第106話 サクラの母
サクラ達の魔国へ行く準備ができたため、サクラとライアス、そしてギルマスのライラに私とレオンが付いて行くことになった。ライラが美味しいお菓子を準備してくれるみたい! 楽しみが増えるね! ライラが魔動車を運転し、快適な……最後の旅が始まる。
魔国に行く前にサクラの母がいるハイぺ村に立ち寄る。そういえばサクラの母親とは話をしたことが無いね。……過去の世界で殺し合いをしたから顔は分かるけどね。
「サクラ。サクラのお母様ってどんな人?」
「ん? 母さま? ……そうだね。名前はローズで性格は…………ザ・マイペースだけど優しい人だよ」
「マイペースさで言えばお前らも似たり寄ったりだろう……」
優しい人なんだね! あの世界では酷いことしちゃった……。
「ただ、怒るとめちゃくちゃ怖い。あと、少しでも失礼なこと考えるとばれるから心の中であっても気を付けてね。絶対だよ」
突然真剣な顔したサクラが釘を刺してくる。私は優しい人を怒らせるような神霊じゃないよ! でも、怒ると怖そうなのは分かる。覚醒したばかりで力を取り戻してはいないとはいえ、アービシアを追い詰めていたし暴走状態の私にも攻撃できていた。……怒らせるとやばくない!? 私が魔王だとばれたらどうなるんだろう……。
「ごめんごめん。普通にしていれば怒ったりしないから大丈夫だよ」
私が不安になってるとサクラが頭を撫でてくれた。多分サクラは私の不安要素を勘違いしてるけどどうでもいいよね。えへへ。
しばらくたち、ハイぺ村に到着する。サクラとローズが抱擁を交わしている。ローズも綺麗な人だね。改めて見ると数千年前に一度見かけたエルフの女王に似てる気がするけど気のせいかな?
ピャッ!!? 寒気が!!? 一瞬で全身の毛が逆立つ。ローズの方向を向くとサクラにニッコリと笑いかけてるけど……。目が笑って無くない? 私が恐々としてると直ぐに寒気が無くなった。どうやらサクラが一瞬地雷を踏みかけて回避したようだ。それにしてもサクラはローズが大好きなんだね! 私も死ぬ前に一度母さま会いたくなってきた......。首を横に振る。母さまは忙しい。私が邪魔するわけにはいかないよね。
ご飯をみんなで食べた後一泊する。今日は母娘の時間を取ってあげるかとサクラの元を離れるとローズに声をかけられた。……私姿消してたよね? なんで居場所分かるの?
「それは私がサクラのお母さまだからよ~」
おそるべし母の力……あれ? 私関係なくない?
「細かいことはどうでもいいわ~。一緒に来てちょうだい?」
「う、うん」
私を神霊だと知ってもこんな態度を取れるのは契約者以外には少ないから驚きだね。勘違いした時の王族や神霊を見下した貴族がふざけた態度をとることがあるけどローズは敬意を持ちつつもフランクに接してきている。これも人柄のおかげかな?
―――
ローズに付いて行き近くの森に入る。人気が少ないところへと移動するとローズが口を開く。
「セレスちゃん。貴方は私達に何をしたか覚えてる?」
「っ!!?」
ローズの雰囲気が変わる。今までのほんわかした空気ではなく張り詰めた空気に息ができない。敵意を含んだ目に体が竦む。
「どうやら貴方も覚えているようね。私とサクラちゃんを串刺しにしたこと」
「な、なんで……」
やっとのこと言葉を絞り出す。なんで過去の世界の記憶を持っているの?
「知らなかった? 母は娘のためなら何でもできるのよ? 創造神様の試練を突破することだって……ね」
そうか、真実の遺跡……他の場所かもしれないけどエピゴーネンの鏡の試練を突破したのか。それは……私を信用できないよね。
「ローズ……あの世界ではごめんなさい。私の事は信じられないかも知れないけど事情を話すから……私にあの時の復讐をしたかったらせめて最後まで話を……いたっ!」
私が過去の出来事を謝って事情を説明しようとすると途中でローズの雰囲気がほんわかした物に戻りデコピンされた。痛い! なんで? ただのデコピンなのに!
