第110話 決断の時

 ヴィヴィ達がエピゴーネンの試練に挑み始めて一年後、サクラの闘技大会五百回連続優勝を目前に控えた今日、ヴィヴィから連絡が入り私とレオン、ヴァニティアを含めて五人で集まった。今日はレオナも一緒に魔国へと来たみたいだ。


「初めまして。レオナードよ。よろしくね」

「レオンだ。よろしく」

「ヴァニティアです。よろしくしたくないですね」

「セレスだよ! 試練の突破おめでとう。それと、私の為にありがとう」


 レオナと挨拶を交わす。ヴァニティアが失礼な態度をとってるけど気にしていないみたいだ。


「ありがとう。張り切ってやらせて貰ったわ。あなたがセレスね。サクラは元気にしてる?」

「サクラを知ってるの?」

「ええ。一度だけ会ったことがあってね。あの子可愛いわね! お持ち帰りしたかったわ」


 へ? もしかしてレオナって危ない人? 手を頬に当てて首を傾げてるだけなのにやたら艶めかしい。目に毒な人だね。ヴィヴィを見ると誇らしげな顔をしている……どこにドヤ顔する要素があるの??


「サクラは元気にしてるよ……最近は元気すぎて闘技大会も五百連勝しそうだよ」

「そうなのね! 魔国の人達は戦闘狂が多いのに。そしたら五百連勝を記念としてサクラを呼びだしましょう! 時期的にも丁度いいし」


 呼び出しの時期が丁度いい? 確かに最初に決めた期限もそろそろだし丁度いいかもしれないけど……。私の様子に気付いたレオナが試練について報告してくれる。


「そうよね。早く試練のご褒美で何を聞いたか知りたいわよね。じゃ、まず結果から教えるわね。創造神様が言うには『私がどうにかできるならとっくに対処してるわよ!』ですって」

「そっか……」


 目の前が真っ暗になる。母さまがそういうなら私が魔王として暴走するのを止める方法が無いのだろう。よくよく考えると母さまにも当然過去の世界の記憶はある可能性が高いわけで……その中で私を助けていないのは助けられなかったから。ということなんだろう。


「レオナとやら。本当にセレシア様が死なずとも暴走しない未来はないのか!? ……結局アービシアから得られた情報もセレシア様のスキルはアービシアの手に渡るかスキルそのものが消失しないとどうしようも無いといったものだったが!! あんまりではないか!!」


 私以上に狼狽えているヴァニティアの敬語が外れていることに苦笑する。


「ヴァニティア。私は大丈夫だよ。最初の予定に戻っただけだよ。すでに覚悟はできてる」

「で、ですが……セレシア様……」


「悲観するにはまだ早いわ。いい? お母さまの言葉には続きがあるわ」


 狼狽えてるヴァニティアをおさめ、ヴィヴィがレオナに続きを促す。


「変なところで区切ってごめんなさいね。創造神様の言葉の続きはこうよ。『私にも未来は分からない。だけど、一言言付けを預かっているわ。『セレスの全てを出し切って戦うと良い。そうすれば道が開けるはずだ』セレスちゃんはどこであの男と知り合ったのかしらね?』やたら気障な男だったらしいわ。心当たりある?」

「っ!! うん! うん!!」


 気障な男!! 龍馬だよね!? なんで母さまに会ったのか、何を知っているのか……気になることは多いけどそんなことはどうでもいい。龍馬が大丈夫だって言うなら私は地獄にだって飛び込める!!


