヴァニティアが遺跡の構造を整理してくれていたおかげで直ぐに鏡の前の部屋までたどり着く。ここが試練の間。アービシアとサクラが戦った場所であり、エピゴーネンの複製体が現れる部屋だ。
扉を開けると部屋の中は植物で埋め尽くされていた。……私相手に植物を出すなんて。さすがに舐め過ぎじゃない? 私が複製体に近付くと一斉に襲い掛かってくる植物。でも私にあたる直前にすべての植物は動きを止める。
「いくら複製体とは言え知能が足りないんじゃない? 出直して来なさい」
全ての植物は私に従う。それくらいは知っておかないと私との勝負は成り立たないよ? 魔力の消費もせずに複製体が作った植物を操って反撃する。複製体の私を追い込むと戦闘形態に変化した。すると先ほどよりも大量の植物が生え始めた。
「……数の問題じゃないんだけど」
単調な攻撃にため息を吐きつつ先ほどの再現をする。しかし今度は途中で植物が枯れ始めた。
「
魔力が少なくても範囲で発動する
「
複製体の上部に鉄の堅さと密度を持った巨大な植物を、複製体の下部に細かく、棘の生えた鋭い植物を生やす。これで重力を
複製体が選んだのは串刺しだった。周りの重力が
サクラがやってくるまで部屋で一人眠る。
―――
ここは? 目の前に広がるのは過去の世界。私が蹂躙した世界。私が死んだあとに滅びた世界。私の罪を忘れるな。そう言いたいかのように同じ記憶が繰り返される。敵意の籠った目が、恨みの籠った視線がこちらを向く。ローズが、レオナが、兄弟が……今の世界で仲良くなった人達が私に敵意を向けてくる。記憶だと分かっていても泣きそうになる。魔王として暴走する私は独りぼっちなのだと、そう思わせてくる。嫌だな。私は世界の悪者として殺されちゃうのかな?
そして、場面が切り替わる。
この世界は? 今までの記憶とは似て非なる世界。記憶ではなく唯の夢。そう。唯の夢だ。私の前でサクラが私の前で対峙している。氷華を構え、私をしっかりと見つめてくる。戦ってるのにサクラの目には敵意も殺気もない……。そこでふと気が付く。過去の世界の記憶。その全てでサクラだけは一度も私に敵意を向けていない。私の暴走が始まるのはサクラが死んでから。そう考えると当たり前な事だ。それでも。それでも……だからこそサクラが生まれてから私は悪夢を見る回数が減ったのだろう。私に敵意を向けたことがないサクラがいたからこそ、私は悪夢から解放されていたのだ。
うん。やっぱりサクラと殺し合いなんてしたくないな。事情を知ったサクラは私にどんな目を向けるだろうか。裏切られたと憎しみの籠った目? 魔王なんだと敵意の籠った目? いや、きっと私を助けようとする強い決意の籠った目を向けてくるんだろうな……。きっと、ただ殺してと頼んでもサクラは断ってくる。それなら。私がサクラにきっかけを与えないと。サクラに甘えちゃダメだ。私も殺す気でサクラを攻撃しよう。その結果本気で嫌われたとしても……。サクラに後ろめたさが残らずに私から世界を救えるのならそれで構わない。
ふと、サクラが遺跡に入るのを感じた。そろそろ起きないとね。
―――
私は目を覚まし、サクラを向かい入れる準備をする。といっても起き上がるだけなんだけどね。一度伸びをして扉を見ると紙くずが目の端に映る。あれ? あんな紙なんてあったっけ? ……ふんふん。さっき無重力になった時に漂って重力が戻った時に落ちてきたんだね。中途半端に隠されていたんだね? 一度人型になってから紙を拾うと文字が書かれていたから読んでみる。
*****
アービシアへ
娘が死ねば魔王は暴走する。セレシアを暴走させろ。すでにこの世界の俺が記憶を取り戻したかは知らんがこの手紙を読めば十分だろう。もうすぐ他の世界で欠片の回収が終わる。最後の一つ。お前に託したぞ。
アビス・シアン
*****
「は?」
書かれていたのはアービシアからアービシアへ向けられた文章。そして黒の魔法の残滓。思わず紙を握りつぶす。エピゴーネンの鏡に触れていないのにアービシアが過去の記憶を思い出したのはこれの所為か! というか欠片の回収が終わるって? もしかしてもうすぐアービシアの封印が解けるの? そうなるとこの世界がめちゃくちゃになっちゃう……。
一人パニックになってるとサクラが部屋の目の前に来たのを感じた。慌てて紙をしまう。後でしっかりと読み返そう。今はサクラとの戦いに集中しないと。
頭を振って雑念を追い払う。戦闘形態へと変化し、サクラを向かい入れる。
「……サクラ。待ってたよ」
さあ、魔王の討伐をお願いね?
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