第107話 ヴィヴィリア

 第二の母親ができた私ことセレスはハイぺ村を出発しサクラ達と共に魔国へ向かう。


「セレス。良いことでもあったの?」

「んふー。良いことあったけど何があったのかは秘密だよ!」


 サクラが私の事をモフりつつも上機嫌なことが気になったらしく尋ねてきた。ローズはああいってくれたけど私に真実をサクラに話す決心はつかない。正直私が死なずに魔王として暴走しない方法は未だ思いつかないし、やはりサクラに殺されるしかないとも思っている。……それでも今までよりもずっと前を向けたと思う。心の持ちようでこれほどまでに世界は変わるのだと私も驚いているけどね!


 ―――


 しばらく魔動車に乗り、魔国の王都近くまで来る。少し広めの場所で一度休憩をすることになった。途中途中の魔国のはずれの村は全て立ち寄らず、動きっぱなしだった。食料や水も先にサクラとライアスのアイテムボックスに詰め込んでいたから快適だったけどね。それにしてもアイテムボックスってどうなってるのかな? 私達神霊も持ってないスキルだし……日本には便利なスキルがあるのかな? いや、龍馬のいた世界に魔法は無かったね。むむむ。ん? 転生特典? なにそれ? 日本にはそういった概念があるの? すごいんだねぇ。でもこの世界の魔法やスキルとは違うと思うんだよね……。別世界の魔法というか。……龍馬からのプレゼントだったりして! なんてね?


 冗談はさておき、ライラが角と尻尾のアクセサリーを取り出した。どうやらサクラがつけるらしい。はっ! これは前にサクラが言ってたこすぷれってやつでは!? 私もこすぷれやりたい! サクラとおそろいが良い!!


「はいはーい! 私達にはないの?」

「俺らは姿を消せばいいんだから無くて良いだろう」


 そんなことは知ってるよ? サクラとおそろいにしたいの! レオンもライアスとおそろいがいいでしょう?


「むう。付けたかったのに」

「まあまあ、ブルーム王国に戻ったらルアードさんに頼んでお揃いのアクセサリー作るからね」


 そうだね。生きる方法を見つければサクラと一緒にブルーム王国に戻れるよね。そしたらおそろいのアクセサリー作ろう。サクラに頭を撫でられて目を細める。


 魔国へと入ると綺麗な街並みが見える。サクラ達がおばあちゃんみたいな魔族に話しかけられている。話が長くなりそうだから私とレオンは姿を消して散策だね。……姿を消しているだけあって魔族にも私が魔王だとはばれてないみたい。良かった。ちょっとドキドキしたよ。


 レオンとも別れて一人歩くとヴァニティアの気配を感じる。近くの森に隠れているみたいだね。たしかグリフスの補佐をしに行くって言ってたっけ? ……そういえばアービシアが新しい魔国の王はチビだって言ってたね。ヴァニティアは何か知ってるかな?


「セレシア様。お待ちしておりました」


 ヴァニティアの所へ行くと私に気付いたヴァニティアが跪く。


「グリフスはどうしたの?」

「グリフスは殺されました。どうやら新しい王はグリフスよりも強いみたいです」

「そっか……」


 私の命令でグリフスは死んだのか……。なんだか心に来るものがあるね。


「新しい王の名前はレオナード。前王の娘ですね」

「国王の娘? たしか行方不明じゃなかったっけ?」

「どうやらセレシア様が記憶を取り戻す少し前に戻って来たみたいですね。今は魔王様を探して旅に出てますよ」

「私が魔王だとは知らないのか」


 どうやって探すつもりなんだろう……。グリフスの勧誘をけったってことは魔王に友好的じゃなさそうだね……。


「グリフスから聞き出した話を利用して噂を流したみたいですよ。プライドの高い魔族。その頂点とされる魔王ならプライドを傷つけられたらあぶりだせるとでも思ったのでしょう」


 変なイメージが付いてない? 別にいいけどさ……。あれ? 本人旅に出てるなら分からないんじゃ?