「どうやら私が頑張ったかいはあったみたいね。後は任せたわよ? それと、サクラと会うときはセレスの事を知らない体でいた方が良いのよね?」

「うん。それでお願い」


 嬉しくて尻尾を振ってるとヴィヴィがにやりと笑うのが見えた。……嫌な予感。


「ふーん? おこちゃまなセレスがねぇ。お姉ちゃんに話してみなさい? ほれほれ」

「な、ななななんにもないよ?」

「嘘はダメよ? お姉ちゃんにはお見通しなんだからね? さあ吐きなさい!!」

「う、うにゃあぁああぁぁ」


 うぅ。夢の中であった龍馬との出会いから今までのことを全てヴィヴィに吐かされた。ぐすん。

 ぐったりとした私と顔がつやつやしてるヴィヴィ。それをニコニコ見守るレオナにドン引きのヴァニティア。カオスな空間にため息を吐いたレオンが話をまとめる。


「それで、この後はレオナからサクラに招待状を渡す。その後セレスとサクラで一騎打ち。そこからは流れで進めるってことで良いのか?」

「うん。ヴァニティアは今までありがとう。これからはレオナの下で頑張ってくれる?」

「あら? 良いの?」

「うん。ヴァニティア次第だけど……」


 龍馬が言ったのは道が開ける。とだけだ。もしかしたらその道に乗れないかもしれない。死ぬ可能性がある私にずっと縛り付けるのは良くないと思う。


「わたくしの忠誠はセレシア様にあります。それでも良ければ、セレシア様の命としてレオナ様に仕えましょう」

「それでいいわ。セレスが無事に戻ってきたらセレスの下に戻っていいからね」

「ありがとうございます」


 嫌そうな顔をするヴィヴィに苦笑しつつもレオナに感謝の意を込めてお辞儀をする。その場で解散となり宿へと戻る。


 次の日、無事にサクラが五百連勝を達成し、レオナからの招待状がライラに届けられた。


 ―――


 招待状に従ってサクラと二人、魔国の城に入る。サクラとレオナは本当に面識があったらしく、サクラがレオナを見て驚いている。ヴィヴィと私も姿を現し、茶々を入れつつもサクラとレイラの二人が話を進めていく。サクラが欲しい情報をレオナが与え、再度遊びに来る準備をしてから宿に戻る。私とレオンは既に知ってる情報が多いけどライアスやライラは初めて聞くことが多く、あーだこーだ情報を整理している。


「なんかパッとしないな」

「一年半の苦労には見合わない感じがするね。いろいろと価値のある情報も多いけど肝心なところがね」

「そうだね。でも、魔王さえどうにかできれば魔国との戦争は起きなそうだよ」

「そのようだね。戦争は起きなそうなことと、魔王の腹心が居ないって分かっただけで満足するしかなさそうだね」

「レオナも強いからね。魔王と対峙した時に勝てるかは分からないけど、他の魔族に遅れをとることはまずないと思う。魔王に王の座を奪わらなければ戦争はないよ」


 ……戦争の存在を忘れていた。でも、サクラの考えだと私が魔国の王にならなければ戦争も起きないんだね?


「本当にサクラはそう思うの?」

「セレス?」

「魔王さえ現れなければ、魔国との戦争は起きないと思う?」


 サクラに確認すると私が何か他の懸念があると思ったらしく、逆に質問してきた。


「セレスは何か懸念があるの?」

「……ううん。無いよ」


 念のため怠惰の大罪ベルフェゴールで確認する。……ふんふん。どうやら平気みたいだね。サクラの実力強化も間に合った……。


「……そっか。もう戦争は起きないんだね。……サクラも十分強くなったし」


 後は、後は私が覚悟を決めるだけだね。私はサクラを……龍馬を信じるよ!


「サクラ。後で真実の遺跡に来て。私は先に行ってるから」

「ちょっと待って。真実の遺跡って?」


 そうか。サクラは遺跡の正式名称を知らなかったね。


「サクラ達が太古の遺跡って呼んでる場所だよ」

「一緒に行くじゃ……ダメなの?」

「うん。準備もあるから」

「分かった」


 サクラが戻ってくる前にエピゴーネンの鏡の試練を終わらせておく。私の魂の欠片を持ってるサクラなら私の突破のご褒美を代わりに受け取れるはずだよね? ……ごめんね。私を殺させることになるなんて。でも、強くなってくれて良かった。私もまだ諦めないからね? ごちゃごちゃになる感情を無理やり抑えて一言告げる。


「じゃ、遺跡の一番奥で待ってるよ」

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