第109話 暗中模索

 魔国に来て数日後の夜、ヴィヴィやレオンの二人にヴァニティアを紹介している私はセレシア。セレスって呼んでね。今日は三人の顔合わせと今後の具体的な方針について話し合うよ!


「ふふふ。緊張いたしますね」

「何この虫。気持ち悪いわ」

「ヴァニティア……。生きていたのか……」


 三者三様の反応に苦笑する。レオンは驚いてるね。それもそうか、敵だと思っていた相手が味方だったなんて思わないよね。


「おい、セレス。こいつは遺跡で俺とライアスがサクラを助けるのを邪魔したやつだぞ。信用できない」

「ふふふ。さんざんな言いよう、傷つきますねぇ」

「私がサクラを助けることが出来たのはヴァニティアのおかげだよ。アービシアに怪しまれないようにしつつ遺跡を乗り切るために仕方がなかったんだよ」

「ちっ」


 レオンがふてくされてしまった。それでも文句を言わない以上、納得はしていなくとも認めてくれたのだろう。


「そうだセレス。グリフスの件はごめんなさいね。知らなかったとはいえ悪いことしたわ」

「ううん。気にしてないよ。不幸の事故だし……」


 グリフスがレオナの返り討ちになった件だ。レオナもヴィヴィも知らなかったことだし気にする必要はない。私の命令が悪かっただけだ。


「わたくしが付いて行けば変わりましたかね?」

「そうね。死体が一つから二つに増えたわ」

「ちょっと。喧嘩は止めて」


 グリフスを殺されて私以上に悔しがってるヴァニティアがヴィヴィに嫌味を言い、ヴィヴィが喧嘩を買う。話が進まないよ……。今更だけどヴァニティアを二人に会わせるんじゃなかったね……。


「セレシア様。わたくしは何をすればよろしいですか?」

こっち魔国には私とレオンがいるし、各地での情報集めはヴィヴィとレオナに任せたい。ヴァニティアはアービシアから情報を取れないかな? 私のスキルについてアービシアが知ってることを聞きたい」

「お任せください」

「無茶はしないでね」

「ええ。もちろんですよ。ふふふ」


 そう言ってブルーム王国へ向かうヴァニティア。無茶する気満々か……。ヴァニティアが去ると話を聞いていたヴィヴィから質問が来る。


「セレス。各地での情報集めって?」

「世界を繰り返すことでできてる歪が各地にあると思う。今の世界で魔王がまだ暴れてないのに魔王の伝説が残ってるのは過去の世界の出来事の痕跡が残っているから。もしかしたら私が死んだ後の世界の情報も残ってるかもしれないんだ」

「そう。つまり今まで通り魔王の痕跡を探しつつ、私はセレスのスキルについて過去の世界の後世で分かったことが無いか調べればいいのね」

「うん。お願い」

「じゃ、次の集まりは来週よね? 行ってくるわ」


 ヴィヴィもレオナの元に戻る。今日もレオンと二人残される。


「セレス。他に隠してることは無いな? ここに来てから驚きの連続だ。これ以上は心の準備が欲しい」

「もう無いよ! ……たぶん」

「分かった。しっかりと心の準備をしとくわ」

「酷くない!? 無いっていったのに!!」

「胸に手を当てて考えてみろ」

「むぅ」


 ……ちょっと言い返せないかも。ちょっとだけね?

 宿に戻りつつ私達の方針を話し合う。


「一先ずサクラとライアスを鍛えよう。といっても基本的には闘技大会で実戦経験を積むのが今は一番だから気付いたことのアドバイスがメインになってくるけど」

「二年間か、あいつらセレスより強くなれるのか?」

「サクラなら大丈夫。それと、二年じゃなくて一年と半年だよ」

「あ? 暴走するまでは二年の猶予があるんだろ?」

「最長で、二年だよ。下手したら一年後に暴走してる可能性もあるけどね」

「そうか……」


 私の話を聞いて難しい顔をするレオン。大丈夫。絶対に気合で一年半はもたせるよ!


 ―――


 半年が過ぎた。最初に定めた期限まで後一年。今日も夜中、四人で集まっている。


「今日は曇ってるね」


 せっかくの満月なのに雲が月を覆っていてもったいない。


「呑気なこと言ってる場合かしら? 何も進捗はないのよ?」


 そう、ヴィヴィが言う通り、ここ半年で得られた情報は何もない……。


「セレシア様。申し訳ございません。アービシアも口が堅く……」

「仕方ないよ。一年前ならまだしも今はアービシアも記憶を取り戻してヴァニティアよりも格上の存在になってるからね」


 そもそも私の用意した木の実自白剤が効かない時点で望みは薄い。それでも一番有力な情報源がアービシアである以上、自由に動けてかつ幻影で姿を誤魔化せるヴァニティアが行くしかない。


「サクラとライアスは順調に育っているけどな。サクラなんてすでに俺らに追いついてるんじゃないか?」

「へえ。それは気になるわね。私も早く会いたいわ」


 二人が気を紛らわせようと明るくしているけど空気が重い。後一年、どうしよう……。

 四人で次の行動について話し合ってるとヴィヴィから提案があった。


「……セレス。やっぱりレオナに話をしても良いかしら? 一つ考えがあるの」

「考え?」

「ええ。うまくいくかも一年後に間に合うかも分からないけど……レオナと一緒にエピゴーネンの鏡に挑戦しようと思う」


 挑戦? ……! それってつまり……。


「複製体を倒したうえで鏡に触れるってこと? でも良いの? ご褒美をもらえるのは一度だけだったよね?」

「ええ。事情を聞けばレオナも嫌とは言わないはずよ。それに、もうお母さまに頼る以外に方法は無いと思うの」

「……」


 じっとこちらを見つめてくるヴィヴィに本気だと分かる。お願いしても良いのかな?


「ダメなら提案しないわ。で、どうする? 今まで通りの行動をするか、挑戦してみるか……。セレス。貴方が判断しなさい」

「うん。……お願いします。でも、レオナがご褒美を使うのを嫌がったら無理強いしないでね」

「当り前よ。セレスもレオナも大切だもの。そうと決まれば早速行ってくるわ。……なるべく早く試練をクリアして戻ってくるわね」

「わたくしも、もっと良い拷問がないか、どうすればアービシアの口を割れるか考えてきます。では」


 ヴィヴィとヴァニティアがそれぞれ去っていく。空を見上げるといつの間にか雲は消え、上弦の月が薄っすらと光っているのが見える。


 ヴィヴィから試練を突破したと連絡が来たのは一年後だった。

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