「眷属を城に残しているみたいですよ。他にも魔王と名乗るものが現れたらすぐに連絡がつくようにしているみたいです」


 なるほど。……一先ず無視かな。害は無さそうだしサクラを鍛えるまでは隠しておこう。情報をくれたヴァニティアにお礼を言い、再度別れる。なにか気付いたことがあれば教えてくれるそうだ。

 ……あ! 魔国の王の娘ってもしかして契約者の一人? ヴィヴィに確認しておこう!


 ―――


 部屋に戻り、サクラ達が得た情報を聞きつつ過ごす。夜遅くなり、みんなが寝静まる頃にレオンと二人、目が覚める。


「行くか」

「そうだね」


 満月が煌めく中、レオンと二人で魔国の城へと向かう。城のバルコニーに着くと赤目黒毛の神霊、ヴィヴィリアことヴィヴィがいた。


「久しぶりね。突然どうしたの?」

「うん。久しぶり」


 私達二人が目を覚ましたのはヴィヴィに呼ばれたから。私が入れた連絡に気付いたヴィヴィから念話が飛んできたのだ。


「なんでこんなところにいるのよ。魔国が排他的なの知っているでしょう? 何が目的か知らないけどさっさとパートナーを連れて出ていきなさい」

「あー、そこは大丈夫だ。変装しているからな」

「うんうん。私のパートナーも強いからたとえ見つかったとしても大丈夫! 負けないよ?」


 そっか。私達の契約者を心配して直ぐに来てくれたのか。くふふ。


「……私?」

「ふっふーん。私ももう大人だからね!」

「大人? ……いいえ、気にしないことにするわ。それで本題に入ってくれる? 私も忙しいのよ」


 くふふ。忙しくても私達のために時間を取ってくれるヴィヴィは可愛いね! サクラのいうツンデレさんかな? 痛いっ! ヴィヴィに叩かれた!


「何か失礼なこと言われた気がするわ。話が無いなら帰るわよ?」

「待て待て。俺達が魔国に来たのは魔国の新しい王様が魔王じゃないかと疑ってるからだ。お前の契約者は魔族の姫だったろ? 何か知らないか?」


 あ! そんなこと聞いたら……。


「何馬鹿なこと言ってるの? 新しい王は私のパートナーのレオナよ。魔王なんて関係ないわ」

「なっ! そうか。それが知れたら十分だ。俺達は出ていくよ」

「それが良いわ。じゃ、私は戻るから」


 ど、どうしよう。もし今帰ったらサクラを鍛える前にこの度が終わっちゃう……。


「ま、まって……」

「今度は何?」


 どうしようどうしよう。引き留めたのは良いけど何話すか決めてないや。何かあるかな……。


「そ、そうだ! ヴィヴィのパートナーってどんな人? ちなみに私のパートナーはサクラって言ってね。賢くて頭が良くて可愛いんだよ! しかも時々カッコよくなるんだ! どう? どう? 羨ましい?」

「そんな話をするために連絡を寄こしたの? ちなみに私のパートナーはレオナよ。私に相応しい契約者なの。サクラ? がどんな子か知らないけどレオナには何も勝てないわよ?」

「ふーん? 本当にそう思うの? サクラはとっても強いしモフモフも上手だし知識も豊富なんだよ? サクラがレオナに完勝するに決まってるね!」

「ふんっ。どうせセレスに似てちんちくりんでしょう? レオナの方が圧倒的に上ね!」

「おい、セレスにヴィヴィ。そんなこと話してる場合か?」


 そんなことってどれの事かな? 私とヴィヴィの笑顔の圧に割り込んできたレオンが一瞬で黙る。それにしてもヴィヴィ? サクラが誰に勝てないって? そんなわけないでしょう? サクラは可愛くてカッコよくて強いんだからね?


「はぁ。勝手にしろ」

「レオン。待ちなさい。レオナとサクラ。どっちが上かあなたが判断なさい。公平に頼むわよ?」

「…………」


 レオンが絶望顔してるけど関係ない。負けられない戦いが始まるよ!

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