「母の愛よ!」
私が頭をさすっているとドヤ顔で宣言された……。母って怖い……。
「それで? 事情ってなにかしら~?」
「へ? あ、うん。えっとね?」
ローズの変わりように戸惑ったけどすでに知っていることもあるかもと前置きしたうえで一から説明をしていく。世界が繰り返されていること。一周目の世界、アービシアに助けられたと勘違いした私が二周目の世界でアービシアを攻撃してるローズを見て咄嗟に攻撃してしまったこと。三周目以降はアービシアと対立していること。今までの世界では私がサクラと出会う前、記憶を取り戻す前にサクラが死んでしまっていたため面識がなかったけど今回は出会うことが出来た上に記憶を取り戻したこと。……私が御伽噺の魔王であること。サクラが死ぬことが引き金となって私の意思に関係なく暴走してしまうこと。
そして今回、サクラを鍛えてサクラに殺されるつもりであること。
私の説明が終わり、しばらくの間沈黙が落ちる。先に沈黙を破ったのはローズだった。
「……そうだったのね~」
「うん。信じられないかもしれないけど……」
自分と娘を殺した相手の言うことだ。信じられなくても仕方がないだろう。私はサクラの元から離れた方が良いかな? お膳立てだって終わってる。魔国で鍛えれば私の助けが無くてもサクラは私を倒せるほどに強くなれるだろう。レオンに事情を説明して私は一人遺跡で待とうかな? いたっ!! 私がこれからどうするか考えているとまたローズにデコピンされた。だからなんで痛いの!?
「暗い顔しなくて良いわよ~。これからもサクラちゃんをよろしくね?」
「え? ……私はサクラと一緒にいてもいいの? 私を信じてくれるの?」
本当に? まだ一緒にいられるの?
「もちろんよ~。最初に謝罪してくれたもの~。それにサクラちゃんからね。念話機で良く連絡が来るのよ~。お話の内容はカトレアちゃんの事が多いのだけど、それと同じくらいセレスちゃんのお話も多いのよ~?」
「そ、そうだったんだ……」
「サクラちゃんがあれだけ信用しているんだもの。私もセレスちゃんを信じてみるわ~」
ローズの言葉に思わず照れてしまう。サクラ! ありがとう!! おかげでまだ一緒にいられるよ!
「ただし! 一つだけ条件があります!」
「じょ、条件……?」
口調がまた変わったローズに思わず体をこわばらせる。どんな条件だろう。やっぱり私の事を信用してなくて無理難題を押し付けてくるとかかな?
「そう。それは。サクラちゃんに殺されない未来を模索すること! 決してサクラちゃんとセレスちゃんの二人が生き延びる未来を諦めないこと! 分かったかしら?」
「そ、それは……」
「い い わ ね ?」
「ひゃいいい!」
私が口ごもると笑顔で圧をかけてきた。反射的に返事をする。こ、怖いよぉ。尻尾を抱えて震える。
「セレスちゃん。言質は取ったわよ~?」
「はひ……」
念を押してくるローズに泣きそうになる。私は生き延びる未来を考えても良いの? これが最後の旅だと言わずにこれから先もサクラと一緒に生きていいの? でも、私は魔王として暴走しちゃうんだよ? 世界を滅ぼすような存在なんだよ?
「いいのよ。人間であろうと神霊であろうと生きていきたいと思うのは罪じゃないわ」
「う゛ん……。ぐすっ」
頭を撫でつつ肯定してくれるローズに涙が止まらない。
「考えて考えて考えて。それでも……それでもセレスちゃんがサクラちゃんに殺されるしか選択肢がないのなら私にいってちょうだい。サクラちゃんのパートナーであればセレスちゃんも私の娘だもの。話くらい聞くわよ~」
「う゛ん……う゛んっ」
その日、私が泣き止むまで
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