第102話 力の片鱗

 祝福を授ける為の試練で心を鬼にしてサクラを攻撃しているのは私セレシア。セレスって呼んでね! ちょっと楽しくなってきてなんていないんだからね! くふふ。私の攻撃をちゃんと躱せて凄いね! でも、守ってばかりは頂けないかな。


「どうしたの? 魔王を倒したいんでしょ? 守ってばかりじゃ勝てないよ?」


 ちゃんと私にダメージを与えられないと魔王は倒せないよ? 少しだけ攻撃に転じて来たけどサクラの癖はよく分かってる。もっと攻撃に集中しないと意味ないよ? サクラは天の適正を持ってるのに魔法の使い方の幅が狭い。もっと視野を広げられないと天の適正の極致へは至れない。


「サクラの弱点は分かるからね。そう簡単には負けないよ?」


 心を鬼にしてサクラの氷華対策として冷気に強い、それこそ絶対零度に限りなく近い温度まで下げないと問題なく動く植物を創る。これだけでサクラの氷華対策はお終い。サクラは気付いて無いけど斬撃対策として私に近い植物ほど固く、頑丈に、ゴムのように柔軟なものとなっている。

 氷華を封じるた時にサクラがよくやる戦闘方法は相手の魔法の乗っ取りだけど……こちらは対策すら必要が無い。私が今使ってるのは豊穣の神デメテルつまり植物だ。いくらサクラが植物を乗っ取ろうとも植物が植物を司る私を傷付けることは決して無いのだから……。


 さて、サクラはどうするかな? 効かないと分かってる力でゴリ押しする? 今のままできる事を試してみる? まさか、諦めたりはしないよね? 一度サクラの頭を整理させるために攻撃を止める。頭のいいサクラなら私の意図に気付くと思う。


「えげつな……」

「容赦がないの……」


 外野! うるさい!! 祝福の試練としてはキツイかも知れないけどサクラを本気で鍛えるいい機会なの!


「よそはよそうちはうちだよ!」

「えぇ……」


 ほら! サクラのやる気が削がれたらどうするのさ!


氷の世界ニブルヘイム


 良かった。無駄な心配だったようだ。でも氷じゃ今までの繰り返しに……!?

 植物が動かない……。凍りついて無いのになんで? 見えない壁……いや、透明の氷が植物を覆っているのか。むむむ。やるね? でも、私がして欲しいのは小手先の対処じゃないんだよね。

 私が考えをまとめている間にサクラが肉薄してくる。……仕方ない。サクラなら大丈夫だよね? 怠惰の大罪ベルフェゴール


 途端にサクラが動きを止める。走っていたサクラはそのまま前のめりに倒れる。……使っちゃった。流石に手加減をして身体が動かなくなる怠けるだけに留めたけどね。いや、サクラなら今の状況でも諦めないはず。むしろここまで追い込んだ方が成長するはず。……するよね? 最終的にはこの感覚も味わっておいて貰わないと本番で心が折れたら大変だもんね? 誰にとも言わず言い訳をしつつも植物を動かす。もう心を鬼にし過ぎて心が大鬼になってるけどサクラの脇の甘さを指摘する。一度止めたからって完全に興味を無くすのはダメだよね。植物からトゲを生やして氷の壁を砕く。これでまた植物を動かせる。

 そうれ! サクラはどうするかな? ワクワクしつつ植物をサクラに向かわせる。すると植物が当たる直前にサクラが吹き飛んだ。よく見ると手足に氷の輪っかが付いている。おおー! 面白い発想だね!


「すごいね! そんな方法があったなんて! でも動きに精彩が欠けてるよ?」


 点で体を動かすのは意外と難しい。例え要所要所を自在に操れるとしてもだ。とういうかサクラはなんで普通に動けてるの? 流石にさっきより動きが鈍いけど異常じゃない!?

 おっと! サクラが動けない範囲ベルフェゴールから出ていった。これは有効範囲もバレちゃったかな? ま、バレても近付けば良いだけなんだよね! サクラが捌けるギリギリの速度で攻撃する。そろそろ天の適正で操れる物がまだあることに気付頃くかな? 動きの変化を見極めてサクラの攻撃を躱す。いたっ! ちょっとだけ当たった! 思ってた以上に速くなった! くふふ。これで祝福の試練は突破だけど隠しとこ! サクラも良い感じになってきてるし止めるのは野暮ってものだよね? ちょっとだけ本気を出しても良いかな? 良いよね? 誰も止めないよね? くふふふふ。少しずつ攻撃を速く、重いものにシフトして行く。凄い凄い! まだ付いてくる! まだ行ける? おお! 付いてきた!!


「すごいすごい! もっと頑張って!」


 だんだん楽しくなってきたね! サクラも楽しいでしょう? 徐々にギアを上げて、ギアを上げて……もっと! もうちょっと! まだまだ! もう少し…………はっ! しまった! ついやりすぎた! どうしよう……サクラが!

 楽しくなってギアを上げすぎた結果今のサクラには捌ききれない物量の攻撃をしてしまった……。焦ってサクラを見る。……?


氷の支配ニブルヘイム・改


 突如魔素が凍りつき魔力で構成された植物が全て霧散した……。な、何今の……。サクラは今の一撃? で力を使い果たしたのか膝から崩れ落ちた。


「今のはなんだ?」

「天の適正なの。極致にでも至ったの?」


 レオンとジークも驚いている。もちろん私もだ。……ふんふん。天の適正の新しい使い方だけど残念ながら極致には後一歩届いてないみたい。でも凄いや! これは本当に私を殺せるんじゃない?


「あー、セレス。……最後のよくわからんやつは目を見張る物だったけど残念なから試練は失格か?」


 祝福の試練は契約者と神霊で勝負を行い、契約者が神霊に一撃を入れることで突破となる。……もちろんサクラは合格だ。


「いや、実は私が猛攻を仕掛ける前くらいに一発貰ってたの」


 えへへ。と笑うとレオンのこめかみに血管が浮かび上がる。


「こんのドアホがーー! ……まさかとは思うが一撃貰って楽しくなっちゃったとか言わないよな?」

「そ、そんなわけないし? 私が攻撃量増やしてもいつまでも凌いでいたから嬉しくなっちゃったとかじゃないし?」


 気まずくなって目を逸らす。いや、サクラを鍛えるためであって私が楽しかったからじゃないよ。ホントだよ! ……うぅ。レオンに拳骨落とされたしかもわざわざ戦闘形態になって!! 酷くない!? え? 自業自得と? むぅ。


「二人ともふざけてる場合じゃないの。ここからが本番なの」

「ふ、ふざけてるわけじゃ……いや、なんでもないです……」


 二人からの風当たりが強い! もうふてくされちゃうもんね? レオンもジークも知らないもんね!


「見届け人の役目を放棄するぞ?」

「ごめんなさい!!!」


 うんうん。素直に謝るのが一番だよね!


「それで、セレスは本気なの? サクラが死ぬ可能性が高いと思うの」

「もちろん本気だよ。それにサクラは死なないから大丈夫」

「母上が関わってくる以上スキルでも見れないんだよな? なんで断言できるんだ?」


 怠惰の大罪ベルフェゴールは努力すれば知ることが出来ることや記憶の片隅に残ってる情報を整理すると導き出せる答えは一瞬で導き出すことができるけど、全く知らない事、知りようが無いことは知ることが出来ない。そして、お母さまのように私よりも上位の存在……といっても神様しかいないけど……が干渉する事象も知ることはできない。でも殺意の籠った黒の魔法にも耐えきったサクラが今ではさらに成長したのだ。サクラの為を想った白の魔法を受けても耐えきれるだろう。


「二人もサクラが使った最後の魔法を見たでしょ? あれ一つだけで大丈夫だと思わない?」

「なんかはぐらかされてる気がするんだよな……」

「諦めるの。こうなったらセレスは何しても口を割らないの」


 さっすがジーク! よく分かってるね! ニコニコ顔になった私を見てレオンがため息を吐くとサクラが目を覚ました。

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